第69話 7枚目:人の街観光ツアー2
まぁ何よりの優先事項はインベントリ。これは変わらない。私にとっても、合流して『スターティア』に入った魔物プレイヤーの面々にしても。だって知ってるからね、インベントリが無い不便は嫌というほど……!!
ざわざわとした雑踏らしいざわめきの中をエルル含む魔物プレイヤー一団が、検証班の人を先頭に進んでいく。まぁ周りは見えないから雰囲気とくぐもった音でしか判断できないんだけど。
なお検証班の人によって、ダンジョン実装イベントの時に大暴れしていたユニークモンスター達が、魔物プレイヤー作成の使徒だという事は知れ渡っているようだ。すなわち、その基礎ステータスの高さが、である。
「……めっちゃ見られてんだけど……?」
「あー、はは。人間種族召喚者の累計種族レベルは、現状トップ層と言われる面々でようやく200に届こうか、というところですからね」
「マジで?」
「えぇ。なので、最低ラインで累計種族レベルが300を超えている魔物種族召喚者を勧誘しようと、召喚者の集まりがここに集まっているのですよ」
「はー……200弱で一線級なのか……」
うん。エルルの感覚からすれば「そりゃ滅びに瀕するわけだわ」って感想しか出ないよね。……自分のことを「若造」と言って、実際見た目も若いエルルの累計種族レベルを聞いたらどんな反応をするのやら。
……これ、人間種族だけだと無理が無くないか? レベルキャップ的に。いや、
なんかやな感じだな。というか、ゲームの導入が既に怪しくなっていたぞ? なーにが魔物という種族の大量発生、だ。これ、人間種族の神が調子に乗って魔物種族の神を封じていった結果、魔物種族が狩っていた魔物(モンスター)が増えていっただけなんじゃないの?
「えーそれでは皆さん、前方左手に見えますのが、『スターティア』大神殿となります」
魔物種族と魔物を、魔物とモンスターで呼び分けるべきでは? 割と真剣にそんな事を考えていたら、検証班の人が観光ガイドばりの説明口調で声をかけていた。どうやら目的地が見えたらしい。
おぉー。とか、ようやく……。とか聞こえる声の気持ちは分かる。とてもよく分かる。
ちなみに大神殿に入れるのは“中立にして中庸”の神の神官か
「はい、それではこのまま列を維持して下さい。そのまま大神殿に入りま……」
すっかりガイド役となっている検証班の人がそう言いかけた、その時に、強い揺れ。ほぼ同時に、硬い物がぶつかる音。その合間に、抜剣の音。
……エルルが戦闘に入ったようだ。しかし、街の中は非戦闘エリアの筈。攻撃した所で不思議な膜に遮られて、絶対に届かない筈なんだ、けど……。何で、エルルが打ち合えてるんだろうね?
とか思っている間に、打ち合っていた音が止んだ。ざざ、と砂をこする音が聞こえるから、エルルが下がったようだ。多分足音からして、推定切りかかってきた何者かも反対側に下がったのだろう。
「レッ……!? ド、ネームじゃ、ない……?」
「てか、え、神官服……?」
「いやあれ住民じゃなくてプレイヤー、だよな……?」
「えっちょ、どうなってんの? 街の中は非戦闘エリアだろ?」
ざわざわ、と周囲の推定野次馬も混乱しているようだ。そりゃそうだ。訳が分からん。エルルはまだ警戒を解いていないから、正体不明の神官服プレイヤーも剣をおさめていないのだろう。
検証班の人が電話でもしているような途切れ途切れの言葉を出している辺り、どうやらあちらも想定外の事態のようだ。まぁそりゃそうだよな。ついでに、周囲にガッシャガッシャと金属音を伴った重い足音が集まりつつある。
「……すっっげぇやな予感すんだけど、一応聞いといた方がいいよなぁ。あんた、もしかして、“権威の雷霆にして父”の神に何か言われた?」
「へぇ。その名前が出るって事は、あんたがターゲットで良いんだな」
「良くねぇよ?」
良くないな。
……っが、これではっきりした。雷霆ときて父、つまり現実の伝承でいうところのゼウスだろう。
そう。ゼウスだ。……ティフォン様の元ネタのテュポーンと、それはそれは盛大に戦争した、天空の神にして雷を武器とする、ゼウスだ。
「はいはい、ストップ。えー、周囲の皆さんにお知らせです。現在“権威の雷霆にして父”からの啓示で、大神殿の周囲半径10mの非戦闘エリア設定が解除されているようです。なので、巻き込まれたくない方は今すぐ距離を取って下さい」
そこに、聞こえる分には割って入った検証班の人。うーん冷静。しかし、非戦闘エリア設定が解除されているってちょっと?
ざわざわと野次馬が移動していくらしい音と反対に、重い金属の足音は近づいてくる。そしてどうやら到着したようで、足音が止まった。
「我々は『スターティア』警備隊第3番隊である、一体何事か!」
「あ、いつもお仕事お疲れ様です、サーディンさん」
「おぉ、『本の虫』のカバー殿か。……魔物? にしては大人しいですな? そしてそこで剣を構えている……うん? 誰だ?」
「あ、はい。彼らは種族こそ違えど、私達と同じ召喚者でして。そちらの黒い服の方は色々あった上で召喚者と絆を結んだ方です」
うーん検証班の人、もといカバーさんがめっちゃ頼りになるなぁ。
え、その間私は何してたかって?
「……お嬢、こいつ〆ていい?」
『だめ』
「いやだって、アレの手下だぞ?」
『だぁめ』
大人しくしつつ、小声で推定神官服のプレイヤー、もとい“権威の雷霆にして父”に何か唆された相手を叩きのめしたがるエルルを抑えてた。
いや、私も吹っ飛ばしたらスカッとするだろうなぁとは思うけど、それで魔物種族の印象が悪くなるのと引き換えなのは、割に合わないんだよね。それに正直、そっちが目的のような気もするし。
だからどうどう、抑えてエルル。本気で暴れたらこの街が更地になるでしょ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます