第169話 11枚目:顔合わせ
防壁の真ん中、大きな門を壊しかけた事については、むしろ大喝采が上がってものすごい受けていたから、結果オーライという事になった。
どちらかというとエルルが着地して、もみくちゃにされる前にと私が襟元から顔を出した時の方が問題だった。うん。ガタイが良くてコワモテな人達が揃って目を丸くしていたのはちょっと壮観だったね。
現在? エルルは嫉妬だか興味だか分からないけど、鬼族の人達にモテモテだよ。模擬戦と言う名の手合わせ(真剣使用)的な意味で。そして私はと言うと。
「ほほほ。可愛えぇなぁー」
「どれ、こちにも触らせておくれ」
金髪金眼で狐耳尻尾なお姉さんや黒髪黒目で椿の花を頭に飾ったお姉さんにモテモテだったよ。大人しい猫かなんかを可愛がる的な意味で。流石に鬼族の人達も、このお姉さん達を相手にしようとは思わないらしい。
……だって、狐耳尻尾なお姉さんは尻尾が9本あるし、椿の花のお姉さんは、着物の柄に描かれてる椿が、葉っぱまで赤いからね。たぶんだが本来は人外種族であることを考えると、大体その実力と正体は分かるってものだよ。
綺麗なお姉さんは怒ると怖い。そんなの皆知ってる事じゃないか。
「ほんにすべすべした鱗で、綺麗やなぁー。……食べてしまいたい」
「ふふ。丸くて、小さくて、ふっくらしてて。……美味しそうやねぇ」
時々零れる呟きに顔が引きつりそうになるけどな!! 冗談と本気の区別がつかないんですがお姉さん!!
とりあえず、出発する時に今から向かうという事を「第一候補」には知らせているし、念の為鬼族の街が見えた時点でもうすぐ到着するという連絡を入れている。流石にそろそろ迎えに来てくれてもいい筈なんだけど。
『くはは、相変わらず大人気であるな、「第三候補」!』
「あら?」
「まぁ。あんさんのお知り合い?」
『むしろこちらが呼びつけて、1日とおかずに来てくれた頼もしい協力者であるよ』
「協力者……と、言う事は」
「あぁ……鬼神様の件での応援、言うんは、この子らどしたか」
声はイベント空間で聞いたのと同じ、もっというなら第一回イベントで仮の姿の時に聞いたのと同じだ。
ようやく姿が見れるな、と思って、そちらに視線を向け、
『先日以来だな、「第三候補」。こちらの想定以上に素早い対応、感謝する』
『こちらこそ、出されていた申請に気付かず間を開けてしまい、すみm』
そこに居たのは、ゴマフアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみだった。
ふかふかもふもふな毛足長めの真っ白い布で、くりっと丸い黒い目は糸でこそあるがつやつやと輝いている。キュートでラブリーな白くて丸くて触り心地がよさそうなぬいぐるみが、金髪碧眼の白いドレスを着た女の人に抱えられて、ぴちっと短い前足を胴体にくっつけていた。
え? ちょっと待って。いや、何だこの光景。うん? 私は今何を見てるんだ? 声が、聞こえた方に顔を向けた、よな? あれ?
おかしいな。聞こえる声は低くて渋さと艶があるなかなかに良い成人男性の声なんだけど、どこにもその声に該当する相手が居ないぞ? 流石に女の人からこんな声が聞こえて来たとは思いたくないんだけど?
『…………「第一候補」?』
『いかにも。……言っておくが、このぬいぐるみは乗り物であるぞ。本体はこちらだ』
こちら、とぬいぐるみが短い腕を動かして自分の首元を指した。んだと思う。短いからよく分からないけど、角度的に。
うん? 首輪、かな? なんだあれ。金属の輪の真ん中に、丸い透明な石が一個はめ込まれてる……幅広の、金属製のネックレス……か?
確かトルクっていう装身具があんな感じだったな。毛に埋もれて見え辛いけど、銀色の糸を編んだうえで固めているような感じだ。見え辛いけど。
『乗り物……ですか……』
う、うーんー??? ちょっと待てよ理解が追い付かないぞ。
ま、まぁあれだ。人の形をしてないまでは想定通りだったんだ、それが形どころかそもそも生物ではなかったってだけで。あっても非実体だと思ってたらまさかの物質生命系。いやぁ驚いた。
で? 乗り物って言う事は? あれだな。物質生命系の宿命で、自力だと動けないからこう、人形遣い的に「自分を装備させる」相手が必要な訳だな? それがぬいぐるみだと。うん。うん?
『うむ。これは此処での封印解除にあたり、この土地の素材でこの土地に合ったものを作って貰ってな。大変と性能が良いのだ』
『…………そうですか』
そう答えを返した「第一候補」の声からは、自分がどういう姿なのか気付いていないのか、それとも気にしていないだけなのか、特段今の姿に対する感情は読み取れない。
なるほどそうか、性能優先なのか。まぁ「第一候補」らしいっちゃらしいし、仮にも神を封印しているのだから少しでもかけられる保険は多い方が良いだろう。
ただ、すまない。ちょっと今声と話の内容と見た目のギャップから笑いがこみあげてきて耐えるのに必死だから、反応らしい反応はちょっと待って……!
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