第146話 10枚目:挟撃籠攻城戦
まぁともかく、レイドボス戦と書いてお祭りと読む、このキャンプイベントの締めにふさわしい盛り上がり部分だ。頑張っていこう。
いったい何をどう魔改造したのか、この砦にはしっかりと迎撃設備が備え付けてあるらしい。……そもそも届くのか? 大きさ的には街(廃墟)の、今はレイドボスを囲うような形になってる防壁の方が大きいんだけど。
「キキ! レイドボスには取り巻きがつきもの、ダメージがそのまま取り巻きになる可能性もあるという事で、その掃除用ですね!」
『あ、そっちでしたか』
同じく砦の一番上へ上がってきて、肩をぐるぐる回してやる気をみなぎらせているニビーさんから説明があった。あぁなるほど、確かにシーツお化けにヘドロをぶっかけたようなあれが居たか。取り巻きあるいはダメージへのカウンターとして出てくる可能性はそれなりに高い。
まぁ備えがあるなら思い切り叩いても大丈夫か、と、まずは自分にありったけのバフをかけ始めた所で、まず一手、というように、レイドボスに動きがあった。
再び顔(?)を天に向け、口(?)を大きく開き、太く低い濁った声のような音で、咆哮したのだ。……ただの威嚇、とも思えないな。
『うわ、マジか!?』
『ちょっとバリスタ借りるわよ!』
『もってけ! つかそっちメインで使え!』
とか思っている間にばたばたと階下が騒がしくなる。バフをかけるのは止めずに、くるっと振り返ってみた。
さてここで質問なのだが、レイドボスの初手で「よくある」手とは何だろうか?
『……そう来ますかー』
答えは、取り巻き召喚。
問題なのは、それが自分の足元から湧いてくるとか近くに召喚するとかじゃなくて、「周辺のフィールドに居るモンスターを呼び寄せる」という形だという事だ。
「キッキー、こういう形の挟撃になるとは思いませんでしたね! キキ!」
『まぁなってしまったものは仕方ありません。触れれば侵食されるという特性である以上、物理攻撃と近接攻撃が死んでましたからね。多分レイドボスまで辿り着かれると回復するんでしょう』
「なるほどそれは抗戦し甲斐がありますね! ウッキー!」
とか言って、ニビーさんも物理攻撃がメインだったのか、砦の反対側……森だった場所へ面した方へと行ってしまった。あーもー。
そして入れ替わりに上がって来たのは、ルチル(カナリア姿)とフライリーさんだ。どうやら無事あの大量の貰い物を、この砦の倉庫となっている部屋に置いて来れたらしい。
『あれ、他の方はどうしたですかー?』
「もうちょい人数いませんでしたっけ?」
『存外魔法火力より物理火力の方に自信があるヒトが多かったみたいですね』
……まぁ、プレイヤーに分かる範囲の魔法って言ったら【○○属性魔法】になるしなぁ。仕方ないか。
フリアド史上初めて(公式アナウンス的な意味で)のレイドボスで、かつ体力と再生力が高いと言われていただけあって、その火力自体は大したことが無い……というか、ほとんど攻撃自体が飛んでこなかった。
まぁ触れば侵食されるという凶悪極まる特性がある以上、それでガンガン攻めて来られると手の出しようがないので、バランス的には良いのかもしれないが。
なのでレイドボス「膿み殖える模造の生命」の攻略法としては、いかに周囲からかき集められる通常雑魚モンスターと、本体にダメージを与えると発生するレイドボス分体をうまく処理できるか、というところがポイントとなるのだろう。
「ひぇぇ……削れた気がしないっすー!」
『それでもやるしかありませんね。後ろで皆さんが再生させないように頑張っていますし、体積的に減ってはいる筈ですよ』
「減ってるように見えないっすー!」
数は少なくても個々のステータスが高い魔物種族プレイヤーが集まった西門前砦では、ルチルとフライリーさんが本体を叩き、私がレイドボス分体を処理、通常雑魚モンスターに他全員で対処して回復を阻止するという形で、ちくちくとダメージを積み重ねていた。
え、何で本体を叩くのが私じゃないのかって? だから、削った体力に応じたレイドボス分体が出てくるんだってば。私の火力で出て来たレイドボス分体をルチルとフライリーさんが処理できる訳ないじゃん。
レイドボス分体はオーバーキルで問題ないどころか、その後に便利お掃除魔法3セットを叩き込んで綺麗にする必要がある。火力はレイドボス分体の処理の方が必要なのだ。
「うえぇ……ちょ、ちょっとたんま、魔力切れっす……」
『はい、休んでください。自動回復スキルの経験値は美味しいですか?』
「確かに経験値は魔法系全部うまいっすけども!」
メニューを開いているところを見ると、今までの比ではなく上がっているスキルレベルにある意味慄いているのだろう。ははは。それぐらいの勢いで成長してもまだまだ全然足りないのが魔物種族だからなぁ。
ちなみに私も魔法系スキル(自動回復も含む)の経験値が大変美味しい。地味に滞空しているので【飛行】スキルにも経験値が入っている。レイドボスを削り切るまでにどれだけレベルが上がるか今から楽しみだ。
ルチルは喋っていないが、それは文字通り歌うように連続で詠唱をして魔法を撃ちまくっているからだ。カナリアさんの歌声は綺麗だね。やってることは弾幕張りだけど。
「つか、何で魔力切れを起こさないんすか……?」
『レベルも自動回復スキルも上げてるからでしょうね』
「ひえぇ……。モンスター対処枠の先輩方も、よくあの数相手に押しつぶされないっすね……特にあの牛頭の人、完全に無双系ゲームじゃないすか」
『まぁ、経歴を考えれば妥当でしょう』
たぶんみのみのさんの事だな。草食動物として肉食動物の群れを返り討ちにするとなれば、それはまぁ当然、凄まじいレベル上げになっただろう。システムスキル的にもプレイヤースキル的にも。
ちら、と時々見る限りだけでも何度か致命傷を受けているが、戦闘不能になった様子はない。多分ふんばり系のスキルもかなり高レベルになってるな、あれ。残り体力に応じて攻撃力が上がる感じのスキルも持ってるのかもしれない。
『第一陣は、周囲の理解もありませんでしたからね。メニューから開けるのはイベントページとスキル一覧だけ、設備の利用どころか他のプレイヤーとの接触も碌にないという状態でしたから』
「うっわー……改めて聞くと、よく先輩達は皆投げませんでしたね……?」
『実際、何度か投げようと思ったことはありますよ。魔物種族専用掲示板が唯一の支えと言っても過言ではありませんでしたし、そこに参加して積極的に発言していた内でさえ、数名の脱落者は出ましたから。読む専だったり、そもそも掲示板に参加していなかったプレイヤーがどれほど脱落したかは分かりません』
苦笑して敢えて軽く語ってみたが、フライリーさんは絶句してしまった。まぁねぇ。
改めて言うが、私は最初の1ヶ月に学生のアドバンテージである夏休みをつぎ込んでいる。ログイン制限目一杯、1日9時間、内部時間にして36時間を、丸1ヶ月だ。
私が特に成長し辛い世界三大最強種族の一角であったとしても、かけられる時間が短ければそれだけスキルを上げるのは大変な筈だ。だから恐らく、最初の1ヶ月の苦労はたぶん、それほどは変わらない。
『――だからこそ、この程度では負けませんよ。思うように動く体があり、取れる武器があり、仲間まで傍に居るのです』
切れてきていたバフをかけ直すついでにその一部を雑魚モンスターに対処している面々に振り向けて、聳え立つ塔にも似たレイドボスへと視線を向ける。
減る様子のないレイドボスの体力に、押し寄せる雑魚モンスター。主に北側の様子を知る為に時々見ている、レイドボス用の掲示板は阿鼻叫喚になっているが……。
『それがどれほど得難い助けか、私達はよく知っていますので』
まぁ。
負ける気はしていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます