第90話 8枚目:問題解決と発生

 戦力的に不安なので応援に行ったら、現地に特級戦力が居て既に状況解決していた。そしてその特級戦力が生まれた原因は私。


『いや流石にそこまで予想できないし?』

「…………まぁ、平和な分にはいいんだけど」


 歌鳥族の街(?)で買った新しいブラシでブラッシングされながらの会話である。あー、シャワーの水滴が細かくなって勢いが増した感じ、気持ちいいー。


「あれ? ごしゅじんは【人化】出来ないですかー?」

『出来ないんだよねーこれが』

「少なくとも身体がまだ子供だから出来ないんだよなー」

「そうなんですかー」


 なお、すっかりと鍛えられたらしいルチルは完璧な【人化】が使えるようになっていた。うん。ふわっふわの金髪にくりっと大きな碧眼、緑色の葉っぱ型のヘアピンで前髪を止めた、絵に描いたような美少年だよ。服装だけ何故か白い看護師風だけど。聖歌隊の制服着せたい。

 というかあの緑の模様、ヘアピンって事は装備だったのか。飾り羽とかかな。


「僕のこれは生まれつきですよー?」

「生来装備持ちか。エリートの中でも更に一握りだな」

「えへへー、照れますー!」


 なお生来装備持ちとは読んで字のごとく、生まれた時に既に装備していたり一緒に生まれてきたりする装備との事。一説には神からの形ある加護とも言われているとか。

 ……めっちゃ心当たりあるわぁ。


「確かにやりそうだな……」

『やると思うでしょ? 最高だよ』


 ルチル自身は特段意識していないとの事。ただし種族を守護する“翼持つ旋律にして歌声”の神が授けるのは大抵の場合木製の装備らしいので、まぁ多分予想通りだろう。

 さて来て早々に目的を失った私達だが、それじゃあはいさようならと次の目的地に行くわけにもいかない。何故って? そりゃあこの場の特級戦力が私達についていくと言ってきかないからさ。


「問題は解決したんですから好きにさせて欲しいんですけどー」

「そうもいかないし、行かせちゃだめだって言うのが本来の問題なんだけどな」

「本来は、ですかー?」

『うん。だって要するに、私が舐められてるだけじゃん?』

「お嬢の実力を舐めてかかるとか、死にたいのかって思うけどな」


 ルチルからすれば、本来付いて行くべき主とようやくの感動の再会(初対面だけど)な訳で、付いて行くのは決定事項だ。そもそも生まれた時点で私の方がステータスが高かったのに、鍛えてなお私の方が上という実力差を感知したのもある。

 が。歌鳥族というのは、そもそもあまり戦闘力を持たない種族だ。そこに生まれたルチルという特級戦力が、ひ弱(な見た目)で保護者におんぶにだっこ(に見える)状態の、可愛いだけが取り柄の雛(※ドラゴンという種族の基本ステータスは抜きとする)に付いて行くという。

 そんなの受け入れられるか!! との事らしい。


『でも真面目にどうしようか? 流石にまだエルル程手加減できないよ』

「いや、俺も歌鳥族を相手に出来る程手加減は上手くない」

「そもそもー、基本能力の差的に手加減はどうしても無理があると思いますよー? 僕だって直接攻撃が当たったら、それがどこであれ瀕死になりますしー」


 そうか。ルチルでも「ギリギリ死なない」か。これは手加減とかそういう話じゃないな。じっとして動かない以外の対処のしようがないわ。

 けどそうするとルチルが付いて来れない訳で。実力を示そうにも、直接対決は(主に相手が)危ないし、野良ダンジョンはルチルが既に一掃している。んー、困ったぞ?


「本当に困るべきは歌鳥族のトップなんだけどな……」

「そうなんですよねー。実力が無いなら無いなりに判別できるようにならないと困りますー」

「そっちじゃなくて、お嬢の鱗と内毛の色を見て分からないっていうのが」

「そうでしたー!」


 そうだね。種族スキルは【古代竜の血脈】になったけど、色味は【真・竜の血脈】の時と一緒だからね。つまり、竜族の皇族というのは、見ればわかる……筈、なのだ。

 というか、使徒生まれの筈のルチルも普通に知っていたから、この辺はもはや常識おぶ常識なのだろう。そのステータス基礎値と素質値も込みで、主に戦闘力的な意味で「手を出してはいけない」という対象だと知れ渡っているらしい。

 で。その、常識おぶ常識を当然知っていなければならない立場の存在……今回だと、歌鳥族の族長(王ではないらしい)がルチルの旅立ちにさっきの理由で反対している、というのは、問題だな? という話だ。


『でも真面目にどうしようか? 強行突破だと絶対後々大変な事になるよね?』

「なるだろうな。出来なくは無いし特にデメリットは無いんだけど」

「流石に故郷が竜族と険悪になるのは嫌ですー」


 どうしたものかね。

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