第134話 10枚目:順路と警戒情報
はっ、と、恐らくはほぼ同時に我に返った私と「第二候補」がまずやったのは。
『とりあえずカバーさんに報告ですね』
「急いで他の世界の端に向かわねばの」
『は?』
「ぬ?」
ケンカだった。
まぁ【吸引領域】があるから秒で私が勝ったけど。何せ、実質触れば勝ちだ。
「のう。いくらなんでも強すぎんか、そのスキル」
『まぁ私の世話をしてくれている人曰く、「何かどっかぶっ壊れてる」らしいので』
「なんじゃと。よく修正が入らんのう」
『えぇまぁそれは思いますが』
と言う訳で、うつ伏せに倒れた「第二候補」の頭蓋骨の上に乗ってカバーさんへのメールを書いて送る。撮影班の人達も戻ってるみたいだし、詳細はそっちで確認してもらおう。
……ポイントを交換したりする必要が無いからか、今回のイベントではイベントページが存在しない。大神殿の神域ポータルから転移する時の転移先の名前に至っては「フリアド5月イベント特殊エリア」だった。直球にも程がある。
それらの事実とさっきの称号の違和感を合わせて考えると……多分、中央地下のアレをどうにか出来るかどうかで、イベント名が変わる、んじゃなかろうか?
『やはり仕事が早いですね』
「儂、世界の端に行きたいんじゃが?」
『正しくはそこでの強敵と戦いたい、でしょう』
「まぁのう」
とか考えている間にカバーさんからの返事があった。なになに。
イベントの構造・傾向的に、情報は可能なら全て揃えてから行動を起こした方が良い事が判明しています。「第三候補」様と「第二候補」様におかれましては、他の権能神から得られる情報を集めてから実際に蘇生(仮)を行っていただけないでしょうか。
あー、まぁそれはそうか。私の血と「第二候補」の魔力を使えばいいと言われても、実際どうすればいいか分からないもんな。安全にあの墓地に入る方法もまだ分かってないみたいだし。
『良かったですね、「第二候補」。ボス巡りしてから合流して下さい、だそうですよ』
「ほう!」
ほんっっっとに嬉しそうなんだよなぁ。
と、いう訳で。
「東に現れたのは巨大な砂鉄で出来たゴーレムじゃの。名を「行かぬ故に帰れぬ存在」。隠れていたのは“出立にして帰還”の権能神じゃ」
『南に現れたのは植物を操る金色の菊でした。名を「朽ちぬ故に育たぬ存在」。隠れていたのは“萌芽にして枯衰”の権能神です』
「そして西に現れたのが、様々なモンスターの頭を合成された女王蟻型モンスター。名を「進まぬ故に戻れぬ存在」。隠れていたのは“往路にして復路”の権能神、ですか。「第二候補」様、「第三候補」様。調査及び報告を有難うございました」
まぁ、うん。流石と言うか何と言うか。そこから一度もログアウトせず、つまり私の今日最後のログイン時間内に、「第二候補」は全ての方向の端で待ち構えていたレイドチャレンジボスを倒しきった。
ガイコツだけど、つやっつやして大変満足しているのがよく分かるよ。あれだけ死闘繰り返して逆に元気になるとか何なの? 戦闘狂だった。そうだね。
私? あぁ、うん。高レベル【神話言語】持ち(=権能神との会話役)兼撮影班の人達の保護係だったよ。バフとデバフは撒いたけど、無くても勝てたんじゃないかな。
「貰う物が共通なのはいいとして……討伐特別報酬が、全て「残滓」と「夢」だったのも気になりますが。この機会に、一気に【神話言語】の習得者を増やすべきでしょう」
『そうですね。言葉が通じないというのは思った以上に厄介です』
「言葉が通じぬだけではなく、相手の力量や纏う空気を察するまで関わりがあるようだからのう」
なお、この情報は「第二候補」がソース。クリアするたびにご褒美として【神話言語】のレベルが上がっていった訳だが、それによって神の発するオーラというか、纏う空気と言うか、それを察知できるようになっていったらしい。
なるほど? 通りで最初は私と「第二候補」で温度差があった訳だ。見た目が普通極まってたからなぁ。それで喋るのが謎言語なら、警戒も仕方ない、か?
……やはり【神話言語】の習得ハードルは高いのでは?
「……本来は、世界の端に到達。権能神から情報を貰って墓地に行き、そこから中央の地下へ向かう、その時点でようやく発見されていたレシピの意味が発覚、というのが、順路だったのでしょうか……」
あ、うん。それは私も思った。最初の手順すっ飛ばして地下を見つけちゃったのはすまないと思っている。何せ暇になった思い付きで大掃除、だったからね。しかも洗浄剤無しで地下1階を綺麗に出来るとか、普通に想定外だと思う。
当然ながら称号は方向違い以外は被らず、ご褒美は最初に比べれば目減りしている。まぁそもそも称号って言うのがトロフィー的な物だから、実際に貰った物としては変わらないんだけど。
さて。ここまでカバーさんと私と「第二候補」で情報を整理・共有した所で本題……墓地の「一番高い所で眠る死者」の蘇生(仮)だ。
「確か、「第三候補」の血をかけるか飲ませたうえで儂が魔力を通せば良いんじゃったの?」
『その血と魔力の量で、一時的な蘇生の時間が決まるという話ですね』
「再チャレンジは……その遺体の状態にもよりますが、恐らくは一度こっきりと思っておいた方がいいでしょう」
墓地に入る方法としては、あの周囲に、というか、建物に根を張っていたあの香木。あれの香りを焚き染めた服を着て、「白灰樹」で作った松明を掲げていればいいらしい。今『本の虫』の人達が作っている筈だ。
内部は今分かっている範囲で5階建て。それでも内部の高さと外から測った高さが合わないから、まだ上があるようだ。そして上に行くほど個人に使われるスペースが増えていくから、一番上なら遺体はほぼ丸ごと残っている筈だ。
で。「第二候補」の魔力はともかく、私の血はどうすればいいかと言うと。
『まぁ生命力には自信がありますから、多少なら構いませんが』
「ははは。……大変失礼とは思いますが、エルルさんが居なくて本当に良かったと心から思います」
空き瓶や空き壺を持った状態で「血を吸う」という効果の付いた武器を使えばいいらしい。実際、先にカバーさんが実演して見せていた。アイテム名? 「人間:召喚者「カバー」の血」だったよ。アイテムの性能としては、ポーションに使えば一時的に知力と精神力が上がるらしい。
ところで覚えているだろうか。ニビーさんの、推定フリアド初のPK事件で、特に当時の魔物種族
「……方法については箝口令を敷きますが……」
『あれを倒して回れば、どっちみち手に入る情報ですからね。このような非常時でなければ、自衛するしかないでしょう』
「まさか儂のように血の通わぬ体の場合でも、血を魔力に変えればとれるとは思わんかったわい」
……流石『本の虫』、というか、検証班だよね。正確な情報を、詳細な情報を手に入れる為の思い切りの良さがすごい。そこまで、やる? と、私でもちょっと引くほどに。
結論から言うと。
一度にHP最大値の3割を超える量の血をとると、「スキルレベルが下がった」のだ。
――そう。あのPK事件で、素材ドロップに応じて種族レベル及びスキルレベルが下がったのと、同じだ。
どこまでも平等に「理が通る」事を証明するように、とられた血の量に応じてスキルレベルの下がり方は大きくなる。スキルレベルが下がれば種族レベルも下がる。それに加えて、一度に8割を超えるダメージを「血/魔力を吸う」武器で受けると、ガクンと種族レベルも下がるようだ。
血か魔力に限定してこの有様。同じくその武器で、手足を斬り落とされた場合は……もっと酷い。キルまでしたらどうなるか。……魔物種族の有志が検証した結果。最悪、進化必須スキルがマイナスになるまであるようだ。
「ひとまず、見つかった範囲の「吸血」や「吸魔」特性を持った装備は全て回収し、完全に破壊しています。素材にしても特性が残る物も、同質同類の通常素材に混ぜて薄めてしまえば大丈夫なようです」
『完全に危険物ですが、仕方ありませんね。……
「まぁその住民が儂らに向ける可能性もあるし、住民同士で向け合う可能性もある訳じゃがのー」
スキルレベルがマイナスになるのは、進化必須スキル【○○体】だけの話らしい。種族が変わる訳ではないので、進化のし直しは出来ないようだ。進化した後の種族名のまま、進化前のステータスになるとの事。
……イベントの大きな節目の前に、通常時空で警戒しなければいけないものが出てきたが……これは、今気づいて良かった、と、言うべきなんだろう。
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