第63話 7枚目:対話と加護

〈結論から言おう。お前、俺を主神として崇めないか〉

「キュッ(それはちょっと無理ですね)」

〈はっはっは! 即答か!〉


 はっはっは! と笑うその声は斜め上に向けられているので笑い声の風圧が直撃することは無いのだけど、周囲の溶岩の活動も活発になる、つまりポコポコだったのがゴボゴボになるので、割と心臓に悪い。

 ……まぁ、機嫌を現す背景みたいなもんだから、その色がきれいな赤であるうちは大丈夫なのだろう。あと暑く感じないのと。とりあえず今この場では。現実への影響があるかどうかは知らん。

 悪人面な笑顔が再び此方を向く。しっかし大きさ比が大変な事になってるな。こっちは子猫サイズのチビドラゴン。向こうは身長最低数十メートルの巨人。人間とバッタぐらいでは?


〈まぁそれは良い。細い目をしている時点で、俺が庇護し愛する信徒の一人であるし、それは変わらないからな〉

「キュー(それはどうも)」


 そして、その大きさに見合うだけの器のでかさも持っているらしい。信徒の基準が身体的特徴と来た上に他の神を信仰していてもオッケーとは。……まぁ、敵対する神を信じていたらまた違うのかもしれないが。

 さてそれはともかく、結論から始まった話がこれで終わりという事は無い筈だ。……無いよな?


〈本題は終わった訳だが、話を戻そう。召喚者よ、まずは我が眷属にして信徒としてこの世界に現れてくれたこと、感謝する〉

「キュー、キュゥ(乱数の女神はともかく、ボックス様への信心ゆえですね)」

〈ふむ、ボックスか。俺が封じられてからまた増えたのか? 覚えておこう〉


 まぁ元々他の世界の神様だしな(推測が正しければ)。完全土着かつ、今のセリフ的に封印されてたっぽいティフォン様が知っていたら逆に驚きだ。


〈なので、封じられていたせいで渡せなかった加護を渡しておこう。何、邪魔にはならん。天空神が文句を言うかも知れんが無視していい。女を追いかけるばかりで元から碌な事をしない奴だ〉

「キュゥ(あっはい)」


 うーん本当に嫌いなんだなぁと……。まぁ、こっちはこっちで人間種族を守る神々からの受けは悪いだろうなとは思うけど。

 と頷くと、スキル取得メッセージが流れた。あ、これもスキルなのね? えーとスキル名は……うん?


〈ふむ、無事に目覚めたようだな?〉


 取得メッセージに並んだスキルは【竜眼】【竜鱗】【竜魔法】【王権領域】【神話言語】の5つ。前半3つはともかく、後ろ2つはこれ、何だ?

 ティフォン様の言葉からして、どうやら他のスキルが影響している特殊系派生スキルみたいだが……。


〈眼と鱗は、俺が加護を与えたという証明のような物だ。魔法は種族によっては覚えられん。王権は対応する血筋が神域に来たら目覚める。言葉はそういうのに関係なく完全に素質だな。どうだ?〉

「キュー?(召喚者にもその素質は関係あるので?)」

〈魂はともかく、身体はこの世界の物だ。関係はあるだろう〉

「キュ(なるほど)」


 んー。【王権領域】は言わずもがな、【真・竜の血脈】だな。そして今の言葉からして【神話言語】は……【古代言語】辺りか? 他にも怪しいスキルはいくつかあるけど。

 ……っていうか、さらっと流しちゃったけど渡し損ねたっつったよな今。てことは、その辺もまた人間種族プレイヤーの方が有利って事? おいこら運営、つーか魔物の神を封じた人間種族を庇護する神々ちょっと待てやぁ。


〈それと、牙と尾については妻の領分だ。封じられている訳では無い筈なんだがな……。いや、俺が封じられた後だと分からん。ともかく、加護としても、種族としても、そして成長を続けた先としても、俺の妻を探すと良い〉

「キュッ。……キュ?(あっはい。……成長を続けた先?)」

〈それはそうだ。100年足らずしか命のない人間と、万年を生きる事が普通の竜とで、成長の限界が同じな訳が無いだろう〉

「キュー……(あーなるほどー)」


 たぶん、レベルキャップ解放ってとこだろう。

 ……人間種族庇護の神々ぃ! 妨害がきっついなんてもんじゃないんだが!?


〈……なるほど。その辺りも色々されていると……〉

「キューゥ(まぁ負けませんけどね)」

〈──はっはっはっはっは! その意気や良し!〉


 なお、その感情を読み取って察してしまったのか、ティフォン様の機嫌が下降したのでフォローしておく。怒らんでください。あっついから。


〈では教えておこう。今のお前は特に弱く生まれてしまった子だが、いずれ普通の子となり、強い子となるだろう。その間に多くの貴石を口にし、多くの理と律を知ると良い〉


 長文を真面目に聞く。まさかの進化先のヒントが来ましたよ?

 貴石(宝石)をたくさん食べるのと、理と律っていうのは魔法のことかな? 何としても習得した筈の属性魔法を習得し直さなければ。後は推定だがあるだろう精霊魔法。

 ……っていうか、子供時代長くないですかねぇ! まぁ制限時間だと思ったら短く感じるのはいつものことなんだろうけど!!


〈そして、王となり孤独であるも完全な頂点に立つ覚悟があるなら太陽を。姫となり不完全であるも絆を紡ぐ道を選ぶならば月を選ぶが良い。もっとも、姫となるには王が必要であるがな〉

「キュ、キュッ(あ、それは当てがあるので大丈夫です)」

〈ほほう? お前以外に、既に王の血脈を見つけたのか?〉

「…………キュー(竜族ではありませんが)」

〈良い。血脈も確かに必要であるが、王となるには何より、そう在るという気概と覚悟が必要だ。血脈の始まりとするなら問題は無い〉


 まぁ当然ながら、「第一候補」の事だ。別に「第二候補」でもいいけど。なんなら「第四候補」でも「第五候補」でもいい。私以外にも「魔王」の候補は居る。そっちにさっさと譲ってしまおう。

 おーけー、太陽と月だな? 当然月一択だ。全身銀色が継続できそうで何より。金ぴかは……まぁその、あんまり趣味じゃない。色味によっては綺麗だと思うけど。

 あと、良かったね「第一候補」。蛇と竜の始祖は認めてくれそうだよ、これ。

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