第178話 11枚目:鬼神防衛戦

 さて現在のフェーズというかステージの目的は、周囲から押し寄せる肉壁扱いの「軍勢」とその後ろから飛んでくる「水の術」を防御しつつ、“角掲げる鉄火にして卜占”の神が封じられたという権能の象徴、「金棒」と「火の術」を取り戻す、という事だ。

 でまぁ、地上の「軍勢」はエルルが相手をして、飛んでくる「水の術」は私が対処すれば防御としては問題ない。それが上手く行っているからかまだ本調子ではないからか、“角掲げる鉄火にして卜占”の神が動く様子を見せないのも楽に行っている一因だろう。

 さて。そして楽に行っているから順調か、というと……これが、違うんだよなぁ。


「お嬢!」

『なんです!?』

「ほんとにこの中のどっかに金棒があるのか!?」

『「第一候補」の推測では、ですよ!』


 そう。“角掲げる鉄火にして卜占”の神が動かないという事は、必要な武器が取り戻せていないという事だ。私も上空からそれっぽい物が無いか探しているのだが、夜明け前の一番暗い時間だというのを差し引いても見つからない。

 これは、たぶんだが、何かフラグか仕掛けを見落としてる可能性が高いのではないだろうか。あー、カバーさんにちょっとこの状況を俯瞰してもらいたい。

 とはいえ今カバーさん達『本の虫』は、丸1ヵ月続くレイドボスお披露目イベントにかかりきりだろう。……月が半分以上過ぎていて一回も撃破報告が出てないって辺り、その難易度はお察しと言うやつなのだが。


『というか、現在の魔物種族に、現在の人間種族が敵う訳ないんですよねぇ……。さてそれはそれとして、と。――「第一候補」、今宜しいでしょうか?』

『手短に頼む』

『「火の術」らしき存在と金棒と思わしき物、地上及び上空からでは見つかりません。そちらの捜索状況はどうなっていますか』

『芳しくないな』


 【無音詠唱】で【風古代魔法】を詠唱し、しつこく飛んでくる大きな水球を風のハンマーで殴り飛ばす。次の魔法を準備しながらウィスパーを繋いで「第一候補」にそんな確認を取ると、端的な答えが返って来た。


『こちらでも探してはいる。だが、返却された宝物の中にもそれらしき物は無く、現在可能な限り周辺やその乱戦の中も捜索中だが結果は同じだ』

『“角掲げる鉄火にして卜占”の神はまだ本調子ではないままですか?』

『で、あるな。呼びかけてはおるのだが、どうにもはっきりした手ごたえがない』


 なるほど、あっちでも探したうえでそれっぽい物が無いと。そして“角掲げる鉄火にして卜占”の神もまだ寝ぼけゲフン本調子じゃないと。

 うーんどうしたもんか。時間経過で状況が変わることに期待するか? いやどうだろう。一定時間耐えるっていうのはさっきやったし、連続でそうなるとは思えない。どっちかっていうと時間制限がある感じのボス戦じゃないかな。

 じゃあ何を見落としてる? というかそもそも金棒が見つからないってのが違和感だな。「火の術」はともかく。だってこの見上げるような大きさの鬼神様が使うサイズなら、それこそ「軍勢」に埋もれていようが見えなきゃおかしいじゃないか。


『……、まさか。――「第一候補」』

『何だ?』

『封印当時この地域を支配していた人間種族と言うのは、他の場所でも戦争を・・・・・・・・・していませんでしたか・・・・・・・・・・?』

『!? それは――いや、すぐに調べる。しばし待て』


 ウィスパーなら平気なんだけどなってダメだ姿を連想するな。イメージは第1回イベントの姿で! 少なくとも今思い出しちゃダメだ緊張が切れる!

 さてそれはともかく、これで何度目の確認になるか分からないが“角掲げる鉄火にして卜占”の神は、この地域に「製鉄技術を持ち込んだ」神だ。だからこそ鍛冶師、鉄を扱う全ての鬼族及び神の元締めと言うか、最上位に位置する訳だ。

 で。聞く限り、その当時の人間種族はこの神を「最初から封印するつもりで」かかった可能性が高い。まぁ支配者的には自分より上位になりそうな相手は封じるのが定石だろうが、それにしたってあまりに徹底している。


『当たりだ、「第三候補」』

『嫌な予感がしたんですよね。だってつまり、それ自体が非常に良質な鉄の塊でしょうし』


 なら、だ。その「目的」も凡そ絞られる。例えば……「戦争に使う大量の鉄が欲しかった」とかな。

 つまり、“角掲げる鉄火にして卜占”の神の金棒は封印のどさくさに紛れて奪い取られ、とっくに溶かされて消費されていたという事だ。敵扱いしていたとは言え、神の武器、それも権能を象徴するそれを壊して素材として使うとか、ある意味肝が据わっている。


『よって方針を転換する。「第三候補」』

『でしょうね。どうするんです?』

『鬼族に伝えた所、「ならば作って奉じる」との事だ。幸い神自身が全身顕現している故、その体格や身長から寸法を割り出し、作成すると』

『今からですか。いえまぁ、ある意味思い切りが良いのでしょうが。分かりました。完成までの耐久戦ですね?』

『それに加え、迎撃に出来るだけ火属性を使ってもらいたい。「鉄」という権能の象徴がその様子では、「火」の方もどれほど影響が出ているか分からん。よって、外から継ぎ足す必要がある可能性が高い。少なくとも、呼び水程度には必要だろう』

『なるほど、理が通っていますね』


 ウィスパーで会話している間にも水球は飛んできている。それを、今回は間に合わないので【風古代魔法】で迎撃してから、インベントリから大粒のルビーを取り出して飲み込んだ。

 宝石なのにもっちりしてる不思議な味だから出来れば味わいたいんだけど、非常時だから仕方ないね。


『エルル! これ以後延焼と熱に注意してください!』

「マジか!?」

『「第一候補」の指示で火属性を使う事になりましたので!』

「なるほど、了解!」


 地上のエルルに端的に状況の変化を伝え、その反対側へと顔を向ける。正確には完全な火属性じゃない訳だが、火も熱も必要ならとりあえずだ。


「キュァアアアアアッッ!」


 僅かに赤みがかった銀色のブレスで、エルルがいない方向の「軍勢」を薙ぎ払った。吹き飛ばされ、泥人形が崩れるように形を無くした「軍勢」の残骸に、上空からでも分かる程度の炎が広がっていく。

 食べた宝石によってブレスには色々追加効果が乗る。火が必要だというなら、炎上の状態異常はいくらか足しになるだろう。

 【火古代魔法】がメインに入っていることを確認して、即座に詠唱開始。火で水を相殺するとなるとキツいが、そこはまぁステータスの暴力でゴリ押すしかない。


「キュッ(さて)――[渦巻き逆巻き猛る炎は輪を成して]」


 鬼族の皆さんによる金棒の作成がどれぐらいかかるかは分からないが、とりあえず周囲の「軍勢」を火の海に変えるぐらいはした方が良いんだろうか?

 ……それだとこの辺一帯が焼け野原になっちゃうか。加減が難しいな。

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