第68話 7枚目:人の街観光ツアー

 まぁそんな感じの進み方だったので、結局それっぽい街の近く……というか、ウッドモンキーのプレイヤーが拠点としている場所に着いたのは、現実での日暮れをとっくに越えてからの話だった。

 とはいえ、内部時間3日程で大陸の端から端へ移動したエルルが偉い。しかも途中寄り道していたから、実際にはもっと短い。ほんと偉い。無事道中にいる魔物プレイヤーは回収できたし、偉い。

 あぁ、もちろんその動きは検証班から一般人間種族プレイヤーにも伝わって、『スターティア』は現在最前線から引き返してきたトップ層プレイヤーや、彼らに引き寄せられた住民の実力者たちが集まり、初回イベントの時に匹敵する賑わいを見せているらしい。


「他の「魔王候補」の方々が合流できなかったのは残念ですね……」

『仕方ありません。流石に大陸が違うとお手上げです』


 ……「第一候補」はあえて合流しない事を選んだ可能性があるけどな。というのは黙っておく。封じられた魔物の神を開放するのに忙しいんだろう。或いは、本気で魔王を目指しているがゆえに顔見せは早いと判断したか。

 そういう私も【人化】出来ない以上外回りは全部検証班の人に丸投げするつもりだし、実際に姿を見せるのは【人化】したエルルだ。……エルルの服装に蜘蛛のプレイヤーが食いつきまくってたのはまた別の話。

 さてそんな訳で、ようやくの人の街……プレイヤーの初期拠点『スターティア』への移動だ。もちろん事前に検証班の人達が住人の方へ連絡を入れ、周囲のプレイヤーに周知して安全を確保したうえで、全員【人化】してからだが。


「えー、それでは皆さん、【人化】は大丈夫ですかー?」

「なんとか」

「どうにか」

「一応?」


 ……エルルが、こいつら大丈夫かって目で見てるけど、まぁ仕方ない。だって、明らかに「人じゃない何かがギリギリ人のふりしてます」って格好だし。服装が初期装備なのもあって、うん。不審者認定からは逃げられそうにない。

 エルルに聞いたところ、【人化】のレベルが50を越えないと不自然さが取れない上に、人間種族か高レベル【人化】済み種族に混じって【人化】を続けないとなかなか上がらないのだそうだ。


『ちなみにエルル、【人化】のレベルを聞いても?』

「だから俺これでも士官なんだって。当然上限の100まで上げてるよ」

「成程。それで完全に、全く違和感なくヒトの姿なんですね」

「交渉事するには必須だからなー。低いと舐められるんだ」

「ほうほう……」


 とりあえず【人化】のカンスト値が判明したので、検証班の人がさっそく情報掲示板に上げていた。あと魔物種族住民にとっての【人化】の重要性。

 そんな会話をしながら、エルルと検証班の人を先頭に歩いて森を出る。ウッドモンキーのプレイヤーは、ここでまずほっとした顔をしていた。……そうか、この前の時点でキルされてるもんな。

 そしてそのまま、平原の真ん中にそびえているような大きな壁を目指す。真ん中のどでかい扉が正門で、基本的に閉じてるものらしい。普段の通行はその左右にある、馬車用と人間用の2つの小さな門を使うのだとか。


「という訳で、今からヒト用の門へ向かいまーす。くれぐれも【人化】は解かないで下さーい」

「「「はーい」」」


 ちなみに検証班の人が引率役を引き継いでくれたので、エルルはほっとしていた。

 今更だがエルルの軍服(鎧)はやはり相当に優秀で、子猫サイズの私が潜り込んだ程度では外見に変化は無いらしい。私以外に見る相手が居なかったから分からなかった。これで隠れていれば【人化】出来なくても街に入れる……と、いいな。

 そう。いいな、だ。流石に確証はない。


「まーその場合は普通にお嬢の成長を待つしかないな」


 まぁそういう事だ。その場合はエルルが買い出しに行くような形になるだろう。主に本とか食材とか野営道具とかを。お金? ははは、エルルの戦闘力は折り紙付きだ。戦士ギルドにでも入ればその程度すぐに稼ぎ出せるさ。

 ……それに、エルルは換金用としてあの崖下にあった魔力結晶や金貨、いくらかの朽ちかけた装備品をインベントリに入れている。多分価値が高すぎて大騒ぎになりそうだから、それを出す機会は無いといいんだけど。

 そんな訳で正門に向かって右手側、人間用の門に近づいて……。


「お前達か…………。本当に暴れ出さないんだろうな?」

「はい、大丈夫です。種族は違えど彼らも私達と同じ召喚者ですから」

「その区別がつかんのだが……」

「このように、指示に従っている事が証明にはならないでしょうか。何でしたら、それぞれに質疑応答を行いますか?」

「……いやまぁ、魔物使いでもない者が、【人化】に【共通言語】を使えるほどの魔物を従えられるとは思わないから、矛盾は無い……」


 ……若干渋い顔でごねられたが、検証班の人の説得もありどうにか通過。唯一精神的にも人外のエルルが一番警戒されなくて、本人もとい本竜はちょっと複雑そうだった。

 もちろん私は存在が気づかれると面倒な事になるので大人しくしていた。ここでばれると大変と厄介な事になるから、大神殿に辿り着くまでは気配を消していますとも。

 さーて、エルルの軍服の中に隠れてるから一切見えないけど、ようやく人の街に到着出来た。いざインベントリ……もとい、大神殿! 消費アイテムの購入! 出来れば大図書館!

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