第132話 10枚目:鎧百足と戦闘狂
うーんこれは、開発者が真っ白に燃え尽きてしまっているかもしれない。
「第二候補」、ではなく、その周囲で戦闘の余波どころか焚火で飛び散る火の粉程度の影響で死にそうになっている『本の虫』の撮影班の人達のサポート、というか、保護をしながら、更に高度を上げて完全に俯瞰で戦闘を眺めつつ、そんな事を思った。
と、いうのもだ。禍々しい見た目にふさわしくその攻撃は多彩で、厄介で、相手をするのは大変だというのが見ているだけで分かるような、そんな、非常に分かりやすい「強敵」なのだが。
「クカカカカカ! どうしたデカブツ! そんな図体をしておいて、まさかこんな小さくて軽い骨を相手に掠り当たりすらできんとはのう!?」
……調子よく挑発する「第二候補」ことドザエモンが、強すぎるのだ。
うん。焚火で飛び散る火の粉程度の影響、と言ったが、その元となる焚火が怪獣大決戦な規模だったら逃げ惑うのも仕方ない。それでも撮影を続けるガッツはすごいと思うけど。だから保護に力を振り向けてるんだし。
具体的に戦況を解説すると……リビングアーマーキメラには、無数の手がある。鎧の腕部分だ。そこには色々な武器が握られている訳なんだが、その中には杖もある。そして、杖は魔法を飛ばしてくる。本体とは違って独立しているのか、ランダムでものすごく邪魔だ。時々、結構威力のある魔法も混ざっている。
「カカカ! その程度か!?」
まぁ「第二候補」はあっさり斬り払うんだけど。
で。図体が大きいリビングアーマーキメラは、腕をロケットパンチのように飛ばす事が出来るらしい。当然、武器を構えた状態で。その勢いと見える範囲での武器の質を考えると、たぶん、タンカーでもまともに喰らえば蒸発するんじゃないかな。
まぁ「第二候補」はしれっと避けるんだけど。
「クカカカカ! どうした、どうしたどうしたどうしたぁ! その図体は見掛け倒しの案山子か!?」
普通は単純に大きいってだけで脅威なんだよ。下手に近寄れば無数の手足とそこに装備された武器やスパイクですり下ろされるだろうし。力も強いみたいだから、捕まったらたぶんそこで終わりだ。近接殺しだな。
まぁ「第二候補」は近寄る端から手も足も関係なく斬り落とすんだけど。
あと地味に厄介なのが、弓やクロスボウを持ってる腕もあるって事だ。これが意外と正確な狙いで飛んでくる。これも質がいいのかそれとも力が強いからか、地面に刺さった矢が半分以上埋まってた。まともに受ければ2・3人まとめて串刺しにされても不思議じゃない。
まぁ「第二候補」は片手間で叩き落とすんだけど。
『そもそも近寄れず、離れていれば魔法の雨霰。タンカー殺しの一撃必殺火力もあって、頭が無数にあるから回り込むのも難しい。本来なら、納得のレイドチャレンジボス、だったのでしょう』
ただし。「第二候補」からすれば、活きが良くてスリルもあって削りがいまである、戦闘的な意味でのご馳走でしかない。
……うん。このボスを理不尽として考えた開発者は、泣いていいんじゃないかな。
途中から、ロケットパンチとして飛ばしてきた腕が時間差で爆発するようになったり、矢に魔法が付与されたり、ステータスアップ系の魔法が発動したりとどんどん厄介さが上がっていったリビングアーマーキメラ。
普通に戦う分には厄介どころでは無いし、庇いきれずにやられてしまった撮影班の人の様子を見るに、うっかり倒されると装備を奪われて相手の一部になるという効果があるらしいことも判明した。
まぁ、しかし。
「これでしまいじゃ!!」
残念ながら、テンションマックスな「第二候補」には通じなかったんだけど。そもそも骨にローブであとは武器だけだから、盗れる装備が無いんだよなぁ。
戦闘しながら溜めていたらしい一撃。多分魔法を併用した斬撃を飛ばす……というより、刀身を瞬間的に伸ばす、感じだろうか。
「[斬空閃]!」
いや、アビリティだなあれ。私の詠唱と同じ、意味だけが通じる謎システムによる謎言語。
真正面から縦一閃。リビングアーマーキメラは、ぴたりと動きを止めて。
「ふっ、中々良き戦いじゃったぞ」
そんな事を言いながら「第二候補」がぱちんと仕込み杖を杖の形に戻したと同時、真っ二つに左右に分かれて、痩せた地面に転がった。
ガラガラゴロンと聞きようによっては何重にも重なった鐘が鳴るような音を立ててただの装備の山と化したリビングアーマーキメラ。……そう言えば【鑑定】し忘れたな。結局何て名前だったのか、後で『本の虫』の人達に聞こう。
……あれ? 戦闘は終わったのにリビングアーマーキメラが消えないな? もしかして「第二候補」も【解体】持ってるのか?
「む? 「第三候補」、何かしたかの?」
『心当たりが無くもありませんが……「第二候補」、【解体】というスキルに聞き覚えは?』
「何じゃそれは?」
おや。じゃあ私のせいか?
パーティ組んでたしそのせいかな。と思いつつ高度を下げる。……ドロップ品になってしまうより実入りは多くなってそうだから、まぁいいか。
『戦う職業の住民が原則として覚えているスキルで、倒した相手がそのまま残るんですよ。ドロップ品が若干減って手で解体する手間は増えますが、まぁ一応それなりに簡略化されていますし、実入りは確実に上がりますね』
「ほほう。手間が増えるのは難じゃが、総合して一体当たりの収量が増えるのじゃな」
これが無いと、戦闘で死んだらお葬式も上げられないってエルルが言ってたからね。モンスター相手なら無くても問題ないと思うけど、万一そうでない可能性があるなら必須だ。あんまり浸透してないけど。
さらに一段上げていた高度が3mぐらいまで下がり、撮影班の人達がこちらの様子を窺っているのも確認しつつそんな会話をしていると。
〈やぁ。目覚めも眠りも無かったモノに眠りを与えてくれてありがとう〉
絶っっっ対に何もなかった場所から、そんな声が、聞こえた。
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