第128話 10枚目:開拓開始

 で、翌日こと5月8日だ。まだ大型連休真っ最中なので午前中からログインできる。既にイベント期間は折り返しを過ぎている訳だが、まぁそれは、うん、仕方ない。

 今のところ分かっている範囲では、西方向にはモンスターが多く、東方向には鉱物資源があり、南方向は草原が広がって植物資源が採れて、北方向は人工物の残骸が残って文献資料が見つかる、という傾向にあるそうだ。まだイベントエリアの端は確認されていない。

 なので『本の虫』の人に送って貰って街(廃墟)の周りの森を抜け、向かったのは北方向。……だって居るのがほとんど『本の虫』の人達だからね。一般召喚者プレイヤーに人気なのは西方向だ。


「この辺りが我々の捜索限界となっております。何せ、時折とは言えモンスターが出現しますので……」

『まぁ、出来る範囲で努力はしますよ。それに、罠らしい罠が一番あるのもここなんでしょう?』

「そうですね。お陰で開拓が遅々として進みません。この辺りも上手く修復すれば拠点になりそうなのですが」


 手の込んだことに、簡易の柵で仕切られた一角で籠から顔を出す。ちなみにこの柵は『本の虫』の人達が自主的に作ったものだ。捜索範囲を区切ってブロック分けして、調べ残しが無いようにしてるんだとか。

 人工物の残骸は、一部修復できるものがあるらしい。そしてそれを修復するとその周辺が修復可能になるようだ。だから、建材さえ集まれば、この辺りも拠点に出来そう、らしいのだが……まぁ、建材はイベントエリアで使うだけじゃなくて、召喚者プレイヤーが個人で建てた神殿の強化にも使うから。

 そういえばあの推定モンスター建材すら落とさなかったな、と、虚無に時間を吸われた感覚を覚えつつ、ぴょこ、と籠から飛び出して柵の上に着地する。


『それでは、そちらはそちらで頑張ってください』

「えぇ。「第三候補」さんもお気をつけて」


 お見送りは此処までだ。帰りもここまで戻ってくれば『本の虫』の人達が迎えに来てくれる事になっている。……それをするために、って理由で、現在位置が特定の人に分かるようになるリボンを首に巻かれたけど。

 艶のあるオリーブ色のシンプルな幅広リボンを蝶結びにしているだけだが、まぁ、私は可愛いので(自画自賛)。銀色な猫サイズの仔竜だから、それでも十分可愛いらしい。うん、鏡で見たけど可愛かった。

 さーて、と、森の中に石造りの何かがのぞいている、という感じの、北方向未開拓エリアに視線を向ける。ようやくイベントらしいイベントが出来る。


「キュ、キューゥ(それに最悪、ここら一帯修復しておかないと大変な事になりそうだし)」


 もし、本来の時空への引継ぎが有ったら。つまりあの汚れ(仮)と推定モンスターの原因を、問題を、解決しそこなったら。その状態で、このイベントエリアが本来の空間にうっかり出てきてしまったりしたら。

 その場合は……この北方向の修復、整備度合いが、その後のリカバリーに大きく影響するだろう。というか、修復できる、という事実一点で「ここは直しておいた方がいいよ」っていう運営(神々)からのメッセージと見た。

 だってさ。どう考えても前線基地か、退避場所でしょ、位置的に。




 と、いう訳でー。

 いやぁ人目が無い所で全力出すのって気持ちいいね! フルバフ状態で木を伐採したり【土古代魔法】を大活躍させて木の根を引っこ抜いたり、開拓は実に順調だ。モンスター? ははは、片手間でもオーバーキルだよ。

 そしてどうやら生えている木も普通に回収というか、素材として手に入れる事が出来るらしい。1本1本種類と品質が決まってるとか細かいな。


「キュ、キュッ(えーと、この辺にあるのは大体全部「なんとか灰樹」って木か)」


 一番多いのは「白灰樹」で、そこから色違いに赤とか黒とかがあるようだ。灰色してる訳でも灰に生えてる訳でもないのに何で灰ってついているのかは知らない。【鑑定】したらそう表示されるからそういう種類なんじゃない?

 まぁその辺も『本の虫』の人達なら調べてるだろうけど。後で聞こう。と思いながら、また一本立派な木を伐採して根を引っこ抜く。人工物を修復するなら、邪魔になる物は出来るだけどけておいた方が良いって聞いたからね。

 うん。この辺りをちゃんと修復したら、街(廃墟)に戻らなくても生産活動できないかなって。だって移動時間が不便だし。


「キュ?(ん?)」


 幅20mぐらいを往復しながら進むようにして、それなりに長方形の空間がぽっかり空いている形になっている。そろそろ修復できる建物が出てこないかな、と【飛行】で浮いた状態で周囲を見回した視界に、何か違和感が引っ掛かった。

 【風古代魔法】で空気の足場を蹴って高度を上げる。木や人工物より上に出てみると、その違和感の正体はすぐに分かった。


「キュー(うーわでっかい)」


 真北から少し東にずれた所に、一際大きな建物が残っていたのだ。もちろん蔦やら木やらで埋まっていて、原形がどんなものだったかはここからでは分からないが……今でもあれだけはっきり形を残している、というのは、相当頑丈なのだろう。

 で。この近辺で、頑丈な建物、となると……当然、重要な建物である可能性が、高いな? って話になる訳で。


「キュ、キュゥッ(とりあえず、あれを目指してみよう)」


 現在地点からスクリーンショットを取り、一旦カバーさんに送っておいてと。

 さーて開拓の続きだー!

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