第176話 11枚目:蝙蝠撃退戦
何だか気づいちゃいけない事実に気づいちゃった気もするが、仕方ない。急に成長は出来ないんだから諦めて切り替えよう。やるべき事が出来ればオッケーなんだ。
周囲はやや傾いた月の光と、あちこちに設置された篝火があってもまだ暗いが、カンスト【暗視】があるので視界に問題は無い。すごいね。カンストすると控えに回した時の効果が1%じゃなくて5割になるんだって。半分も効果が出るってすごくない?
まぁそうじゃなきゃ上限レベルの低いスキルがお荷物になっちゃうから、バランスとしてはちょうどいいんじゃないだろうか。誰もが習得はしたいけど控えに回したい防御・耐性スキルはどれもこれも上限レベルが高いし。
『おや』
「始まったか」
現在位置は伝承にあった場所の1つ、“角掲げる鉄火にして卜占”の神がその身を梟に変えて逃げ込んだという森の入り口だ。ここで蝙蝠の群れに捕まったと伝承にはあるので、森の中で梟を避けて蝙蝠を倒せば良いのだろう。
私がやると森が更地になってしまいそうなので、ここはエルルにお任せの予定だ。もちろんエルルへのバフや蝙蝠へのデバフはかけるし、梟の防御も担当する事になっている。
ざわざわ、と、森自体がざわめくような空気の変化に出番を察知。エルルは「淡月・朔」……ではなく、同じ大きさ、長さ、重心で作られた、数打ちの大太刀を構える。
「さーて……蝙蝠の群れって事だったが」
『蝙蝠にも色々居ますからねぇ……』
私は【飛行】をメインにいれた状態でエルルの右肩の上だ。戦闘が始まったら自分で飛ぶつもりをしている。なお、今回防御として【吸引領域】を展開するのは無し。周りに巻き込んじゃいけない物が多すぎるからね。
エルルに掛けるのと同じバフを自分にもかけて、あとはステータス頼りとなるだろう。……神本体の攻撃に巻き込まれるとかならともかく、数が多いだけで一発一発の攻撃力が低いなら、それこそステータス差で通らない気もするが。
まぁ、油断は良くない。と、しっかりバフをかけた先で……闇の中から、こちらへと一直線に飛んでくる影が見えた。
『先頭が梟、後続は全て蝙蝠ですね。100は越えていそうです。というか、梟より大きな蝙蝠って色々間違ってません?』
「まぁ普通の大きさだったら数が居ようと蝙蝠が梟に勝てる訳無いだろうし、そもそも本当の蝙蝠かどうかが怪しいもんだけどな」
『確かに。接触まであと10秒ほどです』
「了解」
飛んでくる梟は流石、羽音どころか風を切る音すら聞こえないのだが、その後続である大きな蝙蝠たちはバサバサと大変うるさい。しかもその目が赤く光っているので、やっぱり動物としての蝙蝠とは何か違うのだろう。
まぁ比較対象になっている梟もだいぶ大きいんだけどね。色合いとかから考えると、ちょっと赤っぽいだけで普通のフクロウに見えるんだけど、どうもサイズが大きいんだよね。
まぁとりあえずその梟がこっちを睨みつつ通りすがりに爪でざっくりやる覚悟を決めているみたいなので、接触3秒前に
「[シールド]! [アクセル]! [ビートヒーリング]!」
それぞれ、防御、速度、回復力を上げるバフだ。フリアド世界でも辻ヒールや辻バフというのはあるようで、戦闘に割り込む場合、助太刀目的ならまずそれらをかけるのがマナーとなっているらしい。
エルルの肩に乗った私からそれらが飛んできた、というのは分かったらしく、梟は若干目を開いて、出しかけていた爪を引っ込めてくれた。どうやら無事助太刀だと認識されたようだ。
私が肩に乗っているとエルルの邪魔になるので、【飛行】を意識してエルルの頭上1mほどの場所に滞空する。バフもあって蝙蝠の群れから一段距離を開けた梟が私達をかすめて森へと飛び込めば、シューティングゲームの時間だ。
――ギキキキギキギギキキキィ!!
「[渦巻く風は薄刃となりて
眼前に在るものを断ち切り刻む
集いた風が嵐と化せば
そこから逃れられるものは無し――ウィンドカッター・ガトリング]!」
「しっかし、本当に数が多いな!」
前に立ちふさがる私達を「敵」と認識したのか、スピードを落とすことも進路を変える事もなくまっすぐ飛んできた蝙蝠の群れ。それに対して、私は風の刃を連射する
地上に居るエルルだと武器で狙うには厳しい高さの蝙蝠を叩き落とすのが目的だ。私が使う魔法だから、掠めでもすれば十分致命傷である。ついでに私を警戒して高度を落としてくれれば上々。
元から高度が低かったり、叩き落とされたりした蝙蝠は、愚痴だか文句だか分からない事を言いながらも刀を振るうエルルによって文字通り一刀両断されていく。折れないってことは魔力通してないんだよね、あれ。しかし【解体】があるから死体が大変な事に……あれ?
『あ、やっぱり普通の蝙蝠じゃ無かったんですね』
「まぁ薄々分かってたけどなぁ」
【無音詠唱】と【並列詠唱】の組み合わせで待機させておいた火の矢の雨で、高度をとって飛んでいる蝙蝠を叩き落としつつ周囲の地面を見ると、落ちるか切られるかして動かなくなった蝙蝠は、風にあおられた灰のように形を崩して消えて行っていた。
まぁでもそれならそれでやりやすい。何せ足場の事を気にしなくていいって事だからね。
『さて後は、この蝙蝠の群れがいつまで続くかですが……伝承だと確か、森の中をたっぷり1刻は逃げ回ってたみたいなんですよね』
「1刻、2時間か。結構長いな。ま、このペースなら問題なさそうだが」
森の中へと消えていった梟は、今もまだ木々の間を飛び回っているのか、あるいは後続が無いと見て休んでいるのか。とりあえず今ここから森に突入しようとする蝙蝠は一匹残らず倒せているので、「追われて」の部分を「撃退し」に変えることは出来ているだろう。
横向きの竜巻に蝙蝠の群れを大きく巻き込みつつ後ろの森に意識を向けてみるが、何の音も聞こえない。まぁ前から来る蝙蝠の群れがうるさいので、そのせいかもしれないが。
とりあえず第一段階、いや身体を探すところから考えると第三段階か。まだ序盤も序盤で、躓いてられないしね。
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