第80話 7枚目:人魚族と問題

 で。


「海神様より賜った託宣では、ほとんどが人間種族との事だったが……いやはや、竜族として現れる者が居るとは。いや、悪く言ったつもりではないのだが」

『あちこちで散々言われていますので、お気になさらず』


 まぁ当然ながら隠す必要も無いし、隠すと何かまずい気がするしで白状したら、謁見することになるよね。人魚族の王様と。一応エルルも居るけど護衛扱いなので発言権は無いか低いようだ。

 あ、今更ながら人魚族は【人化】が必要な方の種族でした。そうだね。地上で活動するのに鰓呼吸と尾びれは無理があるよね。あの湿地帯で話した兵士さんも【人化】済みの姿だったらしいよ。

 それでまぁ、今はザ・謁見の間……という場所ではなく、サンゴで出来たらしい部屋の一室に通されている。そこに丸い机を置いて、私は机の端にランチョンマットみたいなものを敷いて貰って、その上にお行儀良く座っている。

 その対面に【人化】した、黒みがかった青い目に、海みたいに青いウェーブの髪を頭の後ろで束ね、良いガタイを申し訳程度に隠した王様が座っている構図だ。ガテン系かな。顔もイケメンの範囲でいかつい。……椅子小さくない? 大丈夫?


「いや、しかし僥倖であった。人間種族の歩みは遅いし、何より水中では満足に動けんからな、あやつら」

『一応言っておきますが、私もまだ孵ってから1年足らずですよ?』

「一般人間種族より強かろう。竜の皇女よ」


 何だか不吉な感じで安堵の割合が多い息を吐いて見せた人魚族の王様に、小首をかしげて訂正を入れる。が、速攻で断言されてしまった。……いやまぁ、確かに一般人間種族召喚者プレイヤーよりかは強いけども。

 皇女呼びはもうエルルに散々怒られているので驚かない。問題なのは、明らかに戦闘力を前提とした発言だった、という事だ。それも一般人間種族よりずっと高い水準を要求するもの。

 でー、エルルの解説だと、人魚族ってそれなりに戦闘力ある筈なんだよな。国になってるって事は軍があるって事だろうし、つまり集団戦にも慣れてるって事の筈だ。さて、その上で更に戦闘力を要求する、となると?


「神々が空間の歪みを、試練という形に落とし込んだ。それは良い。我らも海神様が用意した試練にて自らを鍛えられるようになった。だから、それは良いのだ」

『では、問題は?』


 流石に普通猫サイズの竜の姿でお茶を飲む訳にもいかず、お行儀よく座った姿勢のまま小首を傾げて問い返すにとどまる。うむ。と頷きを返した人魚族の王様は、意外と若く見える顔を渋そうにしかめた。


「数だ。我らも試練に挑み、自らを鍛えると共に空間の歪みの消費に励んでいる。だが、それでも試練の数、ひいては空間の歪みの量は増え続けるばかりだ。これでは、近い内に海神様でも集めきれなくなってしまうだろう」

『なるほど。そして地形的に、水中に試練があふれてしまうと対処が大変厳しい、と』

「その通り」


 うーん、見事に「たからばこ」イベントのマイナス影響が出てるなこれ。いや、託宣があったって事は海神様即ち人魚族の神様は健在って事で、ある程度減らしてはいた筈だな?

 ……まぁ、きっついか。「たからばこモンスター」の相手はそれなりに。私がワンパンなのがおかしいんだし。


『と、言う事は……そちらの神の試練に挑み、その数を減らしてほしい、と?』

「そうであるが、そうではない。我らの神は大いなる海そのもの、よって、ありとあらゆるものをそのまま受け入れる器の大きさがある。……ただしそれは、言い方を変えれば、選別が苦手という事でもあるのだが」

『ふむ』

「つまりだな。召喚者たるそちらに頼みたいのは、海神様が周囲に影響が出ないように集めた、「既に海神様ならぬ試練となった」試練の踏破なのだ。確か召喚者は、神によって作られたものではない試練を踏破すると、大きな見返りがあるのだろう?」


 ふむふむ。……つまり、海神様はその権能を駆使して、野良ダンジョンを一か所に集めた。けどそのキャパがそろそろ限界だから減らしてほしい。その野良ダンジョンから出てくるもの及びクリア報酬はそのまま持って行っていい、って事か。

 んーまぁ美味しいだろう。断る理由も無い。けどまぁ一応は皇女なのだし? 言えば言っただけ通るという前例を作るのもまずそうだし? それにちょっと思いついたから、提案するだけしてみよう。


『踏破自体は構いませんよ。私達召喚者は、神の手ならぬ試練を越えると、その試練の成果を自らの信じる神に捧げる権利を得ますから。それを海神様に捧げる事を強要されるのでもなければ』

「なるほど。では──」

『ただし数点。要求、というより、確認でしょうか。よろしいですか?』

「……ふむ。ものによるな」


 おっと、何だか妙に警戒されてしまっているな。何だ。力を背景に吹っ掛けるとでも思われてるか?


『何もそう難しい訳でも、後々まで引きずる訳でもありません。まず一点。私たち召喚者は活動時間が限られます。また、私達は現在大陸を巡る旅を行っています。よって最善は尽くしますが、どれほどの試練を乗り越えるかという具体的な数は提示できませんし、完全な状況解決まで居るという確約も出来ません。それは宜しいでしょうか?』

「まぁ、依頼した側としてはある程度の解決は見て欲しいが、あくまで頼みだ。当然の権利だろう」


 最初に安全装置のような線を引いておく。こちらが吹っ掛けられない為、或いは必要以上に拘束されない為の防御線だ。これは理解してくれたようで、あっさりと頷きが返ってきた。


『ありがとうございます。次いでもう一点。試練に挑む事で、時には様々な素材を得る事になると思います。その解体や引き取りをこの国の方にお願いしても良いでしょうか?』

「む? それはまぁ、むしろこちらから頼みたいぐらいだが。むろん取引として、正当な対価を支払ってだ」


 そして次に、不要素材の処理……もとい、売却の成否を確認しておく。よーし、頷いたな? 素材は引き取るって言ったな? 言質は取ったぞ。


『ありがとうございます。そして最後に一点。人魚族特有の魔法等があれば、それを教えていただくことは可能ですか?』

「む、魔法をか。……確かに、ある。我ら人魚族に伝わる特殊な魔法がな。だが、ふむ。別に隠し立てするような物でも無し……学ぶ意欲と適正があれば、学べば良いだろう」


 エルルから聞いてたんだよね。種族固有魔法の他に、体系立てた「魔術」に近い魔法スキルがある種族があるって。で、人魚族はそっちだって。いやぁほら、進化に向けて少しでも多くの理と律を集めないとだから!


『不躾なお願いにもかかわらず聞き届けて下さり、ありがとうございます』


 エルルからの視線が痛い気がするけど、言質を取るのは大事だからね。

 ……という内心は綺麗に隠して、にっこり笑顔で人魚族の王様にお礼を言うのだった。

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