第162話 10枚目:探索結果
私の予想が当たっていたのか、それとも植生そのものの関係か、ルピナスとカスミソウの生息分布が重なっているところは何か所も無かった。
手近なところから向かってみると、ルピナスはあっても白が無かったり、別の場所だとカスミソウに色がついていたりと、なかなか白のルピナスとカスミソウが一緒に生えている場所が無い。
最初に向かっていったルートのまま東回りに進んでいたので、最後になったのは2週目に突入してからのほぼ真東に当たる場所だ。此処が外れだったら、白いルピナスをカスミソウが生えてる所に持って来るか、その逆ぐらいしか思いつかない。
「キュー……(白いルピナスとカスミソウはー……)」
えーと、ルピナスはいっぱい生えてるな。色とりどりだけど。草葉の陰を探して……あ、カスミソウあった。よし、ここはちゃんと白いな。
白いルピナス、ルピナス、白色。赤、紫、黄、色とりどりだけど、今探してるのは白なんだよ。
うーん、無いぞー? やっぱり植え替えなきゃいけないパターンか、これ? もしくは花瓶を再現して花束にするとか? 花瓶ってどうやって作るんだっけ。
「キュ(少なくとも【鍛冶】じゃないよなぁ)」
陶芸ってスキル的には何になるんだろう、と思いつつ、カスミソウを避けて着地する。【飛行】の訓練も兼ねてずっと低空飛行してたからね。ちょっと休憩。
この辺は地面を這う形で伸びる下草がびっしり生えているので、他の場所に比べれば座り心地もいい。岩場とかならともかく、沼地みたいな場所には絶対下りたくない。なんか地形由来のデバフつきそうだし。
しかしどうしてこうも白いルピナスとカスミソウの組み合わせが無いのだろうか。なんか恣意的な物すら感じるぞ?
「キュ?(ん?)」
フリアド世界も現在は夜だ。なので頭上には真ん丸お月様が出ている。周囲は明るいが、虫の声とかは聞こえないのでたいへん静かな夜と言えるだろう。
深夜の森林浴と言うのもいい物だ、と、現実だったら色々な要因でこうはならない快適な静けさと涼しさを満喫していた訳だ。が、その静けさの中に、なんか嫌な感じにやかましい音が混ざっている事に気が付いた。
何だ? と思いつつピンと耳を立てる。耳を澄ませようと思うと自動的にこうなるみたいだね。別に音が聞こえる範囲が広がるとかそういう事は無いんだけど。
「――ケケケ――」
「?」
……笑い声、だろうか? 聞くだけでイラッとする感じの、少し聞こえただけでも満足していた気分が急降下するやつ。ほら、現実でもいるじゃん。真面目だったりほっこりしてる所に割り込んで台無しにしてくるバカ騒ぎ系の笑い声。
大体はその大本も碌な奴じゃないんだよな。私はあんまり空気を読むって言葉が好きじゃないんだが、それでもTPOをわきまえるぐらいは人間として最低限の礼儀だと思うんだよ。機嫌1つで世界が終わる程の絶対者ならともかく、大多数にとってのその他大勢の癖に、何を世界は自分を中心に回ってますみたいな顔してんだと。
という訳で身を起こす。さて、元凶はどこだー?
「ケケケ! ケケケケケ!」
「ケケ! ケケケケ!」
「ケケケケケケ!」
周囲を見上げるようにして見回した視界の中に、ふわふわと漂うようにしながら笑い声をあげている影が3つあった。某有名シリーズに出てくる小悪魔みたいな、小さな悪魔の羽に2本の角を持つピエロ染みた姿だ。
違うのはその手に持つのが槍ではなく、ペンキ缶という事だろうか。刷毛は持っていない。落書き小悪魔か? 端に垂れている色からすると、1体1缶のペンキの色は、赤、紫、黄のようだ。
…………うん。ものすごく見覚えのある組合せの色だなぁ。
「ケケケ! ケケケ!」
「ケケ! ケケケケケ!」
「ケッケッケー!」
ゲラゲラと笑うようにしながら小悪魔達は移動していく。その先には、ファンタジーらしく早回しのように茎が伸び上がり、今まさに花開こうとしているルピナスがあった。って待てあの蕾の色、白いじゃないか!?
いよいよ膨らんだ蕾の上に小悪魔達が到着する。ケタケタ笑いながら、その内の1体が手に持っていたペンキ缶を傾け、
「キュァアアアアアッッ!!!(お前らのせいかー!!!)」
「「「ケケケー!?」」」
ぼっ、と、私が上空に向けて撃ったブレスで吹き飛ばされ、驚きの声を残してきらーんと光るお星さまになった。ギャグかよ!!
うっかり【鑑定】し忘れたが、たぶんあれのせいでカスミソウに色がついていたり白いルピナスが無かったりしたんだろう。気付かなかっただけで他にもいる可能性が高いな。駆逐しなきゃ。
そう決意を固める私の目の前で、ギリギリ守る事に成功した白いルピナスが花開いた。その根元のカスミソウと合わさって、まさしくあの花瓶に生けられていた花束と同じ形だ。そうそうこれだよこれ、と1人地面でお座りしたまま頷く。
ポン!
やっぱり私の予想は当たっていたらしく、花開いたルピナスの上に、いつものボックス様の分体が現れた。そのまま、パンパカパーン! という音を伴ってぱかっと開く。
フットワーク軽いんだよなぁ! と心底感謝しながら、ぽん、とこちらに飛んできた、角がとれた形の、柔らかい布で出来た箱を受け取る。おや? 結構大きい?
ぱちん! と消えたボックス様(分体)を見送って、さて、と箱を開いてみた。
「キュッ(わぁ)」
そこに入っていたのは、一見すると皮のバングルのようなものだった。長さが大体15㎝、幅は1~3㎝で真ん中が太く端が細く、深みのある茶色の皮に、半透明な白い石を縫い付ける事で左右に伸び上がるルピナスと、その周囲を飾るカスミソウが描いてある。
実際に取り出してみると、端から細いチェーンが伸びていた。細いわりに長さがあるから、これは恐らくネックレスなのだろう。ただ長さ調節が結構な範囲で出来そうなので、今の姿でも着けられそうだ。首輪にしか見えないだろうけど。
デザインの時点で好きだしボックス様から貰った物だ。デフォ装備にしよう。と決めてから【鑑定】。
[アイテム:月燐石のネックレス
装備:アクセサリ(状態異常耐性+++++)
耐久度:Gi
説明:月燐石で“神秘にして福音”の神の神花が描かれたネックレス
身に着けた者を災いから守る力がある
また身に着けた者の余剰魔力を蓄え、不足した時に供給する力がある
信心と敬愛の証として贈られたもの]
うん。全くもうボックス様はこれだから。
最高かな? 最高だったわ。最高以外の何物でもないね!
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