第148話 10枚目:休憩と違和感

 さてこういうデカブツ相手で問題になるのは、まずこちらの火力と耐久力。そして次に、中の人の気力と時間だ。まだ連休中とはいえ、やはりゴールデンタイムは夜だろう。

 蘇生(仮)を行う為に『本の虫』の人達と時間を合わせてログインしたからいつもとちょっと違うとはいえ、現在はリアル時間で5月11日の昼前。流石に今回の残りログイン時間で削り切るのは無理だ。


『ログアウトが迫っている方は無理せず申告して下さい! 応援を回して戦線を維持しますので、無理はしないで下さい!』


 というカバーさんのアナウンスが繰り返し広域チャットに流れる程だ。まぁ無理して倒れられたらその後が大変だからね。イベントエリア内で倒されると、リアル時間で日付が変わるまで再進入できない。それはまぁ、戦力的には避けたいだろう。

 とはいえ、魔物種族プレイヤー達と時間をずらせば大丈夫だろう私はともかく、多分今までの流れからしてほぼ単独で東側を守っている「第二候補」の代わりはどうするんだろうか。流石に替えが利かないんじゃない? 戦闘力的な意味で。


「いや、先輩もこれ、抜けられるとだいぶキツいっすよ!?」

『キッキー、こちらが飽和しそうになったらすかさず超威力ブレスで援護してくれますしねぇ。感謝ですウッキー!』


 それこそ南側と同じように、本体を叩かずモンスターの群れへの対処に専念すれば行けると思うんだけどな。というかニビーさん、同じ場所にいるんだから広域チャット使わんでも。

 まぁ替えが利かないと言えばカバーさんもそうだと思うのだが、そこは『本の虫』の人達でローテーションでも組むのだろう。何かカバーさんは私担当になってる節があるし。


『まぁ、私は西側の皆さんの都合に合わせますよ』

『了解しました、キキッ!』

『助かるッスブモー!』


 なんか直接喋るより広域チャット使う方が便利になってるな。まぁログアウトの都合は全体で共有するべき情報……というか、戦力バランスを一生懸命とっている『本の虫』の人達に提出するべき情報だから、確実に届く方法で喋った方が良いのは確かだけど。

 そうこうしている内に、広域チャット経由でざっくりしたタイムテーブルが送られてきた。まぁあくまで「お願い」であって強制ではないんだけどね。だってゲームだから。

 しかし、お祭りを楽しむには協力した方が良い、というのも皆分かっている事だろう。……分かっている筈だ。たぶん。きっと。恐らく。


『えー、ログアウト希望者が多いという事で、時刻も時刻ですし、一旦休憩をとる為の作戦を開始致します。「第二候補」さん及び「第三候補」さん、大技の準備をお願いします!』

『分かりました』

『承知したぞい』


 まぁお昼前だしなぁ。いくら休みの日と言っても、休憩時間に端末をいじればいい画面越しのゲームと違い、VRMMOはログイン自体にしっかり準備が必要だ。必然、日中の参加者はどうしたって少なくなる。

 いつもの方法で空中を駆け上がり、何度目かの街(廃墟)の全景を視界に収めた。自分にかかっているバフの状態を確認し、効果切れが近いものをかけ直す。


「キュ?(ん?)」


 宝石ブーストは何にしようかなーと考えていると、街(廃墟)を囲む防壁、その屋上に当たる通路に、なんかどこかで見た事のある感じの大きな壺が並べられている事に気が付いた。わらわらと人が行きかって、防壁の上に隙間なく並べていっているようだ。

 大粒のエメラルドを主体に小粒なサファイアで飾られた銀のブレスレットを食べる事に決めて、インベントリから取り出す。その時点で、ようやく「いったん休憩をとる為の作戦」を理解した。


「キュッ、キューゥ(あぁなるほど、例の液体洗浄剤で防壁の内側をコーティングする感じか)」


 で、その持ちを良くする為に痛打を与え、黒い川のようなドロドロを引っ込まさせる必要があるようだ。なるほど? 外のモンスターの迎撃だけを考えるなら、人数が減っても防壁を使えば何とかギリギリどうにかなるか。

 その予想は正しかったようで、開け放たれていた大きな門が閉められていく。耐久度もほとんど最大まで回復していた筈だし、最悪壊れても構わないならその耐久度自体を「盾」にして、周辺モンスターの防衛を出来る。

 なるほどねぇ。と思いつつブレスレットをぱくり。金属はまだそこまで美味しと感じる訳ではないんだけど、宝石だけで言うならフレッシュサラダが近いだろうか。さて、カバーさんからのゴーサインも来たし、東側でも何か魔力が高まってるし、【竜魔法】を強く意識しつつ大きく息を吸ってー。


「キュァアアアアアアアアッ!!」


 ぼっっ! と空気を引き裂く音を伴い、猫サイズの私自身より大きな直径の、僅かに青みがかった銀色のビームが発射される。反対側からは、白い炎の槍が雨のように降ってくるのが一瞬見えた。

 その両方はほぼ同時に着弾し、あちらも当たってから爆発する仕様だったのか、私だけの時より確実に大きく内側から胴体が膨らみ、爆発音を伴って、黒くドロドロした猫っぽいこけしの大半を吹き飛ばすようにして、破裂した。

 まぁ見てる間に元の形に戻るんだけどね。たぶん地下から吸い上げているんだろう。


「……キュ?(あれ?)」


 うん?

 そうだな。なんか、大きさが、最初の出現した時の大きさに戻って、る、よな?

 うん???

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