第167話 11枚目:辺境へのお誘い

 実を言えば、前から薄々、「運営」と「神々」が違うものなんじゃないか、とは、思っていた。



 「運営」はもちろんゲームを調節したりイベントを起こしたり世界のありとあらゆるものを設計したりする、創造神と調和神を足したような役割だ。こちらは当然、平等を意識するだろう。

 では「神々」は何かというと……文字通り世界の運営を、フリアドというゲームの調整、管理を行う、運営の補助を行うAIではないだろうか。あるいは、「神々」もまた現実と言う物を知らず、真剣に世界を運営している神と言う役の住民である可能性もある。

 フリアド世界は、ワールドシュミレーター染みた広さと精度を持っている。住民に話を聞けば、1人1人にそれぞれ歩んできた人生があるという。街もしかり、国もしかり……そして恐らくは、神々も、同様なのではないだろうか。



 だから「運営」とは「世界を離れて召喚者の橋渡しをしている大神」であり、バックストーリーや神殿で祀られている「神々」とはまた別なんじゃないかと……「大神」の意図に沿わない、あるいは偏った独自解釈を元にした行動を取る「神々」もいるんじゃ、ないかと。そう、思う事は、あった。

 6月のイベント告知を受けてその疑問は更に色濃くなった訳だが、誰に相談すればいいかもわからないし、そもそも聞いたところで答えが返って来るとは思えない。

 運営に聞いたところで、その独断を許容している以上は機密事項ですとかで答えてくれない可能性が高いだろう。それに重要なのは運営と神々が別だという確信を得る事ではなく、その独自行動にどう対処するかだ。


『……エルル』

「どした、お嬢」

『ちょっと出かけたいのですが、連れて行ってくれますか?』

「うん?」


 さてまぁそれを前振りに珍しく私からエルルにお出かけのお願いをしている訳で、私の目の前にはとあるメールが表示されている。

 そう。ちゃっかりしているとは思っていたが、本当にちゃっかりしていたのだ。それに気づいてようやくさっき承認して……したとたんに届いたのが、このメールとなる。この時点で勘のいいひとなら大体分かったんじゃないかな。


「まぁいいけど。何処に?」

『東の果てです』

「なるほ、うん?」


 頷きかけたエルル、途中で止まった。どういう事? という視線を向けてくるので、軽く息を吐いて、元凶であるメールの内容を口に出した。


『えぇ。「第一候補」から、古い時代から在るという鬼神の封印を解くのに、協力してくれないかと言う要請がありまして。……主に戦力的な意味で』

「……鬼族の神か……!!」


 流石エリート士官軍ドラゴンというべきか、それで全て把握したらしいエルル。額に手を当てて呻きながら天を仰いだ。

 そう。あの伝言と言うか忠告をしに来た時に、ちゃっかりと「第一候補」は私へとフレンド申請を出していた。まぁこれに関しては月が替わるまで気づかなかった私が全面的に悪い。

 悪いが、気付いて申請を受諾した途端に来たのがこの内容ってどういう事よとは思う。いやまぁ、エルルのこの反応と、フリアド世界の鬼族=パワーこそ正義っていう感じの戦闘種族バトルジャンキーって事を考えたら大体察せるけど!


「封印、封印を解く、なぁ。あぁそうか、始祖の封印を解いたのも確か?」

『本人は何も言ってませんが、高確率で「第一候補」ですね』

「そうかー。それなら、うん、断る訳にもいかないか……しかし、鬼族の神の封印か……!!」


 エルル的には大変と恩義を感じているようで、断る気配は無さそうだ。しかしそれはそれとして頭を抱えている。ははは。エルルが私以外の事で頭を抱えるのは自分の記憶と現実の乖離に気付いた時以来じゃないかな。

 なお現在は『妖精郷』の片隅でフライリーさん待ちだ。メールなら専用アプリを使う事でリアルともやりとりできるので、時間が合いそうなときは一緒に遊ぶことにしているのだ。

 今日は時間が合う日だったので、いくらか先に私がログインして、エルルと一緒に『妖精郷』に移動。そこでエルル監督の下ドラゴン流の精神鍛錬をしてたところで、フレンド申請通知に気付いてからのメール着信となる。


「鬼族ですかー。話は聞いた事ありますけどー。……僕やフライリーさんは、ぱくっと食べられちゃいそうですー」

「…………、否定できないな。俺も流石に鬼族相手だと守り切る自信ないし」

「お留守番してますねー!」


 そしてルチルの判断が早い。そうだね。ルチルにしろフライリーさんにしろ、物理に弱くてちっちゃいからね。戦闘種族な鬼族には近寄るだけで危ない。


『まぁ、事情を話して待っていてもらいましょう』

「そうだな」


 という訳で、割と久々にエルルとの2人旅になりそうだ。

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