第159話 10枚目:討伐結果

 そこからは流石に時間を見ている余裕は無かったものの、おおよそ背後に当たる南西方向から、雄叫びや悲鳴、爆発音に大技らしい効果音が聞こえてきていたから、あちらも間違いなく激戦だったのだろう。

 それこそレイドボス分体ぐらいは取り巻きとして現れていてもおかしくないし、時々高周波みたいな音が聞こえてきていたから、あっちはあっちで雑魚モンスターの召喚をやっていたのかもしれない。

 しかしまぁそれでも、士気は最高潮になっている召喚者プレイヤーが、ほぼ総動員で戦っているんだ。その結果が訪れたのは、ここまでから比べると、短い時間だったのだろう。



――――ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! !



 大技を叩き込んで叩き込んで、目の光が点るのとほぼ同時に形を無くすことを何度繰り返したか。いくつか治すのが間に合わない状態異常を抱えた状態で、それでも身動き一つさせないように叩き続けていた状態に訪れた変化は、劇的な物だった。

 悲鳴染みた声のような音、ではない。形を無くした状態から、形を無くした状態のまま、暗い穴がそのまま口になったかのように、どう聞いても明瞭な悲鳴が大音声で響き渡る。

 そこから、ぼごごぼごぼごり、と泡立つように黒いものは盛り上がり、形を成していった。けれどそれはレイドボスの、シーツお化けにヘドロをぶっかけたようなそれではなく、


『最後の最後まで悪趣味な……』

『届かぬものに手を伸ばすか。いっそ哀れよの』


 大きさだけは出現した時と同じの、巨大な手の形をとった。

 指の配置からして、右手だろうか。関節の位置も曖昧なそれは、めいいっぱいに指を伸ばし、腕自体も伸び上がり、地から生えて天を掴まんと……決して届きはしない何かを捉えようとするかのようだ。

 たぶん、放っておいても崩れるなりなんなりで消えるだろう。レイドボスの討伐演出かも知れない。が。


『いい加減終わっておけって言うんです!』

「[火の粉たりとて命を焼き尽くす炎よ来たれ――レプリカ・レーヴァテイン]!」

『ま、引導ぐらいは渡してやるとしよう』

「[照らし燃えゆく其れは葬送の灯――クレメイション・フレイム]!」


 クールタイムの関係で、咆哮が始まって最初に叩き込んだのと同じ、巨人が振るうような炎の剣を叩き込んだ。同時に色味の違う炎が手の形になったレイドボスを包んだので、「第二候補」も炎系の大技を使ったようだ。

 恐らく遠くからでも分かるだろう、雲まで焼き払ってしまいそうな程の火柱が上がった。その中心となったレイドボスは、しばらくは影として残っていたが、それでもすぐに崩れ、炎に溶けるように消えるのが見えた。

 完全に消えた事を証明するように、継続ダメージが発生する延焼は起こらなかった。しばらく見ていても、ぽっかりと空いた大きな穴からレイドボスの分体が這い上がってくることもない。


『……やったか?』

『おいバカやめろ』

『成立したらどうすんだ!』


 この状態からは割と本気で勘弁してほしいフラグを広域チャットで誰かが立てたようだが、どうやらそれは成立しなかったようだ。然程なく、視界の端で自己主張の強いアイコンが瞬いた。


[件名:イベントメール

本文:レイドボス「膿み殖える模造の生命」が討伐されました

   イベント空間内でレイドボスが討伐された為、全ての隠し要素が解放されます

   イベント期間内にレイドボスが討伐された為、イベント空間内の神関連イベントが大幅に増加します]


 唐突だった始まりと同じく、システムメールによって告げられた討伐完了。

 流石に今これに対し、味気ない、なんて空気を出すプレイヤーはいなかったらしい。


『『『おおおおおぉぉぉっっっしゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!!』』』


 広域チャットでも、防壁の上からも、四方の拠点も、南西方向の決戦場でも、そして恐らく通常空間でも――――歓喜の叫びが、爆発した。

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