第17話 1枚目:イベント終了
そして。
『そこまで! 勝者────聖剣の勇者!!』
体力を削り切られる前に勇者が魔法使いの後ろに回り込み、真後ろは流石に厳しいのか弾幕が薄い中を突っ込んで思い切り体当たり。たった、けれど決定的な一歩のたたらを踏んだところで魔法使いの喉元に聖剣を突き付け、勝負は決まった。
私の予想は当たり、魔法使いプレイヤーのフードの下は木彫りの人形のようだった。木人族、という種族だったようで、【人化】が不要な人間種族であるにも関わらず魔物扱いされる、割と不遇な種族だったようだ。
ま、その種族固有スキルと、それを活かした大健闘っぷりで、木人族の株は急上昇した。その内魔物扱いの不遇は解消されるだろう。
「キュ(でまぁ終わればこうなると)」
表彰式まで見てイベントは終了。1時間のログイン制限時間の間にお昼ご飯を食べて、さーてと気合を入れ直してログイン。うーん相変わらずふわふわ浮いた感じがするしほっとんど何も見えない。
現実(※ゲーム)の辛さを噛み締めつつ、まず目を通したのは、ちかちかと視界の端で強い自己主張をしている手紙のアイコンだった。何でこういうところはシステム的なのかな。便利なんだけど。
「キュー? ピッ……(えーとイベント関連だとして? 何かやたらと通知件数が多いな)」
アイコンに意識を向けると展開する半透明な画面。それはアイコン通りメールの着信履歴で、その中に未開封マークの付いた運営からのお知らせがずらりと並んでいる。
まず一番最初に来たメールを開いて内容を確認。当然ながらシステムメール。タイトルは『イベント中の見学専用エリアでのスキル・ステータスについて』。
「キュ……ピキュ、キュゥ。キュピ、キューゥ?(えっとつまり……イベント中はスキルを習得してレベルを上げても、ステータスには反映されない。上がり幅によっては時間がかかるか、スキル習得自体が後回しになる可能性がある?)」
……ちょっとよく分からない。ステータスに反映っていうのは多分種族レベルの事だろう。それはまぁいいとして。
とりあえず次のメールに目をやると、そちらのタイトルは『イベント中の見学専用エリアでのスキル習得について』。どうやら説明が貰えるようだ。
とりあえず開いてみると、そこにはずらずら細かい条件まで含めたスキルを習得した場合の動きが書いてあった。が、その結論は大体一緒だ。
「キュー、キュゥ。ピキュ(習得したスキルがあまりにも多い場合、スキルをスキル書として送る場合があります。なるほどこの大量のメールはそういう事か)」
正しくは、本人専用破棄譲渡強奪不可能属性のついたスキル書、だが。しかし何故そんな面倒な事を? ……ステータス計算の方が大変だからか?
まぁ運営の都合は考えても分からない。そしてそれ以降にずらずらと大量に届いているメールは、全部『~~スキルをスキル書として送付します』というタイトルで、アイテムがくっついているだけのコピペメールだった。
これを一個一個開けていかなきゃいけないのか……と思ったところで、ふと頭をよぎる疑問。
「ピ……キュゥ?(そういえば……この状態でどうやったらアイテムが使えるんだ?)」
困った時の掲示板。もとい先人の知恵。大体同じタイミングでログインしているなら「第四候補」あたりが既にやってみている筈だ。まぁ向こうは実体があるかもしれないけど。
「キゥ(あっこれダメなやつだ)」
……と、思って覗いてみた魔物専用掲示板は、阿鼻叫喚となっていた。どうやら「第四候補」だけではなく「第五候補」もやらかしたらしい。
スキル書をメールから受け取ったはいいが、その瞬間[インベントリが確認できません。受け取ったアイテムは大神殿の倉庫に転送されます]というメッセージが出たようだ。
で、大神殿とはなんぞや、というと、『スターティア』等の大きな街にしかない特殊施設で、あらゆる神の像が公平に並べられている場所だ。
「キュキュピーゥ(だから大きな街に入れるほど動けるようになるのが大変なんだってば)」
なので当然、そんな所に転送されてしまえば使えるまでに相当な時間がかかる。なお固有名詞持ち以外にもやらかしてしまったらしく、それで阿鼻叫喚になっているようだ。
まぁ、とにかく。インベントリを受け取るのも大神殿に行かなければならないので、スキル書として送られた分は使えない、という認識をするしかない。イベント中のスキル習得・最低限のレベル上げの努力が実質的に水泡に帰した。
「キャゥ!(おのれ運営!)」
ちなみに、スキル書を使って得るスキルを既に持っている場合は経験値として統合される。だから一応無駄ではないが……レベル5までは非常に上がりやすい。つまり、経験値としてのうまみは殆ど無い。
……爆弾を掘り当てた自覚がある分だけ、あまり強くは言えないんだけど。そりゃまぁ、レベル5とはいえ、あの数を習得出来たら……種族レベルが、うん。大変な事になるだろう。
ただでさえバランスブレイカー的な魔物プレイヤーと人間種族プレイヤーのステータス差が、更に絶望的な事になってしまう。それはまぁ、うん。運営的には歓迎できないだろうな、と。
「……ピ(さてそろそろスキルを確認しよう)」
それら事後処理に色々納得した所で、既に取得済みスキルの確認に移るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます