第133話 10枚目:欠片からの神託

「ん? なんじゃおぬぐほぉっ!!」


 輪郭がぼやけるように光る白い長髪に黒目の非常に中性的な、トーガを纏ったヒトの姿。人混みの中に居たら絶対に見つけられないと断言できる程特徴のない顔立ち、平均的な背格好。普通に、普通「過ぎる」その見た目。

 それに反して、出現も、存在も、一切感知出来なかった。にも関わらず、秒で「それ」に対して戦闘態勢に入ろうとした「第二候補」の頭を、後ろから思い切り蹴り飛ばしてそのまま地面に叩き伏せる。

 すぐに【吸引領域】の条件を、効果範囲を半径0に、接触対象のみに発動、最低限の生命力と魔力を残すという風に変更。あの初対面の時と同様身動きを封じる設定だ。ほんとにもうこの戦闘狂、相手ぐらい選べ!


「ぐふぅ……何をするんじゃ「第三候補」……」

『こちらの台詞ですこの戦闘狂。何を敵に回そうとしてるんですかこのおバカ……!』

「じゃから当たりがキツくないかのう?」

『至極妥当ですよ殊に今回は!』


 べちん! と割合強めに尻尾で叩いておく。「痛!?」と悲鳴が上がるが、相手の推定正体考えたら妥当だよ!!


「じゃがの。いきなり現れて、謎言語で声を出せば、怪しいじゃろうに……」

『おーけー分かりました。いいからちょっと黙ってろ』

「ついに敬語まで剥がれたんじゃが?」


 黙ってろって言っただろ。と意を込めてもう一発尻尾ビンタ。ガチ声の素喋りにもなるわ。

 とりあえず、その間も穏やかな微笑みを浮かべたままじっとこちらを見ていた「それ」に対し、頭蓋骨の上で姿勢を正し、ぺこりと頭を下げた。


『お見苦しい所をお見せしました。友が無作法をしてしまい、申し訳ありません』

〈ふふふ。彼の反応が普通なんだろう? 問題無いよ〉


 あぁ、うん、心の底から今になって思う。人間を埋葬できる程の資料の山の翻訳作業をやっておいて、本当に良かったと。本当に、本っ当に、何がどう幸いに転ぶか分からないもんだな……!


『お許し頂き、誠に有難うございます。――御名をお教え頂いても、宜しいでしょうか?』

〈うんうん、いいとも。僕は大神の権能の一部に、大神の眷属神によって一時的に意思を与えられた仮の神。役の名を権能神。“起床にして就寝”の権能神だ〉


 ほ ら み ろ!!!

 声の聞こえ方がティフォン様と一緒だったんだよ! その時点で確実に神の一柱に決まってるじゃないか!!

 「第二候補」の反応で【神話言語】が無いと聞き取れないって言うのも確定情報! 終わったら即カバーさんに連絡だ言語スキルが重要過ぎる!!


〈僕の主な役割は、この空間の安定だ。だからこの空間が無くなれば役目は終わる。よく僕を見つけられたね? 異世界から渡り来た魂達〉


 あ、はい。やっぱり隠しキャラというか、チャレンジクリアボーナス扱いだったのか。まぁそりゃそうだな。まさか大神の一部とかいうパワーワードが出てくるとは思わなかった。

 視界の端で、様子見をしていた撮影班の人達が撮影を再開しているのを確認。よしこのまま話を聞こう。


〈まぁ、見つけたからには褒美を与えるのも僕らの役目だ。まずは、かのモノに眠りを与えた功績に対して〉


 ぽん、と、権能神“起床にして就寝”が手を打ち合わせると、上からキラキラと光の粒が降って来た。何これ? と思っている間に目の前にウィンドウが展開する。


[称号『眠らぬ故に起きぬ存在の討伐者』が付与されました

アイテム「眠らぬものの残滓」がインベントリに送付されました

アイテム「起きぬものの夢」がインベントリに送付されました

アイテム「星金ほしがなの鍵」がインベントリに送付されました]


 お、おう、一気に来たな。えーと、称号とアイテムが3つか。詳細は後で確認かな、これは。しかし、残滓に夢って、何だこれ。


〈では続いて、僕を見つけた事に対して〉


[称号『最高位神格(欠片)との謁見者』が付与されました

称号『隠された神気の発見者』が付与されました

スキル【神話言語】が付与されました

スキル【神話言語】を既に習得しています

スキル【神話言語】のレベルが上がりました]


 あ、うん。本来ならここで【神話言語】が入るのか。……受け取る難易度が高いのでは? いや、攻撃せずじっとしてれば何か動きがあった後に言葉が分かるようになるって事か。

 ……いや、やっぱり受け取る難易度が高いのでは?


〈そして、この空間の端に最も早く辿り着いた者として〉


[称号『最速開拓者:[]』が付与されました

称号『最速北端到達者:[]」』付与されました

アイテム「建設修復用素材:石材」×10000がインベントリに送付されました

アイテム「建設修復用素材:木材」×10000がインベントリに送付されました]


 何か違和感のある称号はちょっと置いといて、これは普通に嬉しいやつだ。1万はなかなか大きい。高難易度野良試練ことダンジョンをクリアしても数百だから。これで自分用の神殿の強化が進むよやったね!


〈うん。これで全部かな。あぁ、ようやくの眠りに就いたかのモノの残骸は、君たちの好きにするといい。……と言っても、これは目覚めも眠りも無かったモノの、ほんの一部だ。また来る者がいるのなら、何度でも姿を現すだろう〉

「なんと。何度でも戦えると」

〈そうなるね。もっとも、何度倒しても僕からの褒美はこの1度限りだよ〉


 恐らく【神話言語】が入った為だろう。自分の興味が向いた部分はきっちりと聞き取った「第二候補」が、ほ、っと頭を上げた。……流石にもう暴れないと思うので、【吸引領域】をOFFにして、横の地面に移動する。

 ふーむ。しかし「僕からの褒美は」ねぇ。


『質問をしてもよろしいでしょうか?』

〈うん、いいよ〉

『有難うございます。……御身と同じく、大神の権能から此度の為に生じた神は、あと何柱居られますか?』

〈あぁ。それは、あと3つだよ。ふふ、全部見つけられるかな?〉

『探すつもりではあります』


 やっぱりか。てことは、中央の街(廃墟)から真っすぐ進んだ空間の端にそれぞれ居るって事だな。空間の安定なら四方に要石を置くのは理が通るし。真ん中に要石が置けないならなおさら。

 よっこいせ、と起き上がった「第二候補」がその場に座り直すのを待ったのか、少し沈黙を挟んで、権能神“起床にして就寝”は言葉を続けた。


〈探すといいよ。あぁ、でも、空間の端を辿っていくのはお勧めしない。境界近くは、どうしたって不安定だ。何時何処で、どう放り出されるか分からないから〉

『分かりました、気を付けます』

「うーむ、仕方ないのう」

〈他の神の力が凝ったナニカは、空間の内側、中央の外側に広がっている。縁があれば見つかるだろうね〉

『そちらも探します。有難うございます』

「ほほう」


 にこにこと、特徴のない姿で、特徴のない微笑みを浮かべたまま、権能神“起床にして就寝”は結構重要な情報をぽんぽんと寄越してくれた。これも初到達者特典に入るのだろうか?

 けどまぁ貰える物は貰っておこう、と、真面目に聞いているその目の前で、権能神“起床にして就寝”はもう一度、ぽん、と手を打ち合わせ、


〈中央のアレについては、墓地の最も高い場所で眠る死者に話を聞くと良い。不死族の魔力と竜族の血があれば、一時的に目を覚まさせることが可能だろう。何せその死者は、アレの発生に直接関与しているからね〉


 実に気軽に、爆弾を落としていった。

 それを聞いて、思わず「第二候補」ともども固まった私に構わず。

 恐らくは現れた時と同じように、綺麗さっぱり、その姿を消したのだった。

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