第156話 10枚目:討伐開始

『それではこれよりクラン『本の虫』は、レイドボス「膿み殖える模造の生命」の討伐に向けて動きます。優先順位が高い方から指示を出しますので、該当スキルをお持ちの協力者様は順次行動を開始してください』


 バグでも何でもなく仕様として負けイベントをひっくり返せるのは楽しいよなぁ。エルルがいてこそ、とは言え、渡鯨族の所で前例が出来てたのも大きいか。

 そんな事を思っている間に広域チャットに矢継ぎ早に流れていくカバーさんからの指示。うんうん、最優先は洗浄剤(液体)の生産、ついでその材料の確保。その次が防衛戦力か。この時点で大体プレイヤーの配置は決まっただろう。

 そんな事を考えている間に、私に対してメールが届いた。もちろんカバーさんからである。一応まだ炎の海状態が継続している街(廃墟)の様子を見ていたのだが、それを中断してメールを開く。


「キュ(なるほど)」


 私に割り振られた役目は、レイドボスの咆哮潰しだった。全ての特殊行動は咆哮がトリガーになっている。それを、もうさせるな、という事だ。なお同じ内容を「第二候補」にも送っているとの事。

 「第一候補」の火力具合は分からないが、少なくとも現時点での最高戦力は私と「第二候補」だろう。それを、レイドボスの特殊行動潰しに費やすらしい。まぁその分体力も削れるだろうしね。

 その辺りでようやく炎の海が鎮火し始めた。消える時は早いんだこれが。そして、防壁の北東に当たる場所に、ひょっこりと「第二候補」が上がってきたのが見えた。東側は、一般召喚者プレイヤー達に任せてきたのだろう。


(あれ? そういえばフィルツェーニクさんの姿を見てないな)


 ……忘れていた訳じゃないぞ? 【人化】していると服装以外は普通の黒髪金眼の少年なんだ。人慣れしていない様子が可愛いらしく、主にリアル年齢が高めな召喚者プレイヤーに何かと構われていたのは知っている。

 ドラゴン姿だったら鎧も鱗も真っ黒で分かりやすいんだけどなー、とか思いつつ、炎の海が鎮火してようやく、もこりと膨れ上がって元の大きさを取り戻す、分体と同じ姿になったレイドボス本体。

 もこもこと膨れるのが止まり、赤黒い光が目のように灯る。そこから流れ作業のように滑らかに、ぐぱ、と口のように目の下部分を開き、


「キュァァアアアアアアアッ!!」

――――ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! !


 大体予想していたので、その最初の一音が出る前に、真上から2倍バフ状態でのブレスを叩き込んだ。召喚とは違う、悲鳴染みた声のような音が響き渡った。っち、思ったよりも削れてないな。

 上空に居るまま街(廃墟)の周囲を見ると、変わらず悲鳴染みた声のような音の場合はモンスターに混乱が付与されるようだ。流石に数も大概減ってきているようだが……あー、そうか。さっきの召喚ラッシュの中にボスモンスターも含まれてたのか。それがまだ残ってるんだな。

 その様子見の間に、やや嵩を減らしてレイドボス本体は形を取り戻していた。公式アナウンスにある通り体力と再生力が高い。


「[降り落ちよ――――プチ・メテオ]!」


 が。

 その時にはもう、足元に巨大な魔法陣を展開していた「第二候補」からの一撃が迫っている。え、私? 当然退避してるに決まってるじゃないか。一応「第二候補」にも巻き込みそうな相手への警告をするぐらいの良識はあったらしい。

 ぐば、と、心なしか先程より大きく口のように目の下部分を開いたレイドボスに、ズドォォオオン!! と轟音を立てて燃える隕石が叩き込まれる。あ、重さか勢いかその両方か、耐えきれなくてべしゃっと潰れた。再度上がる、悲鳴染みた声のような音。


「[朝日は眠りを切り裂く剣

 夕日は日の終わりを告げる槍

 光とは照らすだけのものではあらず

 時に形無きものをも屠る刃となる――]」


 まぁその間に私は次の詠唱を始めてるんだけどね。

 「第二候補」と交互とは言え、大技の連発は結構厳しい。集中力的にも魔力的にも。でもまぁカバーさんにお任せされて、何なら召喚者プレイヤー達の攻撃意思を代弁してるんだ。

 ここから先、討伐完了まで碌に動けると思うなよ……!

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