第15話 1枚目:決勝戦

「っさぁ選手紹介ですがこれは現地の実況と解説がやってるから、細かい事知りたい人はそっちを視聴してねーって事で、ざっくり紹介! 現地の勇者と召喚者プレイヤーの魔法使いだ! 以上!」

「現地住民と儂ら召喚者プレイヤーとの戦いという事で、会場の声援も真っ二つに割れておるのー」

「あれはあれで楽しそう! というのは置いといて、実際勇者ってどんだけ強いの? って疑問に文字通り強さで答えてくれた現地勇者が声援の面ではやや有利か。まぁ強い事は良い事だもんね」

「勇者の準決勝の試合は見ものじゃった。正直あれが剣士部門の決勝じゃろうな。ただの力ではなく技巧が冴えた良い試合じゃ」


 わちゃわちゃと実況と解説の仕事をしている「第四候補」と「第二候補」の声を聞きながら見たスクリーンには、それぞれ決勝に駒を進めた参加者が大写しになっていた。

 片方は金属みたいな色の革鎧で全身を覆い、腰のベルトに一本の剣を下げた軽戦士。ヘッドギアのような兜だけは外して左手に持ち、金髪碧眼なイケメンを晒している。

 もう片方はどこかもっさりとした灰色のローブを着て、身長と同じくらいの木の棒……杖を手にした、ローブのフードで顔を隠した魔法使い。指輪を溶岩に放り込みに行くファンタジーの魔法使いに近い感じだ。ウィッチやソーサリーではなく、ウィザードとかセージ的な。


「なお決勝の審判は高台の上座に居る国王様が行うらしい。けど、あんな距離離れてて見えるのか? という疑問は皆持ってると思う」

「まぁ、出来るからやるんじゃろうな。あぁほら、会場からの解説があったぞい」

「ほうほう、遺跡から出てきたロストテクノロジーなアイテムを使用して、複数箇所からの映像を同時に見れるとのこと。残念ながら録画は出来ない。それなんてビューカメラ?」

「ちなみにその遺跡は国の管轄下で厳重に管理されておるようじゃから、逸って突入すると捕まるからの」

「ちなみに捕まるとその罪の重さに応じてマイナススキルが強制付与されて、消化すると【贖われた罪】ってスキルに変わるらしいよ。犯罪履歴が残るって訳だね!」

「そして【贖われた罪】の効果は「次に得る罪系スキルのレベルを初期値分だけ加算する」というものじゃ。マイナススキルのレベルが加算されるという事は、分かるな? というやつじゃな」

「一応一度効果が発動したら消えるみたいだけど、効果が発動するって事はその分だけ初期値の下がった罪系スキルが増えてるって訳で。つまりあれだな? 罪を重ねるとどんどん雪だるま式に膨れ上がっていく訳だな? いやー怖い!」

「ちなみに【贖われた罪】はマイナス効果こそないものの、扱いとしてはマイナススキルじゃ。マイナススキルは控えに移せんから、消しも隠しも出来んという訳じゃの。もちろん調べられたら初期値も判明するから、逃げられんぞ?」

「一応【贖われた罪】もスキルレベルを上げれば普通スキルになるみたいだけど、罪の反対って何だろうね?」

「さてのう。ま、悪い事はしない方が良いには違いないわい」

「確かに!」


 実況と解説が横道にそれている間に、決勝戦に臨む2人は互いに礼、10mほど離れた開始位置へと移動した。そこで現地勇者は兜を着けて剣を抜き中段に構え、魔法使いは杖を正面に立てて、先端を前に倒す形で両手を添える。

 国王らしい声による短い激励があった後、構え、と声がした。ぴり、と、画面越しの空気に緊張が走り、


『始めっ!』

「さぁ始まりました決勝戦、お互いの初手は──おっとぉ! 魔法使いからの魔法の弾幕! 一気に距離を詰めようとした勇者、緩急をつけて叩き込まれる魔法に押されて押し戻された!」

「ほほぅ、あの魔法使い中々やるのう」

「長期戦は不利と見たか、魔法使いは微動だにしないまま盛大な攻勢だ!」

「だいぶ練度を上げて鍛え上げておるのー。使われているのは火と水だけじゃが、威力もなかなかあるぞい。直撃しても死なんじゃろうが動きは止まるじゃろうし、直接喰らわなくても体力は削れるじゃろうの」


 始め、の声が響いた瞬間に飛び出した現地勇者に一拍遅れ、テニスボールサイズの火の玉と水の玉が無数に現れた。それは即座に反応した勇者に向かって飛んでいき、飛んでいった端からまた新たな火、あるいは水の玉が出現する。

 現地勇者はそのいくつかを斬り払ったものの、その密度と連射速度に前進を諦めて一旦距離を開けた。もちろん距離が出来ても魔法使いには関係ない。変わらないペースで魔法が叩き込まれ続ける。

 ここまでの戦い方が逃げ回りながら魔法をばら撒いていくものだった為、一歩たりとも動かず固定砲台になっての乱射という戦い方は大会初だ。


「魔力が切れる前に押し切るか、それとも魔力が切れるまでしのげるか!?」

「いや、そんな温い考えはしとらんじゃろう。それに魔法にも流石に、有効射程というものがあるからの」

「壁際に追い詰められた勇者だが、ここで魔法の連射が止まる! 魔法の射程はギリギリ反対側の壁までは届かないようだ! とはいえ魔力の回復手段位は持ってるだろうし、時間をかけるとそれなりに不利なんじゃ?」

「ま、そこは勇者も考えておるじゃろうて。ほれ、動きがあるぞい」


 「第二候補」がそう口に出したタイミングで、壁を背にした勇者が剣を自分の前へと立てる形で持った。騎士の誓いにも似たその態勢で、良く通る声が響く。


『確かに。さっきの相手もそうだったけど、手札を隠して勝てる相手じゃなさそうだ。使うつもりは無かったけど、それは失礼な考えだったね。──勇者足る証明の為に、勝利を。聖剣、加護開放!』

「加護開放! 勇者が勇者として戦う時にのみ発動できる聖剣専用スキル! 本気出してきたー!」

「遊びではなく戦いとして認めたという事じゃの。聖剣の性能もじゃが、勇者の意識が切り替わるのが大きいわい。ただの強化だと思っているなら、ズンバラリじゃ」


 「第四候補」の声に「第二候補」が解説を付けている間に、勇者が試合直前に装備し直した兜の下の顔を、楽しそうな物から一転、無表情に近いものへと変えた。

 刀身全体に光を帯びた剣……本来の性能を引き出した聖剣を手に、試合開始時の焼き直しの様に真っすぐ突っ込んでいく。当然、魔法使いは最初にもまして無数の魔法で弾幕を張る、が。


「速さも違えば手数も違う、いやー勇者スゲーと思ってたけどこれは確かに勇者で間違いない、この誰が見ても明らかに強い感じ!」

「魔法を避け、最低限斬りながらも足は止めておらん。あの見切りと体捌き、やはりさっきまでとは違うの」

「一方魔法使いに特段変化は無い、このままだと接敵されて斬られて終わりだぞ──とか言ってる間に勇者が剣の間合いに魔法使いを捉えた!」


 映画のような大スクリーンが赤と青で埋まるんじゃないかという弾幕の中を、真っすぐに勇者は突っ切っていった。誰しもが確信したことだろう。

 親しく会話を交わすほどの距離まで勇者が踏み込み、袈裟に斬り上げるように聖剣を下へと振りかぶった時点で、魔法使いが真っ二つに斬られる事を。

 勇者の表情に変化は無い。魔法使いの顔は、フードに隠れて見えない。


「なるほど、そういう事じゃったか」


 そう「第二候補」が呟くのが早いか、実際に動きがあったのが早いか──。

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