第173話 11枚目:難航する準備

 そこから、脇にあったらしい暑さがだいぶマシな小部屋へ移動して、実際に作って貰う剣、というか、刀って言った方が正しいかな。その相談に入った。

 といっても私は聞きながらナギカマさんが書いてるメモや大まかな完成図を眺めてるだけなんだけど。うん。金属を打って折って重ねてまた打つ、鍛造での片刃の剣だからやっぱり刀だな。

 エルルの格好は大日本○国軍風なので、多分と言うかめっちゃ似合うと思う。そういう意味でもとても楽しみ。なんか書いてある寸法が斬馬刀かなんかみたいな数字になってる気もするけど、まぁそれはそれでアリかな。


「うん、やっぱり普通の鋼だと要求にこたえられそうにないね!」

「まぁそうだろうな。ある程度宝石の手持ちはあるから、材料持ち込みって形になりそうか?」

「恩人の得物だし、出来ればこっちで出したかったんだが……最近どうにも月長石も真珠も出が悪くてねぇ」


 どちらも白い石だな。と思って、エルルが微妙に動きを止めたのに気づいた。

 実は大体理由には察しがついてるんだけどね。家族との記憶はあんまり楽しくないって言ってたし。……うんまぁ、敢えてスルーはしてた。


「…………俺、シュヴァルツなんだよな」

「うん? あっはっは、それだけ白い髪しておいて?」

「いや、ほんとに。フルネーム、エルルリージェ・ドーン・シュヴァルツ」

「………………マジかい?」

「ほんと」


 最初にエルルのフルネームを聞いた時、私はこう言った。「くろいよあけかっこいい」と。そう。シュヴァルツって「黒」の事なんだよ。実際フィルツェーニクさんは真っ黒なドラゴンだったしね。

 けど、その名前の割にエルルは真っ白だ。で、家族とそんなに仲が良くなさそうって事は、まぁ、うん、突然変異か色彩異常か何か他に理由があるのかは分からないけど、少なくとも「普通」ではないんだろう。

 ま、私にとっては関係ない事だ。何故ならエルルは親身になって色々と世話を焼いてくれる苦労人気質で愉快な兄ちゃんだからな!


「はー……なるほど、なるほど? まぁそういう事なら、黒玉や黒曜石なら手持ちがあるからねぇ。都合がいいっちゃあいい。珍しい物なら、この間召喚者が黒遊石を売りに来たのが手に入ったよ」

「遊石は魔法合金にすると、出てくる属性がランダムになるからなぁ。俺そんなに魔法得意じゃないし。耐久伸ばす方がありがたい」


 そして、ナギカマさんもその辺あんまり気にする方じゃないらしい。あっさりと打つ刀の仕様相談へと戻っていった。ふ、エルルがほっとしたのも肩に乗っている私にはお見通しだ。同族補正ってすごいね。




 で、そこから実際に作成に入って……フリアド世界では魔法やスキルや種族特性や神の加護があるので、ナギカマさんの場合一振り(内部時間)3日程で出来上がるとの事……リアル1週間が経過した。

 リアル時間の4倍の時間が内部では流れている筈なので、単純計算で28日が経過している。なので、本数だけで言えば9本は出来上がっている筈だ。

 ……なんだけど。


『おや』

「ほう」


 外から、バッキーン、と甲高い音が聞こえて来た。もうすっかり聞きなれてしまった音で、狐耳尻尾のお姉さん……風毬さん、というらしい……ももはや驚かない。

 対して大きな反応を見せたのは、隣の机で喧々諤々の議論を交わしていた、ナギカマさんを中心とした鬼族の鍛冶師たちだった。ガクゥッ! と肩を落とし、あるいは頭を抱えて天を仰いでいる。


「――――っっだぁあああ!! どおりで竜族に武器を作ったって記録がほっとんど無い筈だよっっっ!!!」


 うん。

 この時点で大体察せれると思うのだが、まぁ、あれだ。エルルの武器に対する要求ステータス高すぎ問題が、ここにきて見上げる程に高い壁として立ちはだかっている、という事だ。

 3本目を折られた時点でナギカマさんは自身の力量不足を認め、周囲の鍛冶師に相談した。そこから打ちあがっては折られるたびにその人数は増えていき、現在の状態、という訳である。


「聞こえた?」

『聞こえましたよ』

「聞こえてるよ……っ!」


 そこからしばらくして、エルルが建物の中に戻って来た。本人は平然としているのだが、その手にある砥がれた刃の部分まで黒い打刀は、その刀身が半ばでバッキリと折れてしまっている。

 あぁ、そうそう。流石にエルルも鬼族の剣こと刀はあんまり触ったことが無いっていうのと、試し振りは必要だろうって事で、鍛冶屋の前で鬼族の人達と手合わせ(ただし装備は本気)をしているのだ。

 勝敗? お察し。エルルからすれば、武器の扱いにも慣れられて、万一の場合(武器が壊れた時)の動きも練習できる、いい機会なんだそうだ。


「やっぱ扱いが違うんだろうな、久々に新しいスキルが入った」

『それは良かったですね』

「スキル無しであの戦いぶりだったのかい……?」

「鬼族の剣を触る機会が無かったからなぁ。あ、いや、スキルからすると刀か」


 この通り、エルルが楽しそうで何よりです。

 え、その間私は何してるかって? 風毬さんに【符術】っていうのを習ってる。なんかおまけみたいな感じで【念動】ってスキルも入ったし、筋が良いと美人さんに褒められるから楽しいんだよね。

 まぁそんな感じで模擬戦三昧な訳だ。エルルはナギカマさんから新しい刀を受け取ると、また表へと出て行った。わっ、と声が上がったから、鬼族の人達もエルルとの手合わせを楽しんでいるらしい。


「使い方が悪い訳じゃないのがな……」

「むしろ得物の負担を減らす動き方してるのにな……」

「いっそもっと硬くして見るか……」

「いや、それだと脆さが出て二の舞になる……」


 ……鍛冶師さん達の心労と苦悩以外は、皆楽しんでる良い状況なんだよね。

 まぁいつまでも武器の所で困っている訳にはいかないんだけど……いつになったら解決するかな?

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