第172話 11枚目:鬼族の鍛冶師
狐耳尻尾なお姉さんの案内で辿り着いた鍛冶屋は、どちらかと言うと小さめで地味な感じだった。ちょっと周りに埋もれている感もあるけど、渋くていいね。隠れた名店系の空気がある。
まぁお姉さんのお得意先なんだから外れな訳もないか。と、カラカラと良い音を立てて引き戸を開けたお姉さんの後にエルルが続く。お邪魔しまーす。
ってうわ、あっっっつ!? 素早く目線でスキル操作して【環境耐性】がメインに入っている事を確認……って開いて見た目の前でレベルが上がった!? どんだけ過酷な環境なのここ!
「相変わらずの暑さよの……。これ、ナギ。ナギカマや。おったら返事せい」
あまりの暑さに内心で薄く見えた引き戸の遮熱性能に驚いている間に、狐耳尻尾なお姉さんは勝手知ったるとばかりに奥へ進みながら、声を張っていた。長屋、という程幅は狭くないが、奥に長い構造になっているようだ。
これが経験値の違いか、エルルは周囲を見回しながらも堪えた様子は無い。もっと【環境耐性】を鍛えなきゃだめだな。
とか思っている間に、ガラッ! と勢いよく引き戸が開く音。狐耳尻尾なお姉さんが奥の引き戸を開けたらしい。そしてそこから、ぶわ、と、暑いを通り越して熱い風が流れ込んできた。
「あ、これヤバいな。お嬢、大丈夫?」
『自己回復で賄えてるので、とりあえず今のところは』
「ダメージは入ってんのか……」
そりゃ入るわ。【環境耐性】が見る見るうちにレベル上がってるからな! 珍しくハードなレベリング状態になってるよ! 呼吸で喉が焼けそうなんだけど此処は火山か!?
しかしヤバいって口に出すって事はエルルでもこの場所はキツい認定なのか。その割に涼しい顔してるんだけど。うーん、流石エリート士官軍ドラゴン。
「やれやれ、こちとら研ぎに打ち直しにと忙しいから、ことが終わるまで仕事は入れられんと思えと言った筈なんだけどね?」
「ほほほ。その「こと」で最前線を張る協力者の得物の話と言ったら、反応のそれはそれは速かったことよ」
「そりゃぁそうさ。竜族の武器を打てるなんてそうそうあるもんじゃない。力が強いわりに物持ちが良いし自分達でも作れると来れば、滅多に外に依頼なんてしないからねぇ」
そしてその熱い空気の流れてくる引き戸の向こうから、ケロっとした顔の狐耳尻尾のお姉さんと一緒にやってくる人がいた。額に、細くて長い上向きに伸びた2本の角があるから鬼族なんだろう。耐火服のような物を着てごついハンマーを担いでいるから、此処の鍛冶師さんだろうか。女の人だったのか。
……まぁ、鬼族に関して言えばその筋力に男女差は無い。筋肉の形として、男性は太く、女性は細く見えやすいというだけだ。違いは本人がどれだけ鍛えたかというだけであって、見た目で判断すると痛い目を見る。物理で。
白い髪は頭の上で簡単にまとめられ、赤い目はどちらかというと細い。肌の色は濃いが、あれは恐らく日というか、火に焼けたのだろう。この暑さの大本に居れば、そりゃ屋内で日焼けもすると思う。
「さて。こちらが、鍛冶師のナギカマ。少々気分屋のケはあるが、腕の方は一級品よ」
「あんたに気分屋とか言われたくないねぇ」
「ほほ。で、こちら竜族のエルルリージェ。此度の救援に、主共々応じてくれた助っ人よの」
「どうも」
「その肩に乗っておるのが、主であるルミルよ。かの方と同じく召喚者だそうで、話をするにはちとタイミングを計るように」
『はじめまして』
「おや可愛らしい」
奥の引き戸が閉められたので、熱いが暑いに戻った。いやまだ【環境耐性】のレベルアップは止まってないんだけど。その状態で、狐耳尻尾のお姉さんがお互いを紹介してくれた。とりあえずご挨拶しておく。
まぁ私は可愛いので。しかしこのナギカマさん、可愛いものを見るって言うより興味のある物を見る目なんだよなぁ。たぶんどれだけ強いかとか、どんな武器を使うのかとか考えてる気がする。
【人化】出来るまでまだかかりそうだから、今回ご縁は無いんだけどね。ごめんね。
「そんななのにもう鬼神様との鉄火場に行けるってんだから、竜族ってのはすさまじいねぇ。ご紹介に預かったナギカマだよ。よろしく」
「エルルリージェ。よろしく。……まぁある意味お嬢はお嬢で特別というか、普通じゃないからあんまり基準にしないでほしいかな……」
エルルが微妙に訂正を入れながら手を差し出す。ナギカマさんが手を取って、うん? 握手にしてはなんかめっちゃ力入ってない? いやエルルが平気な顔してるから大丈夫なんだろうけど。
「……驚いた。男の割に細いからどんなもんかと思ったら、その大仰な得物を背負うだけはあるねぇ」
「そりゃ【人化】してるんだから、見た目で判断されても困る」
あ、はい。やっぱり力試し的なアレだったんだね。
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