第174話 11枚目:竜族と金属事情
で。
バッキーン!
「また折れたかえ」
『これで何本目でしたっけ』
「……30振り目だよ……」
はい。進捗、全くダメです。流石のナギカマさんも刀と同じく心がバッキリいきそうな様子で、相談を受けて集まった他の鍛冶師さん達も同じく。一周回って見事なほどの連戦連敗っぷりだ。
そこへエルルが戻ってきた訳だが、これだけ折られた以上何か根本的な対策なり改善をしないとダメだろう、って事で、次の刀は無い。しばらく休憩だ。鍛冶師さん達も。
「で、お嬢は何やってんの?」
『風毬さんに新しい術を習っています』
「大層筋が良い。教えがいがある良き生徒よ」
うーんうーんとうなされるに近い呻き声が聞こえる鍛冶師さん達の方を避けて、こっちに来たエルル。持っていた刀は、とりあえず自分のインベントリに入れたようだ。
しかし見事に折れてるんだよなぁ。こう、バッキリと。空手の達人が割った板みたいに。
…………見る限り、全く同じ位置で、全く同じ折れ方なんだよね。
『ところでエルル』
「何、お嬢」
『エルル自身は何か、折れる心当たりとかありませんか?』
何かこう違和感と言うか、うん。物理的なあれじゃ無い気配がするんだよねー。フリアド世界特有の問題というか、ぶっちゃけて言うと、魔力的な?
「あー、たぶんだけど」
「なんだってぇ!?」
「うおっ!?」
はい、予想通り。あれだけ綺麗に同じような折れ方しておいて、エルルがその原因に思い至らない訳ないんだよね。だってエリート士官軍ドラゴンだから。まぁそうなると、半分折れるのは当然って思ってたっていう問題が別に出てくる訳だけど。
そして予想通り、秒で食いついてくるナギカマさん。たぶん無意識にエルルの左腕を掴んで、文字通り鬼気迫る顔だ。エルルも反応できなかったらしく、珍しく素で驚いている。
もちろん他の鍛冶師さんも反応してるよ。ぐりんっ、と真顔を一斉に向けて来ただけだけど。……何のホラーかな?
「え、なん、いやだって、断面までほぼ全部同じってなったら、そりゃ……」
「そりゃ? うん? なんだい?」
「……魔力負荷だろ? キャパオーバー。弾けてしまわないどころか、1回は振っても耐えるあたり、流石鬼族の得物だなって思ってたんだが……?」
あ、うん。…………は? って鍛冶師さん達の目が点になってるね。なんかこれ致命的な部分の常識が食い違ってるぞ。
『エルル。少し質問してもいいですか?』
「え、改まって何、お嬢。いいけど」
『新しく作られた武器、というのは、折れる大前提なのですか?』
「? ……違うのか?」
『私は竜族の常識を知りませんので異世界の人間として答えますが、んな訳がないでしょう』
「お嬢。口調」
やっぱりな。なんかおかしいと思ったんだよ。いくらなんでも簡単に「折り過ぎ」だ。エルルはそう簡単に、力が強いから物が壊れるのは仕方ない、って諦めるような性格はしていない。
となると考えられるのは、「それが当たり前だから」。もしくは「必要な手順だから」だ。だからこその問いだった訳だが、大当たりだよ!
「は……? 待ちな。新しく作られた武器は折れる前提って、そりゃどういうこったい!?」
「いやどうも何も、魔力の過負荷で壊れた武器を素材にしないと、俺らが普通に使えるような武器にはならないからだが」
「そんなの分かる訳が無いじゃないかい……っ!!」
ナギカマさんが崩れ落ちてしまった。あぁうん、確かに。分かる訳ないね。エルルはエルルでその反応に「あれ?」って顔してるけど……。
『エルル。……現在の状況と自分の記憶に、多大な齟齬があった事を忘れたんですか?』
「……、あ」
あ。じゃ、ないんだよなー!
「だから、壊れた武器を集めて鍛え直して、その武器をまた壊して、鍛え直して、っていうのを繰り返して出来るのが「竜合金」な訳だ。鍛え直すたびに宝石も使い手の鱗も入れるから、それで最終的に金属の性能っつか、性質自体が大幅に変わるって事だな」
『という事は、「竜合金」というのは金属の比率とかではなく、それぞれに合わせて成長していく金属、と言った方が正しいと』
「そういう事。そもそもその武器を過負荷で壊しまくるっていうのが俺らぐらいだから、それで独自の金属と思われてるみたいだけどな。実は秘密でも何でもない。他の種族の所に持っていくときは、鍛え直す時に地金の形にしてたんじゃないか?」
瓢箪から駒ってこういう事かな。地味にずっと気になってた「竜合金」って奴の詳細が判明したよ。よほど何か重要な話なのかと思ったら、秘匿事項でも何でもなかった。
……そうか。この話の要点は「武器をよく壊す」事と「壊れた武器を材料にする」事だから、実際にどんな金属や宝石を使うとか、鍛え直しの手順とかは出てないから大丈夫なのか。
『ちなみに、その壊れた武器ってどれくらい必要になるんですか?』
「……お嬢、今それ聞く?」
『なるほど。数百本では到底きかないと』
「察した上で何で言うかな。確かに俺も前使ってたやつで、数千本は壊したけど」
という事で、この会話は当然ナギカマさん達鬼族の鍛冶師の皆さんも聞いている。それに、あの武器が折れる事に対しての態度と今の言葉聞けば、誰だって察せると思う。
で、この話を聞いて、はー、と、納得の息を吐くナギカマさん。
「薄々、素材の問題じゃぁないか、とは思ってたが……そういう事だったんだねぇ」
「折れた武器を回収してるから、てっきり知ってるもんだと」
「ありゃ折れた鋼は縁起が悪いってんで、戦い以外の道具に加工するんだよ」
『ところ変われば常識変わる、ですねぇ』
なお、ナギカマさん達も壊れた装備を素材として鍛え直す、という事自体は出来るらしい。ただあくまでそれは修理としての側面が強く、壊れた武器同士を、ある意味合算していくような作業はしたことが無い、との事だった。
とはいえそれで折れない刀が打てるのなら、と鍛冶師の人達総出で相談と作業を手分けする話し合いが始まった。
『これなら、次に打ちあがる刀は本番でも行けそうですね』
「だといいな」
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