第147話 10枚目:ゲージ行動

 恐らく西と東……私達と「第二候補」が押し負ける事は無いだろう。というか「第二候補」なら魔法で本体と分体を叩き、同時並行で仕込み杖を抜いて雑魚モンスターをなます切りにするぐらいはやっている筈だ。

 北側もまぁ設備が整っている上に人数が居るからまぁ大丈夫として、問題があるとするなら南側だ。戦闘が始まるまでに、いくつか人間種族プレイヤーのクランらしい団体が南へ向かっていったのは確認しているが……。

 と、考えていたところに、タイミングが良いのか悪いのか。ウィスパー、ではない。恐らくはレイドボスを相手にしているとき専用の、全体通信のような声が届いた。


『すまない! 誰かあのデカブツを叩いてくれ! あの野郎嵩を増やして防壁を取り込みにかかって来やがった! 洗浄剤で対処はしているが、このままじゃ南が全滅する!!』


 どうやら、防壁を利用して、レイドボスの回復阻止こと雑魚モンスターの殲滅に専念していたようだ。なるほどね。「第二候補」のように戦闘に関してはもはや別次元な特級戦力が居る訳でもなく、この砦や北側のようにしっかりした拠点も無いならそうなるか。

 ていうか、誰かと言いながらそんな事できるのは限られてると思うんだけどどうなんだろうね? あぁいや、あの液体洗浄剤が用意出来れば、投石器に壺をセットして叩き込むとかも出来るのか。それは確かに効きそうだ。

 まぁいいか、と【風古代魔法】で空気の足場を作って上空へと駆け上がる。バフはかけられる分は全部かけてあるし魔力に余裕はある。はいそれじゃあ大きく息を吸ってー。


「キュァアアアアッッ!!」


 上空から見たレイドボス「膿み殖える模造の生命」は、街(廃墟)の真ん中にドロドロした猫っぽい異形のこけしを置いた感じの姿をしていた。周囲の地面というか道には黒いドロドロしたものが川のように流れ、途中までその流れに乗って移動していたレイドボス分体が大きく開かれた各方向の大門からはぞろぞろと出て行っている。

 そしてそのドロドロした黒い川のようなものの端が、もうすぐ各方向の防壁に辿り着きそうだった。あれが一か所でも辿り着いたら大変な事になるのだろう。

 なので、フルバフ状態のブレスを、本体の胴体に当たる場所へと叩き込んだ。着弾地点に波紋が広がるようにして穴が穿たれ、一拍置いて内側から膨れ上がり、爆発する。


『ふむ、やはり瞬間火力では「第三候補」の方が上かのう』


 遠目には濁流にも見える程の数のレイドボス分体に対処するべくすぐに高度を落とすと、広域音声チャット的なもので「第二候補」の声が聞こえた。あぁうん、あっちからも見えたらしい。

 けど、こっちからも見えてたんだよなぁ。何をどう組み合わせたのか、あるいは中間属性のアビリティなのか、恐らくは「第二候補」が叩き込んだらしい魔法が。


『そっちはそっちで大概えぐい事をしていると思うのですが?』


 見た目は氷の槍だったんだけど、着弾地点から周囲が凍って行って、凍った所が棘のように伸びて分離。それが周囲に刺さり直してまたそこから凍って行って、という、多段コンボ型の攻撃だった。えっぐいわ。

 背後に迫っている雑魚モンスターと同じくらい数が居るレイドボス分体へ、規模だけを大きくした短発ブレスを叩き込んで纏めて吹き飛ばす。多少の街(廃墟)への被害は許してほしい。


「どっちも1人で出す火力じゃないと思うっす……。今ので目に見えて縮んだとかどうなってるっすか……」


 何度目かの魔力回復休憩に入っていたフライリーさんが何か呟いていたが、多分その内魔法に関してはあなたも人の事言えなくなるからなー?

 私が一緒にレベル上げしてたとは言え、現時点の魔法スキルの最高レベルだけで言えば正直そろそろ私といい勝負になってる筈だぞー?




 まぁそんな調子で、残り時間とそろそろ相談しなきゃいけないか、と思いつつレイドボスを削って行ってたんだ。どうやらあの「第二候補」とほぼ同時に叩き込んだ大きな一撃で、黒い川のようなドロドロは一旦引っ込んだらしい。

 その後は西と東の大門脇にもプレイヤーが派遣されて、黒いドロドロの広がり方を監視するようになったらしい。そしてそのたびに私と「第二候補」が大きな攻撃を叩き込むと。

 通常攻撃でもそれなりに嵩は縮んでいっていて、もう少しで防壁に隠れるかなーと言うところまで縮んだ時に、レイドボスが動きを見せた。



――――オ゛ォ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! !



 それはまるで戦闘開始の焼き回し。目のように見える光の下あたりをぐぱっと開いて、太く低い濁った声のような音で咆哮した。

 戦闘開始直後には周囲のモンスターがかき集められていた。だが今の所そちらには対処できている。そして順調に体力を表すだろう大きさは減って来た。さてその上でもう一度咆哮、という事は?


『うわっ!? 中ボスが来やがった!』

『こっちもだ! あぁくそ、ジェネラルが雁首揃えてくんな!』

『キッキー! 一回り大きいのが来ましたが敵ではありませんね! こちらはお気になさらず!!』


 単純に数が増えるか、とも思ったが、広域チャットから聞こえる声からすると違うようだ。なるほど、中ボスね?

 ちら、と振り返ると、なるほど。取り巻きらしい同型のモンスターより一回り大きい人面ライオンのようなモンスターが、悠々と歩いてきているところだった。

 尻尾の先がウニみたいな全方位の針山になっているから、あれってもしかしてマンティコアか? 尻尾の針の毒に注意の奴。


『この分だと、あと2回ほどは吼えそうですね、あいつ』

『えぇ、そうですね。ダンジョンとはいかずとも、キング級等のボスは確認されていましたし』


 一応確認も兼ねて広域チャットに声を投げる。すると南への応援を指示していたカバーさんからの応答があった。あー、うん。やっぱりカバーさんは想定していたようだ。


『ほ? ではあと1回ではないのかの?』

『世界の端に何が待ってたのかもう忘れたんですか』

『おぉ! なるほど、あれが来るという事じゃの!』

『可能性ですが、備えておいた方が良いでしょう。その時は「第二候補」さん、お任せしてもよろしいですか?』

『もちろんじゃ! クカカカカ、今から楽しみじゃわい!』

『南とか耐えきれるわけありませんからね。しかしまー楽しそうに、全くこの戦闘狂は』

『誉め言葉じゃな!』

『誉めてません』


 たぶん、吼えるごとにモンスターを呼び寄せる範囲が広がるのだろう。そして最終的にはこの空間の端まで行く可能性が高い。文字通り総力戦というか、強制的にこの空間を枯らせにかかる感じだろうか。

 勝てば良し、負けても空間の歪みはモンスターの大量発生で思い切り消費される、という事だろう。いやまぁ、それが当初の目的である以上、それが達成できるのは良いんだけどね?

 ちょっと、そう、ちょっと難易度がハードじゃないかなって思うだけで!

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