第166話 10枚目:イベントと新要素

 いやぁ、他の誰かが一緒に居るってすごい事だね。走ったり飛んだりして体を鍛える事に重点を置いたレベリングでも、フライリーさんやエルルとわちゃわちゃしながらだったら楽しい楽しい。

 最近多いのはエルルを鬼役にしての鬼ごっこだ。フライリーさんとルチルと私が逃げる役。時々『妖精郷』の妖精たちも参加するようになったのは大きな進展だと思うんだ。

 まぁ楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎる物で、気づけば5月も終わりが見えて来た。まぁ、普通に学生やる必要もあったんだけど。


「あっ、お知らせが来たっすよー!」

『来ましたねぇ』


 ということはつまり、次のイベントの啓示お知らせが来る訳だ。今は、エルルが手加減してくれているのかそれとも本当に逃げるのが上手くなっているのか、決着が長引くようになった鬼ごっこの休憩中だ。

 いつものか、という顔で横から覗き込んでくるエルルと、頭の上にカナリア姿で乗って視線を同じくするルチルの前で、メニューからイベントのお知らせを開いた。


「……これは」


 同じく読み進めたらしく、ピョ、とルチルも小さく鳴いた。うーん、そうだね。何と言うか、こう……。


『……私たちとしては、微妙と言わざるを得ませんね。参加権がそもそも得辛いという意味で』

「わー、魔物種族の修羅っぷりがよく分かるっすー」


 さてやってきた6月イベントだが、正しくは新機能実装に伴うイベントのようだ。ダンジョン実装の時と同じだな。もっと具体的に言うと、レイドボスの正式参戦となる。

 さてまぁツッコミどころはたくさんあるが、とりあえずバックストーリーを確認しておこう。



 泡沫の世界に再現された過去の災厄を、召喚者達が打ち破った。その知らせに神々は心の底から驚愕し、それが真実だと知れ渡ると、同程度には歓喜した。何故ならただの再現、本来のそれからすれば欠片もいい所という存在ではあったが、それでも今現在の世界にとって脅威であったのは間違いないためだ。

 召喚者達の得た力がそこまで大きくなっていると認識を改めた神々。ただの再現、ほんの僅かな欠片であっても倒すことが出来るのであれば、大神が抱え眠る「大きな傷」は少しずつでも減らすことが出来る。そうすれば、現在の状態からとれる対策も増えるだろう。

 しかしその扱いは慎重を期さなければならない。神々はまたじっくりと話し合い、大神の意見も仰ぎ、新たな試練を……結束こそが重要となる、大人数が前提となる試練を作る事を決定した。



 つまり、試練ダンジョンでレイドボスが喚び出せる、という訳だ。現在はあの「膿み殖える模造の生命」だけのようだが、今後イベントでレイドボスが現れるたびにその種類は増えるのだろう。

 後続の事も考えれば非常に妥当ではあるし、素材的な意味で何度も挑めるのは良い事なんだが、問題はこの試練……「大神の悪夢」と名付けられた特殊試練ダンジョンへの参加権にあった。

 バックストーリーにある通り、結束こそが重要視されている。異論は無いが、結束とはつまり、だ。


『クランに所属していなければ挑めもしないのでは、どうしようもありませんね。そもそもこの特殊な試練に挑めるのが、各地に実際に建っている神殿だけという時点で難易度が高いですし』


 ……まぁ、第二陣キャンペーンの最終章でもあるか。まず基礎レベルを上げて、素材を集めて装備を作って、クランに入る。運営はここまでをテンプレートな流れとして扱いたいらしい。

 なので今回のイベントは、「クラン単位で挑めるようになったレイドボス」のお披露目だ。つまり、クランに入っていなければそもそも戦闘に参加する事自体が出来ない、という事になる。

 ははは。運営はレイドボスのソロ狩りというロマンは許してくれないらしい。されたらバランスがおかしいんじゃないかって叩かれるからやらないのかもしれないが。


「クランの設立最低人数って何人からでしたっけ?」

『召喚者のそれは最低3パーティが組める事ですから、6人ですね』

『僕とエルルさんを入れても4人ですかー……あと2人足りませんねー』

「というか、そもそも俺らが人間種族の施設でそういう申請して通るのか?」


 エルルの言葉に、ちょっと沈黙。

 クランの申請は人数を揃えて、クラン管理組合という組織に申請を出す必要がある。その組織は大神殿があるレベルの街にしかなく、当然ながら住民運営だ。

 だから最低でも人の街に出ていく必要がある。この時点でハードルが高い。……ただし。比較的人里周辺に居る一般魔物種族であるニビーさんやみのみのさんには、クランのお誘いは、それこそ山のようにかかっているらしいのだが……。


『…………まぁ、竜族とか使徒生まれとか、そういう事を抜きにしてもちょっと難しいみたいですね』

「えぇっ!?」

『そうなんですかー?』

「やっぱりな……って、うん? 抜きにして?」

『ええ。抜きにして。……あの災厄に対抗する為に、私や「第二候補」は当然として、一般魔物種族の方々もどれ程貢献したことか。その上で、彼らの登録が断られている、という話は、私も知っているんですよ』

「あー……あれっすね。クラン『ヒーローフラッグ』が危うく解散する事になりかけた話」


 出来なかったというか、クランを管理する住民の人に、お断りされたみたいなんだよね。目一杯の怯えか、敵意に近い嫌悪を伴って。

 流石に誘った方の人間種族召喚者プレイヤーも粘ったらしいんだけど……どうやら、その粘った召喚者プレイヤーのクランが危うく除籍処分になりそうになる程、態度は頑なだったようだ。

 お陰で住民と召喚者プレイヤーの間の空気が悪い悪い。いやぁ、こんな時は辺境暮らしで良かったって思うよね。そんなギクシャクした空気の中に居たくない。なお、これらの情報源は掲示板である。


『カバーさんを始め、一部魔物種族わたしたちの実力を知る召喚者はともかく……一般人間種族住民や、それこそ人間種族贔屓の神々が種族間融和を受け入れるのは、まだ当分無理があるようですから』

「まぁ、俺の時代が封じられた後とは言え、始祖を封印するような神だからなぁ……」

「ひえっ!?」

『エルルさん、殺気が零れてますよー』

「おっと」


 魔物種族が参加しない事で、レイドボスに返り討ちにされてしまえと思ってないかというと、まぁ、ちょっとだけ嘘になる。

 魔物種族の事を軽んじて、人間種族を美化する現在の状態に思うところも、まぁ無くは無い。


『……魔物種族わたしたち抜きで、倒せるものなら倒してみればいいんですよ』

「まぁそうっすよねー。……先輩も何気に怒ってます?」

『流石にちょっとは』


 いつかのエルルではないが……いい加減、魔物種族とモンスターを同一視するのを止めてもらいたいのも、それを放置するどころか利用しているのを止めてもらいたいのも、本音だ。

 …………いざという時の為に、人間種族贔屓が過ぎる神々への対抗手段ぐらいは作っておくべきか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る