第100話 8枚目:戦闘決着
やがてその後叩いて叩いて、ひたすら叩いて、私が
ちなみに港の方は港の方で、巨大な異形への攻撃が加速するのに合わせてモンスターの群れの数と頻度が増え、結構危ない綱渡りだった。と、こちらはぐったりと伸びているルチルから聞いた。
「ぶっちゃけこれ、俺ら居なかったらこの港壊滅してたな……」
『そーですねー……』
クッションの上で、ぺしょっと突っ伏した姿勢のカナリア姿でピョピョ言ってるルチルは、本人(本鳥)の疲れ具合からすると悪いが可愛かった。いや、声は男の子なんだけど。
ちなみに現在位置は、
まぁはしゃいでいるのは私だけで、エルルとルチルは前述のとおり疲れでテンションが低い。仕方ないね。
「エルルさん、今お時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
とか思っていると、エルルに首根っこ掴まれて軍服の中に入れられた。その直後にノックの音と、これは多分カバーさんの声だ。エルルが返事をしたあたりで羽音が聞こえたので、ルチルも起き上がってエルルの肩に移動したらしい。
さほどなく扉が開く音がして、部屋に入ってくる足音が2つ。片方はカバーさんとして、もう1人誰だ?
「初に目にかかるな、竜族の軍人殿。儂は渡鯨族の
「今代の長……って事は、ディック、と呼べばいいか?」
「応、それでいい。あんた達の事は、こっちの人族から聞いてるぜ」
……んー、長になったら名前を引き継ぐとか、そういう感じの解釈で良いのかな? つーか
こっちの人族、というのは、まぁカバーさんの事だろう。しかし、渡鯨族のトップと検証班こと『本の虫』の
「さて、私、クラン『本の虫』所属のカバーは今回、召喚者のまとめ役をさせていただいていました」
「あぁ、流石の指揮だったぞ?」
「ぶっちゃけ助かった」
「ありがとうございます。大立ち回りの足場を支えて頂いた渡鯨族を代表してディックさん、そして、私達だけではどうしようもなく打破出来なかった状況を打ち破ってくれた「第三候補」様一行を代表してエルルさんに、改めてお礼申し上げます」
カバーさんの最初の用事は、改めてのお礼だったようだ。……まぁねー。エルルとルチルから聞く限り、私含めていなかったらヤバかったみたいだしね。少なくとも、あの巨大な異形は逃がしていただろう。
頭を下げたらしいカバーさんに、「儂らだけでは、そもそも攻撃することも叶わんかったぞ」「こういう非常時はお互い様ってやつだ」とそれぞれ声をかけるディックさんとエルル。
それに対してもう一度お礼を言って、カバーさんは頭を上げたらしい。
「そして……重ねて申し訳ないのですが。可能であれば、あの巨大な異形……正確には、その元となった肉腫ですね。それについて、お話をお伺いしたく思います」
続いた言葉は、まぁ、言ってしまえば、私達
召喚者の召喚理由は、滅びかけている世界を救う事。そこにあんな「明らかにヤバい」相手が現れれば……まぁ、普通は、結び付けて考えるだろう。
そしてそれは大外れでも無かったのか、しばらくの沈黙の後……深々としたため息が、2つ。
「……まぁ、儂らにも、海神様から神託は来てるからなぁ」
「お嬢から、一通りは聞いてるから、その理由は分かるんだけどさぁ」
「お願い、出来ますでしょうか?」
渋々、という調子のディックさんとエルル。そこに重ねて声をかけるカバーさん。うん。戦う前のエルルの言い方からして、よっぽど口に出したくないんだろうなぁとは思うけど、私も気になる。
またしばらく沈黙が流れ、恐らくエルルとディックさんは無言のアイコンタクトをしていたようだ。もう一度息を吐いて、ディックさんが口を開いた。
「……人魚族からの知らせも届いているから、まぁ、話さん訳にもいかんだろう。と言っても、儂が知っているのは伝承どまりだ」
「そこは、俺が補足する。何せどうも、時代ごと俺の方が古いみたいだからな」
そうなんだよな。実年齢はともかく、時系列で行けばこの中で最年長は多分エルルだ。その分だけ、恐らくは昔から厄ネタだっただろう巨大な異形についての知識は、エルルの方が詳細に知っている可能性が高い。
その返答に、カバーさんはもう一度お礼を言って、聞く体勢に入ったようだ。
「……もはや伝説、魔物種族の神が隠れるよりなお以前の話だ」
そんな言葉を皮切りに……ディックさん達現代の種族にとっては昔話。エルルにとっては……恐らく、ついこの間まで日常だった話が、始まった。
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