第171話 11枚目:鬼街観光
その後は「鬼退治の逸話」に出てきた(=戦闘場所になる可能性が高い)場所を順番に見に行ったり、当時に使われていた装備を見せて貰ったり、いくつか知りたいことを確認していった。
なお、山から神の身体を探し出して掘り返す役割と、それを城に運ぶ役割は力自慢の精鋭鬼族の皆さんが、そのバラバラになった体を繋ぎ合わせるのは椿の花を咲かせたお姉さんが行うそうだ。
そして実際に戦闘が始まってからは、私とエルルがほぼ2人で戦う事になる。一応、鬼族及び狐族と妖族の術系スキル上位者の人達が援護してくれるので、多少はマシだろうか。
「……むしろ巻き添えにならないように、逃げたり周辺被害を減らす方に集中してくんないかな」
『まぁそれぐらいは出来た上で、の話でしょう』
逸話に出てきた場所を見て、意外と建物や往来が近い事に気付いたエルルはそんな事を呟いていた。うーん、事前避難ぐらいはしてくれると信じたい。あと乱入しようとするのも止めてもらえると思いたい。
あぁ、あと、射貫かれて折れた角と、断ち切られた角はもう見つかっているんだそうだ。この地域の支配者が鬼族に戻る際に、この地本来の宝物一式の中に含まれて返還されたらしい。
で、その角に刺さっている(と思われる)矢を引き抜くのは、鬼族の中でも珍しく速度に特化した人が行うそうで、角自体の治癒は狐耳尻尾のお姉さんが行うと。
「治療すると言うのに、痛みで錯乱して暴れまわる患者はほんに多い。いなし、躱しながらの手当てなぞ、日常よ」
との事で、巻き込まれ回避は自分でやると。歴戦の強者の風格を感じるね。治療所は戦いの種類が違うだけの戦場ですって事かな。
さてまぁそうやって、ある意味街を見て回っていた訳だ。ちなみに案内は狐耳尻尾のお姉さんで、私はいつもと違いエルルの右肩に乗っている。流石にこの状態で喧嘩を売りに、もとい話しかけようとする無謀者はいないようだ。
で。“角掲げる鉄火にして卜占”の神の逸話の所で話に出て来たが、あの神は製鉄技術をもたらした神であり、鍛冶の神、というのが主となる神格だ。その影響だろう。特にこの、下見を兼ねて見て回った範囲には、それこそ数えきれないほどの鍛冶屋が軒を連ねている。
「しかし、鬼族の鍛冶屋か……」
『気になりますか?』
「まぁ、うん。俺ら以外で、俺らが使える武器を打てる数少ない種族だからなぁ」
「ほほ。他にはないほどの誉め言葉よな」
うーん、と考えつつ、僅かに今左腰に下げている剣に目線を落とすエルル。あ、そっか。結局あのまま妖精族の鍛冶師さん達に打って貰った剣を使ってるからね。
ただ、その強度はエルル曰く「練習用の木剣」であり、つまり大物相手に本気で振るうには頼りないという事でもある。背中に背負ってるグレートソードを使うのかもしれないけど、その場合は周辺被害が、うん。
ドラゴンの姿の時の攻撃力に、武器スキルや剣術スキルなんかの補正が乗った上で、エルルはエリート士官軍ドラゴンだからね。普通に戦う人としての技量も高い。となると、まぁ、火力が。ドラゴン姿の時より範囲は狭くなるとは言え、上がる訳でさ。
「ふむ。……悪くはなさそうに見える、けれども、使い手としては力不足を感じる、という感じかえ?」
「大分無理してもらった手前、あんまり悪く言いたくないし言う気は無いんだが……作り手が、妖精族だからな。どうしても軽い」
「ほう」
こて、と首を傾げる狐耳尻尾のお姉さん。仕草だけを見るなら可愛らしくすらあるだろう。元が妖艶系の美人だけに、実に破壊力が高い。
かと思えば、にこ、と大人の笑みを見せるのだから、自分の魅せ方をよく知ってるんだよなぁ。
「ふむ。なら、こちの得意先に案内しよう。急ぎの仕事も慣れておる故、事情を話せば一振り誂えてくれるだろうて」
「そりゃありがたい。鬼族の打つ剣は業物ぞろいだから、助かるな」
そしてそれを完スルーするエルル。
ラベルさんの時も思ったけど、エルル、慣れてるのか鈍いのか、どっちだろうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます