第149話 10枚目:驚異の回復力
どういうことなの。と、思った私の違和感は的外れでも無かったらしく、広域チャットがざわついていた。まぁそれでもログアウト時間が迫ってたからログアウトはするんだけど。
とりあえずさくっとリアルお昼ご飯を食べ終えて、外部掲示板で情報収集。あ、こっちでも大きさが元に戻ったことが話題になってる。だよねぇ。おかしいよね?
ログイン時間を合わせる為の指示は貰っていたので、そのまましばらくスキル情報なんかを探して外部掲示板巡りをすることにした。ほう、魔物種族専用通常スキル。【四足駆動】。あぁなるほど。獣人は人間種族分類だから、直立した姿が基本だからか。
「と」
それなりに時間を溶かしたところで、設定しておいたタイマーが鳴った。最後にもう一度あの違和感について外部掲示板を調べてみる。……んー、どれもこれも予測の域を出ないな。
ログインして内部掲示板のログをさかのぼるか、カバーさんはじめ『本の虫』の人達に聞いた方が早いか。仮説ぐらいはもう立ててるだろうし。
さーてレイドボス戦午後の部、頑張るとしますかー。
で。
「キューゥ(うっわぁこれは酷い)」
砦で頑張っていたニビーさん達に声をかけて防衛に参加し、代わりに休憩に向かった彼らを見送って、ずっと頑張っていたルチルにも休憩に入るように言って、ここまでの経緯を確認する為に開いた内部掲示板。
雑魚モンスターの群れを相手しつつ時々レイドボス本体にちょっかいを出す、というスタイルで戦いつつ目を通したそこには、予想通り『本の虫』の人達の推測が書かれていた。
それによると、少なくとも地下5階分の吸い上げにより全回復する事は間違いないらしい。予想を悪い方にシフトしていくと、まず次点で猫型魔物種族の意識あるいは生き残りがいて、レイドボス本体へのダメージのいくらかが再生に使われるという場合。
「キュッキュ、キュゥ?(ダメージ以上に回復しないとはいえ、総合体力が3倍やそこらじゃきかないんだけど?」」
その次が、レイドボス分体や周辺からのモンスターでプレイヤー側が負ったダメージ(ストーリー的にはそこで発生する負の感情か)がレイドボス本体の体力に換算される場合。与ダメヒールの変形だろう。
更に次が、バックストーリー的な読みで戦闘している人数と時間によって、ある程度固定値の回復が存在するという場合。まぁ戦闘ってストレスだしね。無双ならともかくこういう苦戦してる時だと特に。
そしてその次が、周辺からのモンスターを倒すとある程度体力が回復するという場合。この場合、レイドボス本体へモンスターが辿り着いた場合の回復量が固定値ではなく、その後一定時間のリジェネ型回復という事になる。
「キ、キュッ。キューキュッ(で、一番最悪がそれらの全部乗せと。体力と再生力が高いってアナウンスされてるからあり得るのがまた)」
ブレスを薙ぎ払うようにして雑魚モンスターを一掃しつつ、また街(廃墟)を囲む防壁より大きくなっているレイドボス「膿み殖える模造の生命」に視線を向ける。だけでなく、ルチルのようにほぼ無詠唱で済む魔法を連続で叩き込んだ。
わらわらとやってくるはずのレイドボス分体は、閉じられた門の上に居る浄化剤部隊によって片付けられている筈だ。ズドン、ドォンという爆発音は散発的なので、まだ処理能力には余裕があるらしい。
……いや、でもこれ、ほんとに倒せるか? 火力、足りてる? 足りてないよね?
『それこそ「第二候補」の全力攻撃を叩き込みつつ、私がレイドボス分体を全力で処理するぐらいの火力が必要なのでは……?』
『ふむ。やはり「第三候補」もそう思うかの?』
『まだ参加人数が少ないとはいえ、絶対に死んでやるものかと言わんばかりのこの回復要素を考えに入れた上で、あの超速再生を見てしまうと……まぁ』
『それは倒しきれなかった場合の最終手段と言う事でお願いします。もう1つの手段として、現在も洗浄剤は量産中ですし』
あぁ、北側の防壁を再建して、びっちり隙間を埋めて水攻めならぬ液体洗浄剤攻めリターンか。レイドボスとの反応で街(廃墟)は間違いなく瓦礫の山になるけど。たぶん地下6階まで。
それでもここで仕留めそこなうよりはマシという判断なのだろう。うん。そうだね。渡鯨族の時のことを考えると、ここで仕留めておきたいよね。
「ブモー、1つ伝えるのを忘れてたッス」
『おや、どうしましたみのみのさん』
しかし本番は夜になるとして、どうしたものかな。と考えていると、
「ッス。地下倉庫が資材置き場になってるんで、余裕があれば建材を入れておいてもらえるとありがたいッス。出来る範囲でこの砦のアップグレードもするッスし、『本の虫』の人達が一定間隔で回収しに来て防壁とか北側の修理に使ったりするッス」
『なるほど、分かりました』
「あざッス。この休憩終わったら南と東にも砦造りに行ってほしいって言われてるんで、ちょっとがっつり休んでくるッス。ブモー」
どうやらそれが伝え忘れだったようで、みのみのさんは引っ込んでいった。なるほど確かに、今も倒している数が数だからか結構な数の建材が手に入っている。え、空間の端で手に入れた分? もうとっくに自分用の神殿強化に突っ込んだよ。
ちょっとレイドボス本体への攻撃をお休みして、雑魚モンスターの群れを雑に迎撃しつつインベントリをチェック。うーん、【解体】があるから砦の周囲が大変な事になっている。
さてまぁそれはそれとして、ドロップが減ったとはいえゼロになる訳じゃない。結構色んな素材やアイテムの名前がずらずらと並んでいるインベントリを、容量にはまだ余裕がある事を確認しつつ眺めていった。
「キュ?(ん?)」
そしてその中に、「呪護の瞳」というアイテムが混ざっているのを見つけた。数自体はそんなにある訳じゃないが、モンスタードロップにしては違和感があるな。なんだこれ。
レイドボス本体をちらっと振り返る。どうやらモンスターを呼び寄せる範囲はその大きさで測れるようで、人数が少ない現在は一番大きい状態、つまり雑魚モンスターだけを呼んでいる状態だ。
なのでその呼ばれた雑魚モンスターは魔法の連射で片付けておく。次から次へと来るんだが、数ばかりの雑魚には負けないと決めたばかりだからな。適当に殲滅させてもらうぞ。そうしながら、「呪護の瞳」というアイテムの詳細を引っ張り出した。
[アイテム:呪護の瞳
説明:ガラスで作られた目玉
この地域に伝わる呪いや災いから身を守る為の道具
身代わりとして災禍を引き受け、割れ砕ける事で持ち主を守る
他者から贈られるとより効果が増すと伝わっている]
うん?
記念品と言うかご当地ドロップ品、という訳でも無さそうだし、というか説明文に身代わりって書いてある?
で、他者から贈られるとより効果が増す……と、伝わっている、だけど、その辺のニュアンスは今回に限れば確定情報として読み取って構わないだろう。
「キュ、キュ、キュッ。キュー(身代わり、を、贈る。その必要がある相手)」
…………、あっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます