第98話 8枚目:戦闘模様

 いっやー、しぶといったらないね!!!


『エルル、大丈夫じゃないでしょ』

『……まぁけど、アレに有効打入れられるの俺だけだしな、この場だと』

『落とされたらそれこそ詰むのも分かってるー?』

『分かってる、分かってるが……休んでもらんない、だろ!』


 えーリアル時間で2時間半ちょい、4倍で10時間オーバー、ぶっ続けでエルルは戦ってます。流石にキツいみたいで返答に元気がない。それでも大して大きさが変わったように見えないってどういうことだ。

 いや、うん。理由は分かる。だって相手はエルルや渡鯨族が、その名前を口に出すのも憚るような奴だから。って事はつまり、良いAIを割り当てられてる……「学習する」んだよ。

 作戦通りいったのは、最初の1時間ぐらい。それ以降はエルルを重点的に警戒するようになって、そもそも近づけてない。それはそれで、ブレスや魔法で攻撃したり、それを逆手にとって囮のように動いてみたりもしている辺り流石エリート士官軍ドラゴンってとこなんだけど。


『でもこれ、手詰まりだね?』

『まー……せめてうちの部隊が揃ってりゃな、とは、思う』

『一部隊でどうにかなるとか流石ドラゴン』

『ははは、まぁなー』


 とかいう弱音が出る程度にはしんどいようだ。まぁそりゃあこれだけやって大して削れた様子が無いとなるとキッツいかぁ……。

 しかし、現状このままだと火力は打ち止めなんだよな。掲示板をちらっと覗いた限り「負けイベント」ではないかという意見も出てるようだ。

 え、私はどう思うのかって? そりゃま、


『でも、逃さず殺しておいた方が良いんでしょ、こいつっていうか、これ?』

『まーな。逃がすと後が怖い』


 ここまでエルルが警戒して、本気出す相手だぞ? カバーさんに聞いた話の限りでも、放っておけば置くほどどんどん加速度的に厄介になる相手じゃないか。ここで倒せるならしておくに限るだろう。

 ただ問題は、相手の再生速度……というには若干違和感というか、モヤるものがあるんだけど……を上回る火力が無い、という事だ。エルルだけだとこうやって対策されて防がれてしまう。

 さて、どうしたものか、というと。


『えーるーるーぅ』

『ヤだよ流石に戦闘中にお嬢から目ぇ離すとか!? 加減間違って港吹っ飛ばしたとかなったら大変ですまないんだから!!』

『でもどう頑張っても火力と手数が足りてないでしょー。このままだと取り逃がすよ?』

『ぬっっぐ……!!』


 まぁ、うん。

 私がこのやたらめったら高いステータスで、高高度から魔法を撃ち込めばいい。自力で必要な高さには上がれなくても、滞空は出来る。エルルに「置いてきて貰えば」いいのだ。

 んだけど、エルルがこの通り、大反対。主に私の火力が高すぎるからって。そりゃまぁねぇ。


『野良ダンジョンの間違った攻略法は反省してるし、狙いはちゃんと絞るし、着弾後爆発系は使わずに槍とかが刺さって終わるだけにするからー』

『それでも何だろうな、この不安しかない感じ……!』

『海を凍らせようとか逆に干上がらせようとかやらないように気を付けるし。直接デバフはやってるけど通らないし。エルルにかけたバフももう限界まで延長してるし?』

『んんんなんかそうじゃない気がする!!』


 なお、この間も割と真剣に戦闘中だ。【魔物言語】だし動き回りながらだから、周りには聞こえていないだろうけども。

 まぁエルルの不安も分からなくはない。今までも何度か「降って湧いた系お嬢」が「加減知らずのお嬢」になるんじゃないかと思ったことはやらかしてきた。色んな意味で爆弾もいろいろ抱え込んでるしな!

 が……それはそれ、これはこれ。というより、私の安全よりこいつを倒すことを優先にするべき場面だろう、ここは。


『……これ以上有効かつ具体的な対案が無い場合は勝手に動きます。いいですね、エルルリージェ』

『外向け言葉かつフルネーム!?』


 覚悟完了してるんだぞ、と伝えるのに、マジ声で口調を切り替える。余程驚いたのか、一瞬回避をミスりかけつつもエルルは苦悩しているらしい唸り声を上げていた。

 が、しばらくすると諦めてくれたのか、一度離脱するように高度を取った。雲に触れられそうな程の高さで、ホバリングする。


『ほんっとに、ほんっとーに、加減だけはしてくれよ、お嬢……』

『ははは、相手見てもっかい言ってみてエルル』

『分かってるが……!!』


 何する気だ……!? という戦慄を隠さない言葉に、返す声は無い。ひょこ、とエルルの鎧から顔を出し、【風古代魔法】で空を蹴り、エルルの現在位置の更に上へ。

 めっちゃ視線で追いかけてくるエルルだが、万一あの正体不明が遠距離攻撃でもして来たらやばい、と思ったのだろう。もう一つ、唸り声だか呻き声だかため息だかよく分からない声を残して、急降下していった。

 それを見送り、こちらも息を1つ。


「キュ、キュッキュー!(さーて、全力全開の魔法といってみよーか!)」


 加減? エルルが苦戦して勝てない相手だぞ?

 んなもんする訳ないじゃないか。


 フレンドリーファイアと二次被害は出さないように頑張るから!!

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