第20話 2枚目:不穏の種

 とかやっている間に、結局現在位置からほぼ一歩も動くことなく、学生のアドバンテージ、夏休みは終わった。これからのゲーム時間は、1日3時間までだ。それもちゃんと課題を終わらせ、テストの点を維持していれば、の話。

 睡眠時間を削ると先生に要注意人物扱いされるから仕方ない。それに時間が減っても、地味な作業しかできない日が増えるだけ……いや、正直だいぶ辛い。


「そう言えばフリアドなんだけどさー」


 という訳で、休み時間に本を開いてページを眺めながら、主に掘り起こされた爆弾系スキルの事を考えていると、ちょっと離れた席からそんな声が聞こえてきた。


「ユニークモンスターと魔物プレイヤーの区別ってあれ、どうやってつければいいんだ?」

「さぁ?」

「殴って罪系スキル付いたらプレイヤーでいいんじゃね?」


 酷いな。

 多分クラスの男子なんだろうけど、あまりにも力業じゃないかそれは。せめて話しかけるとか……いや、ユニークモンスターも住民と一緒のAIを積んでるらしいから、会話は出来るのか。

 でも会話で済ませられるかもしれない相手を殴る(=攻撃する)ってそれもどうだかなぁ。戦闘が全てではないんだし、協力できるならした方が良い気がするんだけど。


「いやそれが、【人化】スキルが必要なぐらいの魔物プレイヤーだと、罪系スキルは付かないらしいんだよ」


 ……は?


「え、マジ? 殴ってもいいの?」

「それがさぁ、俺のフレがユニークモンスター見つけたっつってたんだけど、それを倒した後、どっか知らないプレイヤーからブラックリストに入れられたみたいでさぁ」

「何それ、そのユニークがプレイヤーだったって事? ドロップは?」

「それがあったみたいなんだよな。モンスター素材。性能はゴミだったみたいだけど」

「それ、テイムを狙ってたやつの逆恨みじゃね?」

「んー、言われてみればそれもあるか。でもそれにしちゃタイミングがなぁ」


 ……えー、何それ。

 素材ドロップとか罪系スキルが付かない……つまり、前科にならないとか、初耳ナンデスガ? 何それずるい。ただでさえ魔物プレイヤーは強くなるまで尋常じゃ無く苦労するのに。

 これは、帰ったらすぐに掲示板で確認しないと。マイナススキル克服後の動き方が全然変わってくる。下手したら人里に近寄ること自体が死亡フラグだ。……大神殿の機能ってどうやったら代替できるかも確認しないとか。




 で、帰って急いで着替えや課題、ご飯、お風呂諸々を終わらせて、いざゲームログイン。レベル上げ作業はしつつ掲示板を開き、それらしい話題を単語検索で探す。

 すると、人探し掲示板で1つ、モンスター関係の掲示板で2つ、PK被害者掲示板で1つ、検証班の掲示板で1つ見つかった。魔物プレイヤー専用掲示板は……あった。今まさに話題が出た所だ。


「コツ……(大混乱になってるなこれ)」


 大体の流れは教室で聞いた分と変わらない。違うのは、ここまでの流れが全部人間種族プレイヤー視点だったものに対し、こちらは被害者視点という事だ。

 べちべちと尻尾を動かしながら流れを辿る。どうやら元々マイナススキルも少なめで、初期位置も『スターティア』にほど近い森だったらしい魔物プレイヤー。種族はウッドモンキー。木の猿とはまた直球な。

 で。ようやくマイナススキルが外れ、【人化】と【共通言語】をレベル5まで上げて、いざ最初の街へ! と移動を開始。あとちょっとで街を囲むという壁が見える……というところで、プレイヤーに遭遇したそうだ。


「コッ、コツツ。コツッ(久しぶりの遭遇に驚いて固まってる所に、いきなり切りかかられた。慌てて逃げたが逃げきれず死に戻りか)」


 道中は【人化】を使っていなかった……というか、使わないと苦労なんてものじゃない道中だった為、モンスターとほぼ変わらない姿だったと書き込まれている。

 もちろんそのまま近づくと威嚇射撃されるので、木に隠れた状態で大きな壁を確認したら【人化】を発動して歩いていくつもりだったらしい。

 うーんこれは……。


「ココッ……(やっぱり「第一候補」はすぐ思いつくか)」


 人間種族プレイヤーと魔物プレイヤーの仲が、こじれるフラグだ。

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