第70話 7枚目:大神殿到着

 検証班の人ことカバーさんのナイスな状況説明及び警備隊第3部隊隊長のサーディンさんの仲裁で、とりあえず神官服のプレイヤーとエルルの両者は剣を収めた。……素手でも余裕で勝てるだろうにわざわざ剣を抜いたのは、やっぱり咄嗟の反応だと慣れが出るって事だろうか。

 そのままお互いの事情説明をする。と言っても、エルルというかこちらからはカバーさんの説明から何も逸脱することは無い。そのままだ。剣を抜いたことに関しては、突然切りかかって来たから防御のために抜いたと正当防衛を主張する。

 大して、神官服のプレイヤーの言い分は、というと。


「神様指定のネームドモンスターを狩れって言われた。受けるだけで神官服一式と特攻武器、街の中で襲えば装備一式、倒せれば神器か使徒が貰える」


 ……何とまぁ現金な事で。ネームドモンスター扱いされたエルルは大分不機嫌になっていたが、殺気を向けるようなことはしなかった。というか、モンスターなんかと一緒にするな、と零していた。……うん。やっぱり魔物種族とモンスターって別物なのか。

 で、カバーさん経由でその「特攻武器」とやらを見せてもらうと……「対ドラゴン・攻撃力5倍」という効果がくっついていた。なるほど確かに特攻武器だ。……使い手が、累計種族レベル80弱の人間でなければ、だが。

 その効果と、使い手である神官服のプレイヤーのレベルを聞いたエルル、微妙な顔で思わずこう呟いた。


「……わざわざ応戦してやる意味無かったな、これ」

「あぁ!?」

「だったら今すぐ切ってみろよ。ほら、腕出してやるから」

「てっめぇ舐めやがって!!」


 動き的に、どうやらエルルは本気で左腕を横に伸ばして見せたらしい。サーディンさんやカバーさんが止める間もなく抜剣の音が聞こえ、なかなか思い切りのいい踏み込みの音。刃が風を切る音が聞こえ、

 ……バッキーン、と、よく響く、甲高い音。


「……は?」

「は?」

「はぁぁあああああ!!??」

「効く訳ないだろ、その程度の実力で」

「あ゛ぁ!!??」


 まぁ、累計種族レベル1万3千弱の、バリッバリに最前線で戦ってたガチ戦闘職なドラゴンだからね、エルル。しかも、そんな実力者が纏うのに相応の鎧の上から切って、効く訳が無いよね。

 あ、そうそう。この軍服、竜姿の鎧が【人化】によって服の見た目に変わってるだけで効果は変わらないらしい。つまり、戦争真っ盛りの時の竜合金とやらで、士官用に作られた一点物装備が性能そのままって事だ。

 まぁ、効く訳が無いよね。(2回目)


「……一応聞くが、友好的なんだな?」

「仮に敵対的だとして、俺がこの街を壊して得られるものが何かある?」

「…………無いか。この街の者として若干腹は立つが、納得はした」


 隊長のサーディンさん、かなり複雑な顔をしていると思われる。うん。だが事実だ。安心してほしい、ちゃんと友好的だから。あとエルル、妨害されたのと始祖の敵だって事と舐められたことで不機嫌なのは分かったから、煽るのを止めようか。

 さてそんな訳でこの騒ぎの決着をどうするか、という事だが。まずカバーさんと一般魔物プレイヤーにはお咎めなし。エルルは正当防衛が認められて同じくお咎めなし。

 で、神官服のプレイヤーだが、神からの啓示だとしても危険行為であるという事、及びエルルから煽ったとはいえ警備隊の目の前で切りかかったという事で、お説教の上しばらく牢屋に入れられることになった。やーい前科者ー。


「ふむ、神々の関係もまた興味深い……。魔物種族と魔物、いえ、魔物とモンスターはもしや、起源が違う生物では……?」


 まぁ、カバーさんは途中からそんな感じだったけど。戻ってきてくれガイドさん。

 余計な横やりは入ったが、その後はトッププレイヤーによる有志の護衛もあって無事に移動できた。元々目と鼻の先だったけど。うん、エルルがもてもてだったよ、どこぞの団長とかリーダーとかに。


「大神殿内部は“中立にして中庸”の神の領域です。それすなわち、徹底した相互不干渉。なので召喚者プレイヤー同士で合流するのにもパーティを組む必要があります。なので終わりましたら、出てきたところでお待ちください」


 つまり、プレイベートエリアというやつのようだ。これは安心。もちろんエルルとはパーティを組んでいるので、問題ない。

 その内空気の幕を通ったような、ちょっとした眩暈のような感覚があった。これは、と思って、ひょこっと顔を出してみると。


『なるほど、ここが大神殿……』

「これはこれで、独特な神域だな」


 上から降ってくる白い光と、丸く広い部屋の壁際にずらりと並んだ神の像が落とす黒い影。モノクロで彩りというものが無い光景の真ん中に、薄青い光の柱が立ち上っている。

 これが大神殿。ポータルとかシステムエリアとか言われる、ゲームとしての必須施設のようだった。

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