第89話 8枚目:空の旅と合流

 エルルが向かったのはこの大陸の、中央やや北の地点だった。位置情報だけなら召喚者プレイヤーの進行状況からして、もうしばらくすれば到着できそうな感じの場所だ。

 もちろん地形の問題があるのでそう上手くは行かないのだが、今まで私や他の魔物種族召喚者プレイヤーが居た場所からすれば近いという感覚だ。いや、十分遠いんだけど。

 当然ながら空を飛ぶエルルにその辺は関係ない訳で。大体の場所に来ると空中でホバリングしつつ地上の様子を見て、当たりを付けて降り始めた。私も顔を出して見てみるが、うん。さっぱり分からない。


『ん?』

『うん?』


 が。なんか眼下の森で何かがきらっと光った。エルルにも見えたらしく、再びその場で滞空のホバリングに入る。私にも見えるきらきらした光は、どうやら枝の合間を飛び回っているようだが……。

 と、思ったら、その光が枝の上へ飛び出した。そしてそのまま……ん? こっち来た?

 あっという間に近づくそのきらきらは、どうやら金色の輝きも鮮やかな小鳥のようだ。しかも何だかボロボロとめっちゃ泣いている。そして何か繰り返し、良く通る声でめっちゃ叫んでるんだけど。


『ごしゅじんー!!!』

『んん?』

『は?』


 ……とは?




 いや、その、すまない。結論から言うと、すっかり存在を忘れていた私が悪い。


『ルチル!?』

『はい~~~!!』

『え、これ誰お嬢』

『えーとだね』


 べったり、と私に張り付いて剥がれなくなった金色に……たぶん鮮やかな緑色の葉っぱかな? の模様が入った小鳥。もとい、カナリアは、いつかのダンジョン実装イベントの時に私が作成した使徒の一人、ルチルことルチューリルだった。

 そうか、歌鳥族ってカナリア始め歌う小鳥の事か。なお歌が上手いのは種族特性なので性別は特段関係ないとの事。ルチル? 声聞けばわかるよ。少年聖歌隊とかにいそうな見事なショタ声だよ。天使かな。

 とりあえず、こうこうこういうイベントもとい啓示があってだね、と説明する。一通り聞いたエルルは、はー、と感心したような息を吐いて一言。


『なるほど、使徒生まれか』

『使徒生まれ?』

『僕らみたいな、生まれが特殊な個体のことを指す言葉ですー!』

『まぁエリートの指標みたいなもんかな』

『ところでごしゅじんこちらのドラゴンさんはどなたですかー?』


 そしてようやくルチルが落ち着いたので、今度はエルルの事を説明。ほえー。という感じで聞いていたルチルはようやく私から剥がれ、羽を整え、ぺこりと頭……というか身体全体? を下げた。


『ごしゅじんの面倒を見て頂きありがとうございますー!』

『流石に土やら石やら食ってんのをスルーは出来なかった……』

『そんなの食べてたですかー!?』

『いやぁまぁ』


 ぴゃぁああああ!? という感じで再び私に張り付くルチル。うーんめっちゃ賑やか。言葉の量がルチル1人で3倍ぐらいになったんじゃないだろうか。

 ちなみに現在はホバリングを止めて着地している。流石に事情説明もそこそこの長さになるからね。エルルの体力からして別に問題は無いだろうけど、この後野良ダンジョン攻略が待っているんだ。無駄な体力の消耗は避けるべきだろう。

 ……と、思っていたん、だけど。


『……ところでルチル』

『何ですかー?』

『この辺の野良ダンジョンってどうした?』

『僕が一掃しましたー! “神秘にして福音”と“翼持つ旋律にして歌声”の神様にも喜んでいただけたようですー!』


 だよねー。

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