第55話 7枚目:妖精郷の周辺探索
で。【魔力感知】辺りの派生あるいは応用なのか、エルルはあっさり妖精たちの街……に相当する『妖精郷』を探し当てた。私? ははは、分かる訳ないじゃん。
いやほんとに。エルルが周りを見回しながら何度か大きな樹を回り込んだ、と思ったら目の前にいきなり広大な花畑が広がってるとか。何が起こったのかさっぱり分からない。
エルルにとっては比較的簡単な事だったようで、解説は無し。花畑に2・3歩踏み込んだところで、もう一度周囲を見回して……
「……あれ、おかしいな」
「キュ?(何が?)」
「いやそりゃ。一応ここは妖精族の街みたいなもんで、普通は隠されてるとこに前触れ無しで踏み入ったんだから、見回り位は来てもよさそうだろ?」
「キュ(なるほど)」
首を傾げた。ひょこ、と今度こそ襟元から顔を出して聞いてみると、そんな返事が。なるほど確かに。…………人間の街でいったら、ある日突然ドラゴンが飛んできて、城壁の上に着地&ご挨拶(【魔物言語】で)したようなものか。うん、大事どころじゃ無いな?
逆に大丈夫なんだろうかと思っている間にエルルはその場に腰を下ろした。しばらく待ってみるつもりのようなので、私も服の中から出て膝の上に降りる。がっし、と即座に捕まえられた。
……大事そうなこの花をかじろうだなんて思ってないよ? たくさんあるから1本ぐらい……とかも思ってないから。ホントホント。
「……反応無いな……」
「キュー(何にもないね)」
そのままわしゃわしゃ撫でられ、道具をどこでどう手に入れたのかブラッシングしてくるエルル。なされるがままにされつつシャワーを浴びるような爽快感を満喫していたのだが……待てども暮らせども何も起こらない。
爪のお手入れまでされちゃったよ。目の細かい棒やすりとか何処で手に入れてきたの。おかげで全身ピカピカだ。ただし丸っこいフォルムはどうしようもないものとする。
とうとう磨くところがどこも無くなり、それでも何の反応もない、ときて、エルルは困ったように帽子の下の頭をかいた。
「まさかここまで反応が無いとは……」
「……キュッ?(勝手に探索しようか?)」
「まぁ……そうするかぁ」
ここまで何も反応が無いと、判断のしようがない。
なので一先ず私とエルルは、この『妖精郷』周辺を勝手に探索することにした。
そんな訳で、『妖精郷』の周りをぐるぐる回るように探索開始。二手に分かれるのはエルルが許してくれなかった。いや、離れないよ? 迷子になる姿しか見えない。
あの初期地点の谷底ほどではないにしろ、そこそこ転がっている「たからばこ」を開けていく。たまに「たからばこモンスター」が混ざっているが、私で一撃、エルルでも3コンボで沈むので問題は無い。
「……俺、一応正規の訓練を受けた大人の士官兵なんだけどなぁ」
解せぬ。という顔で私(子猫サイズ幼ドラゴン)の尻尾ビンタで倒される「たからばこモンスター」を見るエルル。まぁそりゃ、こっちは
物理的な攻撃力はこの通りなので、出来るだけ魔法を使うようにすることにした。レベル上げは出来る時にしておかないと。森の中って事で火属性以外を積極的に使っていく。
……試しに【○○古代魔法】でフルブーストをかけたら、エルルでも「たからばこモンスター」がワンパンになった。
「流石真なる竜の血筋というべきか」
「キュ、キュー?(あ、やっぱりこれ威力すごいんだ?)」
「控えめに言ってぶっ飛んでる」
「キュッ(そこまで)」
エルルが「うわぁ」って顔をしながら右手を握ったり開いたりしながらそんな事を言っていた。「たからばこモンスター」に風穴を開けたという事実と、自分の手ごたえとが大分かけ離れていたらしい。
ついでに「あれ? ちょっと待て、お嬢は最低これ以上の力を持ってる訳で? お嬢もいずれは護身術ぐらいは覚えないといけない訳で? それを指導するのって、もしかしなくても、俺……?」とか気づかない方が幸せな事実に気付きかけていた。
……純魔ドラゴンになった方がいいのかな。けど、せっかく耐性スキル頑張って上げたしなぁ。それに物理に弱いドラゴンってそれはそれでどうなのって思っちゃうし。
「……お嬢。最低限、力加減だけは覚えような」
「キュ(はーい)」
でなきゃ俺が死ぬ。そんな副音声がついている感じのエルルの言葉に元気なお返事を返し、小休憩。またしてもブラッシングされる。気持ちいいからいいんだけどさ。
そしてそのタイミングで、
「──すまない。少々、宜しいだろうか」
妖精族、としては随分と大きい、人間の小学生ぐらいの大きさの……きらびやかな鎧をまとった4枚羽の妖精が、姿を現した。
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