第64話 7枚目:封印と祝福

 ひとしきり重要な事を語ってくれたティフォン様は、真面目な顔をまた悪人面な笑顔に変えた。うーん、このいかにもな悪役感。いや、人間種族からすれば悪役なんだろうけど。


〈お前の言う「王の候補」も気になるが、それはまたの機会に、妻と共に聞くとしよう。可能ならな〉

「キュー(微力を尽くします)」


 悪人面なだけのイケオジだ、これ。不屈の精神を持った、下手したら主人公を食いかねないレベルの人格顔面声が揃ってイケメンのイケオジだ。好きな人はもうド嵌りするだろう。

 おじさま趣味はそうでもない私でも格好いいとなるんだ。好きな人にとっては堪らないだろう。狂信者が何人現れるやら。……生贄系のエピソードは無かった筈なので、大丈夫だと思いたい。


〈さて。俺も俺を目覚めさせた奴の所に行かなければならんし、お前もそろそろ起きた方が良い〉

「キュ?(目覚めさせた奴?)」

〈あぁ。封じられていた火山の蓋が、ある日突然外されてな。出てこれた。……出た途端に、あの天空神が雷を投げて来たんだが〉


 チッッ。とばかり苦々しい顔をするティフォン様。おおう、本当に嫌いなんだな……いやまぁ殺されかければそりゃ怒るか。

 しかし、ふーん。蓋が外されて。ある日突然。へー。


「キュゥ(ティフォン様)」

〈何だ?〉

「キュッ、キュゥ(もしかしたらそれ、私の心当たりかも知れません)」

〈……ほう。何故だ?〉


 種族レベルをカンストしたのは「第一候補」の方が先だ。そして、私もエルルという存在ありきだが、外へと出れた。行動できるようになった。なら、だ。


「キュ、キュッ。キュ。キュゥ、キュッ。……キ、キュッ(魔物が荒れ狂うは、神が居ない為。故に神を復活させる。そも原初における王とは、神より統治の権威を預かりし神官なり。……と、言っていましたので)」


 あの信念を持って「魔物の王」へと邁進している「第一候補」なら、それこそ封印の1つぐらいは破れるようになっていても、おかしくない。

 そして第1回イベントで伝承を調べていた。スキルはともかく知識はそのままだ。それなら、封印エピソードが残っている神から当たってみるという行動は「理が通って」いる。

 …………っていうか、他にいないだろ。わざわざ封じられた神を復活させるなんて奴も、それを実行できるだけの力を持った奴も。それらを両方併せ持つとなるとなおさら。


〈はっは──はっはっはっはっは!! なるほど、それは良い!! 実に良い!! はっはっはっはっは!!!〉


 それを聞いたティフォン様、ここ一番の呵々大笑。おう、地面が揺れる。


〈元より俺とて、全ての命を縛ろうとは思っていない。我が子を支配下に置くなどするものか。子がどうしようもなく困った時に、支えを授ける。それが神の在り方だ。そうか、その庇護と敬意を持って「王」を目指すか!!〉


 わぉ、溶岩が踊る踊る。天井から滴る量も増えて来た。流石に私は避けるみたいだけど。おわ、地面の揺れが酷くなってきた。


〈はっはっは!! 良い気概と覚悟だ!! これは急がねばならんなぁ、下手な邪神に手を出されるわけにはいかん!! はっはっはっはっは──!!〉


 ……。

 …………。


「キュッ(はっ)」


 大音声で響く、大変上機嫌な笑い声がフェードアウトしていった。それに合わせて地面の揺れが酷くなる中で意識が遠ざかっていき……はっと気づくと、何かこう、蔦を編んだ籠のような物に入っているようだ。

 どうやら夢は終わったらしい。てーか、邪神居るのな……まぁそりゃ居るか……。とか思いつつ、顔を上げて籠の外を見回してみる。


「キュー……(『妖精郷』ではあるようだけど)」


 何処までも広がる広大な花畑は『妖精郷』だろう。色合いや花びらの形も見覚えがあるものばかりだ。遠くに見える巨大な茸はあれ、もしかしてデッグアルヴ達の鍛冶場だろうか。

 ティフォン様とは結構話し込んでいたようで、それなりにログイン時間が経過している。とりあえずスタンピートがどう収束したのがぐらいは聞きたい。

 ……ん、だけど。エルルはともかく、妖精族の姿すら何処にもない。ただ花畑が広がっているだけだ。


「キュゥ(つーか『妖精郷』の何処だ)」


 あんまり動きが無いなら、とりあえずあの巨大茸まで行くしかないか。と籠から身を乗り出す。うん、普通に花畑の中に置いてあるだけだな、この籠。机とか一際大きい花とか、目印になりそうなものも無い。

 完全に放置の姿勢だ。……余程エルルは忙しいのだろうか。まぁ、神様が出てきちゃったからしょうがないか。出るとは思ってなかっただろうし。その辺の後処理かな。


「キュ(そう言えば移動するとか言ってたもんな)」


 たぶん推定で「第一候補」の所まで移動するのだろう。あの巨体で。……となればまぁ、エルルが呼び出されるか。

 中身がイケオジと言っても巨体というだけで脅威になってしまうのがあの神様だ。まして見た目が完全な悪役。エルルは始祖の神って言ってただけあって、何となくあのノリを分かっていた風だったけど、妖精族には通じないだろう。

 ……ん? という事は、エルルが緊急事態って事だから、あんまり動かない方が良いのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る