第161話 10枚目:周辺探索

 カバーさんと報酬について話をして、そこからまたしばらくもふもふな蔵猫族の子供達(子猫だと思ったのは間違いじゃなかったらしい。大人はいないそうだ)に癒されたところで残りログイン時間を確認すると、残り半分を切っていた。ちょっと癒されるだけのつもりが、思ったよりもふもふを堪能していたらしい。

 広域チャットはもう機能しなくなっているが、未だに続くお祭り騒ぎは良く聞こえている。『本の虫』が提携している『銀のカトラリー』と共に、レイドボス撃破のお祝いを主導しているようだ。

 ……蔵猫族も大体寝てしまったか、「第二候補」の方に行っているかなので、今ならフリーに動けるだろう。


「キ、キュッ(そう、目撃者を恐れる事なくね)」


 別に完全犯罪をたくらむとか言う訳ではないし、そもそもまだ首には現在位置が分かるリボンが巻かれている。普通に周辺の探索だ。私だってたまには自分の好きに動きたい。

 それに、レイドボスを撃破した時のメールに「イベント期間内にレイドボスが討伐された為、イベント空間内の神関連イベントが大幅に増加します」って書いてあったからね。そりゃ当然、ボックス様のイベントを探さないと!!

 という訳で単独行動開始だ。よしよし、皆大騒ぎしてて周辺探索どころじゃ無いな。


「キューゥ……(さてどこから探したものか)」


 とりあえず人気の多い所から離れて、『本の虫』の人達によって作られたイベントマップを掲示板から引っ張り出す。うーん、地形のパッチワーク。そして見つかったイベントが書き込まれている。が、ボックス様のイベントは書き込まれていない。

 ボックス様こと“神秘にして福音”の神は大分有名になったから、イベントが見つかっていたら逃す人はいないだろう。イベントによっては一回こっきりの「早い者勝ち」もあるので、このイベントが増えたタイミングで探し出しておきたいところだ。

 と、なーるーとー……。


「キュゥ……?(今まで起こったイベントの隙間かな……?)」


 ボックス様の事だから、戦闘があったりパズルを解いたりという感じじゃなくて、見つけ辛い所に隠してあるのを見つけるとか、花に水をあげたり広場的な場所を掃除したり、そういう感じになってると思うんだよな。

 で、あんまり戦いを自分でする方ではないし、巻き込まれるのも出来れば回避する感じの性格だから、戦闘を行う、戦いや武器に関係する神のイベントからは距離がある可能性が高い。

 まぁ巻き込まれ回避っていうか、熱が入ってたり集中してるのをお邪魔するのは悪いよねーって感じの方がしっくりくるけど。平和なんだよなぁ。ほのぼのお茶しててほしい。


「キュ、キュッ(だとすると、その場でなんかする系からは離れてる場所を探そう)」


 とりあえず東回りにそれっぽい場所を巡る事にして、メインに【飛行】を入れる。そんなにスピードは出ないけど、周りをちゃんと探そうと思うと、のんびり行くぐらいでちょうどいいだろう。




 さてそんな訳で、ボックス様のイベントを探して、主に森や草原といった場所をうろうろしていると、意外と探し物系のイベントが見つかるようだ。……名前聞いても分からないんだけどね。

 建てる神殿が増えていくなー、と思いつつ、ちょこちょこと可愛いアクセサリやちょっとお得なポーションをお使いのご褒美感覚で貰いつつ探索を続ける。しかし本当にイベントの発生確率が上がっているらしい。

 一応全部発生場所はメモしてるんだが、すごい数になっている。そろそろカバーさんにメールで一括送信するべきか。


「キュー(でもそうすると探索に来る人も出だすよなぁ)」


 人が増えると身動きが取れなくなる可能性がある。うん。もうちょっと頑張ろう。

 さて、という感じで森を低空飛行しつつ、木のうろを見つけて頭を突っ込んでみる。んー、何もない。何かの巣でも無さそうだ。一般人間種族召喚者プレイヤーが手を突っ込んでみるのにちょうど良さそうだと思ったんだけど。

 頭をうろから出して、もう一度周囲を見る。月光に照らされている茂みを見つけて、そこへ潜り込んでみた。……んー、何も起こらないな。さっきからずっとこの調子だ。ここに時々、名前を聞いても分からない神からのプレゼントが混ざる。


「キュゥ……(噛んでないって事は無いと思うんだけどなぁ)」


 既に発見されたイベントの隙間を縫うように、北から東回りで移動していって既に1時間が経過している。寄り道多数、とはいえ、とっくに墓地は行き過ぎていた。

 所々花の咲いている森を低空飛行しつつ、ボックス様っぽいものがないか探していく。私にあるアドバンテージと言えば、やはりコトニワの記憶だろう。サービス終了から10ヶ月経ったとはいえ、まだ記憶は色褪せてもぼやけてもいない。

 そう。今も色とりどりの花が咲いてはいるが、ボックス様の好みはその姿と同じく真っ白い花だ。公式として見れた「庭」にも白い花が多かった。その中で特に多かったのは……。


「キュッキューゥ(白いルピナスとカスミソウが一塊になってる花瓶が可愛かったんだよね)」


 是非とも欲しくて初めて見た時から毎日一回は「ブーケ」とか「花束」とかで検索をかけてみたんだけど、結局イベントの成績次第で貰うしか入手方法が無かったんだよね。

 だったらだったで俄然張り切ったんだけど。張り切っても当時は同じく競う人が何人もいて中々ゲット出来なかったんだけど。流石に中学生には色々無理があった。

 ……うん? という事は、こっちでも白いルピナスとカスミソウが一緒に生えてる所を探せばいいんじゃないか?


「キュ、キュー……(えーと、植生分布とかあるかなと)」


 とか思いついたはいいけど、そんなん無いよねー。




 ……と思ってたら。

 あったよ。『本の虫』の人達すっげーな。

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