第160話 10枚目:レイドボスリザルト

 で。


「つまり、鬼門だったんです。あの墓地の位置及び四方の権能神による要から、このイベント空間では方角が重要になっている。早急に気付くべきでした」


 「第二候補」はさっさと寝てログアウトしてしまい、私は途中休憩を挟んだお陰でまだログイン時間に余裕があったので、「第二候補」を寝かせる場所として蔵猫族が保護されている部屋へと移動。

 にーにーと鳴いて寄ってくるもふもふに疲れを癒してもらいつつ、しれっとやってきたカバーさんから聞いた種明かしがこれだ。

 鬼門。……あー、そうか、北東って事はそうか、そうだ。あぁ、それでレイドボスのコアが南西にあったのか。裏鬼門だ。何で女子高生がすぐ思い至るんだって? ファンタジー好きの嗜みです。といっても、四神とかのついでだったから戦闘中には思い出せなかったんだけど。


『まぁ、何とか討伐できて良かったですよ。この子たちも助かりましたし』


 あー、もふもふ可愛い。最初よりかは他の人(主にソフィーさん達)にも慣れたのか、ぷるぷる震えるだけではなく興味が勝ったようにあちこちきょろきょろしている。可愛い。

 それに埋もれられるとか、ここは天国かな。抜け出せる気がしない。

 ……ソフィーさん達始め可愛いもの好きのプレイヤー? 自分達でお互いに沈黙の状態異常を掛け合って部屋の端っこに居るよ。視線さえ向けなきゃ静かなものだ。誰が思いついたんだろうね?


「まだ「第二候補」さんには言えていないのですが……「第三候補」さん、この度は多大なご助力、ありがとうございました」

『いえいえ、こちらこそ。本体を押さえつつモンスターの群れとコアを同時に相手取るのは、1召喚者プレイヤーでは不可能です。流石レイドボス』

「その本体を押さえてくれなければ、コアに辿り着くことは出来ませんでしたからね。「第三候補」さんと「第二候補」さんの貢献は多大なものですよ」


 重ねて、ありがとうございました。そういうカバーさんはいつものにこにこ笑顔だ。貢献かー。貢献なー。まぁうん、ソウダネ。

 それでいったら資料の捜索とか墓地の調査とか何と言ってもあの判断が光る指揮官っぷりに、プレイヤー達を焚きつけたあの演説と、カバーさんがいなければ攻略は出来てなかったと思うんだよね。


『ははは。特別MVPさんは謙遜が過ぎますね』

「レイドボス総合ダメージ1位さんこそ何を言っているのやら」


 まぁ、そういう事だった。あの後続けざまにメールが来て、何事かと思ったよ。しかもそのMVPとか順位とかが公開されているらしい。というか、それで見知らぬ人からのウィスパーやメールが山ほど来たから、余計にさっさと「第二候補」はログアウトしたんだろう。

 私はすぐにフレンド以外からの連絡を拒否する設定に変えた。カバーさんは、こうやって会話している間は何かしている様子は無いから、私達ほどではないか、何か対策しているようだ。

 ちなみに「第二候補」は、召喚モンスター撃破数1位だったらしい。そりゃ片手間とは言えあれだけ斬り払ってればそうもなるだろう。


『……で、本題はそのご褒美ですか?』

「お礼を言いに来たのが5割、この光景を見に来たのが2割、残り3割がそうですね」

『見に来た割合大きくありません?』


 これで確定したな。やはりカバーさんも可愛いもの好きだったのか。

 さてそれはともかく、正確に言えば私がとったのは、レイドボス総合ダメージ1位、最大ダメージ1位、攻撃回数1位と火力関係だ。まぁそりゃあれだけ大技(ブレス込み)を叩き込み続ければこうもなるか。

 カバーさんは自分が手に入れた特別MVPの報酬を既に公開していて、精神と魔力にボーナスが付いて即死の状態異常を高確率で防ぐ、ピアス型アクセサリだったようだ。普通に有用で、今も控えめな金色が耳を飾っている。


「もちろん無理にとは言いません。ですが、もしそれが扱いに困る物であった場合は『本の虫』の方で取り扱いのサポートをさせて頂けるかと思いますので」

『えぇ、まぁ、それは大変に助かるのですが』

「?」


 ここでカバーさん、私に来た報酬が斜め上の品だと気づいたようだ。ん? と疑問顔になった。

 私はしばらく考え、もういちどメールの文章を開いた。アイテムの詳細を表示させた状態でスクリーンショットを撮影し、それをメールへ添付してカバーさんへと送る。

 動作で何をしているのか大体察したらしいカバーさん。さくっとメールを開き……、


「…………なるほど、こういう報酬もあるのですね?」

『あるみたいですね。いえまぁ、理は通るんですが』


 たった数秒で再起動して、そう確認をとって来た。私としては、こう返すしかない。

 ……私が貰ったレイドボス戦の特別報酬は、上から順に総合ダメージ、最大ダメージ、攻撃回数の順で、こんな感じだ。


[アイテム:土地の権利書

説明:とある街があった場所及びその周辺の権利書

   神が保証した権利は決して侵害できない

   街を再興させるも、全く別の用途に使うも、それは持ち主の自由]


[アイテム:巨大な魔石

説明:とある研究の果てに完成した、ちょっとした家屋よりも大きな魔石

   使うにしろ換金するにしろ、その価値は計り知れない]


[アイテム:人造スライムの杖

装備品:杖(魔攻+・攻撃+)

耐久度:100%

説明:魔力を注ぐことで、装備者に従うスライムを召喚できる杖

   スライムの最大召喚数は装備者の魔力と魅力に依存する

   杖としての性能はそこまででもない]


 いや、すごい物だというのは分かるんだ。すごい物なんだよ。労力と釣り合ってないとは言わないさ。あの苦戦にふさわしい物凄いアイテムだ。それは分かる。

 けど、私が必要とするかと言うと……正直、微妙、と言わざるを得ない。


『……渡して喜ぶ相手に目星は付いているので、持っておこうと思います』

「分かりました。では、データだけアイテム一覧に記載させて頂きますね」


 権利書と魔石は「第一候補」に、杖は「第四候補」に渡すつもりだ。あの2人なら、使い方はいくらでも思いつくだろう。

 ……悪い物ではないどころか、すごーくいいものなのは間違いないんだけどなぁ。

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