第56話 7枚目:妖精郷の現状

 一応言っておくと、突然の登場、という訳でもない。エルルは当然エリート士官軍ドラゴンなので、しばらく前から周囲を気配がちょろちょろしていたのは感知していたとの事。というか、そういう訳だからお嬢はあんまり俺から離れないように、と注意されていた。

 そんな事言われなくてもこんな深い未開の森で単独行動なんか怖くて取れないというのに、エルルはどうやら過保護属性があるようだ。……目を離したすきに何か拾い食いしてそう? 普段の行い? さぁ知らないなぁ。

 とか考えている間に、エルルは自己紹介と、簡単な今把握している自分達の情報の説明を終えたようだ。もちろん私のこともその中に入っている。


「なるほど……かの国の話が聞こえなくなってかなり経つ、と女王ティターニアが仰られていましたが、まさか国の場所が移っているとは」


 うん。流石に国が滅んだとは思いたくないし、なんとエルル、あの遺跡(仮称)を調べていたらしいのだ。それによると、戦争やったにしては壊れ方が少ないし、あまりにも物が残ってないから、街としての場所が移った可能性が高いとの事。

 元々首都は別の所にあったとかで、大きな街の1つではあったが気候や魔力の関係で移る事はままあるらしい。……まぁ、それで行くと、本来ならエルルって戦争で死んでるんだよなぁ……今更だけど。

 まぁ、今は生きて元気に私の面倒を見てくれているんだからそれでいいんだ。


「あくまで状況からの推測だけどな。で? そっちの要件は?」

「はい。私は近衛騎士妖精ロイヤルガード・フェアリーのナーシャ、妖精達が「人間が来た」と怯えていたため、普段より警備を厳しくした結果お二方に気付き、聞き覚えのある軍装でありましたので、声をかけさせていただきました」

「……つまり、何で俺らが此処にいたかは聞いてないし気づいてない?」

「? パトロールか、そちらの方の散歩では?」


 そちらの方=私=真なる竜の血族の子供=竜の皇族の子供。……なるほど。まぁドラゴンってスケールでっかいみたいだからね。エルルの微妙な顔からして、十分納得できる理屈だったようだ。

 という事で、今度はエルルから『妖精郷』に入らせて貰った際に一切の反応が無かった事と、召喚者について、「たからばこ」について、そしてダンジョンについてを噛み砕いて説明することに。

 ……最初の方は首を傾げて分かっていない風だったが、エルルが言い方を工夫して伝えると、段々理解が追い付いてきたらしい。頷きと、理解度の確認のたびに顔色が悪くなっている。


「……とまぁ、そういう啓示をお嬢経由で知ってね。俺が思いつく限りで一番ヤバそうな妖精族のとこへ来たって訳だ。この近辺は大分探したから、それなりに数が減ってる筈なんだけど」

「ご、ご協力、いえ、妖精郷の救援、大変ありがとうございます!」


 あ、救援扱いになるのね。……まぁ、救援か。救援だな。うん。悪い方の予測が大当たりなら救援になる。何せ、モンスターの大量発生を未然に防いだわけだし。

 ……が。なんか、ナーシャさんの顔色がどんどんヤバくなってるんだけど。え、お礼言った割に、助かったって言葉の割に何で顔色更に悪化するの。




 結論から言うと、妖精族は既にヤバい状態だった。


「……まさかの旧都……記念遺跡兼避難所……」


 ナーシャさんが帰ってから、エルルは頭を抱えていた。まぁそりゃね。記憶の中で一番大きい都がある場所に行った筈が、旧都、つまり、引っ越しした後の場所だったって聞いたら、うん。

 さてそれはそれとして妖精族の状況だ。避難所、というところから分かるように、妖精族が何かあった時に「逃げてくる」場所となっている。そこに妖精族がいるということはつまり、「何かあった」という事だ。

 でまぁ、ナーシャさんから、その「何か」の説明を聞いたんだけど。


「キュキュー(まさかの既にスタンピート発生済みとはねー)」

「ははは。お嬢、ほんとそれな」


 ……既に、妖精族現首都が、魔物(モンスター)によって襲われ、ほぼほぼ崩壊した、というのだ。そこから逃げ出してきた団体の内1つが、今ここに集まっている妖精族だという。

 スタンピートの発生理由? 不明だってさ。ナーシャさんはロイヤルガード。つまり妖精族の王族の護衛だ。前線から報告が上がってきた時には時すでに遅し。遅滞戦闘をしながら、王族と民の1集団を逃がすのが精一杯だったと。

 まぁそれは仕方ない。そして、前線で戦っていて残っていた筈のヒトもとい妖精達が来ていないのも仕方ない。多分今も頑張って戦っているか……。


「キュー(ところでエルル)」

「なんですお嬢」

「キュ?(出発はいつ?)」

「…………まぁそんなお嬢で有難いんですけどねぇ。ちったぁ自分の立場の重さを自覚しろこの降って湧いた系お嬢」

「キュー!?(何故にー!?)」


 まぁ助けないって言う選択肢はないよね。って事で提案したら何故か顔をこねくり回された。解せぬ。

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