第127話 10枚目:翻訳と最前線
間違ってますよーっという内容を、正解の形に訳したものと一緒に送ると、またしても速攻で返事が返って来た。
うん。迎えに行きますから解読作業にご協力くださいだって。だろうね。だってあいうえおの母音しか合ってなかったし。
しばらく原文のスクリーンショットを眺めていると、何をやっても上がらなかった【神話言語】のレベルが上がっていたから、やっぱり【古代言語】と【神話言語】が両方必要だったようだ。
「間違った情報を広めてしまった責任は責任として取りますが、何より正しい情報を広められるなら当然そちらが優先されるべきなので」
『まぁ、私も鍛え方がさっぱり分からなかった言語スキルが鍛えられるのでいいんですが』
ゲームだっていうのに、ばたばたとした感じはどこかの会社みたいな有様だったよ。『本の虫』が拠点にしてる建物の中。動いてる『本の虫』の人達がゆったりしたローブじゃなくてスーツ着てたら完全に現実の会社だ。
まぁそれぐらいには働いてるって事なんだろうけどなぁ……と思いながら個室に籠が置かれた。ぴょこ、と外に出て机に乗ると、どずん、と紙の山が乗せられた。そんなに軟ではない筈のしっかりした机が揺れる。わぁお。
え、マジ? これ全部未解読文献? これ全部翻訳するの? ちょっと、後ろに控えてる人が持ってる分も考えたら人を撲殺出来るどころか埋められるんじゃない?
「どこにどんな情報があるか分かりませんから」
だからってゲーム内で過労死させに来るのは止めよう!?
いや過労死しに行くのも当然ダメだけどね!?
幸い、というべきか。私が翻訳した内容を見る事で『本の虫』の人達が持っている各種翻訳系や言語系のスキルが急上昇したらしく、次の日のログイン時間を使い切った所で私の仕事は無くなった。いや、ほんとに過労死させられるかと思った……。
まぁその分【神話言語】も一気に上がったけど。うーん、目がちかちかする気がする。
ぐぐーっと机の上で翼と尻尾をピンと伸ばして伸びをしていると、ガタガタン、と扉の外で何かが倒れるような音がした。何だろうね?
「この度は、地下通路入り口の発見、初期対処、及び書籍翻訳のご協力ありがとうございました」
『下手に爆弾を放置する訳にもいきませんからね。お役に立てたのでしたら何よりです』
何か扉の向こうで服に血が散った人が運ばれていったのがちらっと見えたが、カバーさんがスルーしているのでスルーすることにした。わたしはなにもみていない。
そしてそのままカバーさんが語ってくれたところによると、洗浄剤は無事調合完了、その効果の確認も出来たとの事だ。そして今回の大翻訳で【○○古代魔法】習得の目が出たクランメンバーもいるらしく、便利お掃除魔法3セットにも手が届きそうらしい。
ただまぁ相手の詳細が未だ不明なので、もしかしたら「大きな破壊を伴わないように」ボス戦をする必要があるかも知れず、その時は改めて協力をお願いしたい、という話だった。
『あぁ、なるほど、地下ですからね。「大きな破壊」は困りますね』
「はい。何せこの時代の上下水道は優秀で、あの通路の壁ごしに点検できるというのはすごい事なのですが、ダメージも通ってしまうので」
うん。あの地下通路、本来は上下水道の点検・清掃用の通路だったんだってさ。古代の不思議技術で、特定の設備を使えば部分的にあの石造りを透過して点検できるらしい。すごいな、古代の不思議技術。
で、そういう設備と言うか作りなので、「大きな破壊」を叩き込んでしまうのはNG。最悪街(廃墟)全体が地下に沈んで復興できなくなる可能性があるという事で、私「だけ」に話が回ってきたのだろう。
え? 他の候補? 加減知らずのまだまだブートキャンプという名の1対多数模擬戦を楽しんでる特級戦力の事だけど。まぁ今の会話通り、私もカバーさんも、一切任せる気はない。
「ですので、長らく拘束してしまう事になりましたが残りの期間は我々『本の虫』が全面的にバックアップさせて頂きます」
『それは助かります』
今の所、このイベントではほとんど大掃除しかしてないからなー……。
それに私だけだと街(廃墟)の出入りが面倒だから、例えば人気のない最前線に送ってもらえるだけでもだいぶ助かる。私は加減が出来る特級戦力だが、加減しなくていいならそっちの方が楽ではあるのだ。
……それに多分、カバーさんというか『本の虫』の人達も、私を放流する事で何か発見があるんじゃないかって期待してる所はあるんだろうし。
『とりあえず、そうですね。現在までで、街の外ってどうなっているか分かります?』
「こちらが周辺の地図ですね」
『ありがとうございます』
まぁ、お互いに利益があるならいい事だ。WinWinってやつだね。
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