第14話 1枚目:実況と解説
予選中の暇潰しから大変な爆弾を掘り当ててしまい、観戦どころではなくなってしまった見学専用エリア。エリア名は泣いていい。
しかしそれでも本戦が始まるとちらほらと観戦に戻るプレイヤーが出始め、私を含めた「魔王候補」達も、ベスト8決定戦辺りからは観戦に戻る事にした。……別に今上げられる範囲のスキルを上げ切ったとかではない。それもあるけど。
「結局、あの現地参加者で準々決勝まで残ったのは3人かー」
「そうね~。こう~、背負った名の重みは伊達ではない~、みたいな~」
「まぁ、ぽっと出の異世界の住民、それも戦闘経験がほとんどない相手に負ける訳にはいかんじゃろう」
「こちらで2か月程ですからね。逆にそれぐらいは出来なければ困る、とも言いますが」
「だが、負けた者の顔も悔しさより納得が強い。伏せ札は残っているようだ」
わいわいと、スポーツ観戦のノリで決勝戦前の待ち時間に感想を言い合う。ベスト8の内訳は現地勇者、現地騎士団長、現地騎士副団長、剣士プレイヤー3人、魔法使いプレイヤー2人だった。
このうち準決勝に進んだのは現地勇者、現地騎士団長、剣士プレイヤー1人、魔法使いプレイヤー1人。
そして決勝に進んだのは、剣士プレイヤーを下した現地勇者と、現地騎士団長を下した魔法使いプレイヤーだ。
「勇者と打ち合ってた奴も、結構いい線行ってたんだけどな。どこで差がついたと思う? 「第二候補」」
「順当に考えて、場数の違いじゃろう。ワシらと違ってあちらは死んだらそれまで。その上であそこまで実力をつけるとなると、その過酷さも覚悟も雲泥の差じゃ」
「つまり勇者スゲー。って事しか俺には分からない」
「まぁ間違ってはおらん」
「第四候補」と「第二候補」が実況と解説のようなことをやり始めた。面白いから黙って聞いていよう。
「じゃ、騎士団長と魔法使いの方は?」
「騎士団長の方の動きに若干迷いがあったからの。その迷いを突いて押し切ったと言ったところじゃな。本気装備じゃったら、恐らく魔法使いが叩き切られて終わりじゃよ」
「うーん何でそうなるのかはさっぱり分からないけど、騎士団長って何か温存したか隠してた系?」
「恐らくは得物じゃ。迫る魔法の正面で一瞬止まる場面が多かったからの、魔法を「斬れる」剣を普段は使っておるのじゃろう」
「こえー! 魔法が切れるなら魔力が切れる、つまり幽霊も切れるってことじゃん! こえー!」
流石バトルジャンキー、良い解説。「第四候補」も実況としてはナイスなリアクション。
……ふと思いついて、一度席を立つ。予備の紙ナプキンを2枚とイカ墨パスタのような料理を一皿、予備のスプーンを1本持ってきて、まず手早くパスタを食べる。
紙ナプキンを三角の柱を寝かせた形に折って、イカ墨パスタのソースを持ってきたスプーンで集め、ソースが垂れないようにスプーンの先を使って慎重に文字を書いた。
「あ、あのー……、ご、ご用でしょう、か?」
思ったよりうまく書けたことに満足していると、そんな声がかかる。声の方を見ると、最初に取材に来たモヤシスーツ記者がやってきていた。視線を更に横に映すと、にこにこと楽しそうに「第五候補」が笑っている。
どうやら意図を察したらしく、先じて記者を呼んでくれたのだろう。「第一候補」もにやりと笑い、他の椅子の位置をずらして場所を開けていた。
その様子に意図が無事伝わったことと、当時者2人は気づいていないことに、くすくすと笑いが零れた。そのまま、紙ナプキンで作ったそれを記者に渡す。
「録画と撮影をお願いできますか?」
「これは、あぁ! 分かりました!」
一瞬首を傾げたモヤシスーツ記者だったが、書かれた文字を見てすぐ理解したようだ。いそいそと当事者2人……「第四候補」と「第二候補」の方へ移動していった。
そう。私が紙ナプキンに書いた文字は「実況:「第四候補」」と「解説:「第二候補」」だ。つまり手作りの名札である。ごっこではなく、解析・取材班が上げる正式な実況と解説の動画として記録されるがいい!
なお私はしっかり「第五候補」と「第一候補」の居る別のテーブルに避難してフレームアウト。もう映像には映らないからな。
「ふふふ~。案外ノリノリね~」
「見てる分に楽しければそれでいいです」
「くはは、仕返しではないから根が残るとな?」
「残りませんよ。改めて私の存在を示唆しない限りは」
「あらあら~。……期待薄、といった感じかしら~」
「ま、「第二候補」であるからな。上手く消化するであろう」
つまり、ささやかな仕返しだ。他称幽霊とからかったことに対して、私は言った。「覚えておけ」と。イベントの遺恨はイベント中に消化するに限る。通常の空間に引き継ぐとか面倒にしかならない。
「さーてそれでは決勝戦! 飛び入り実況はこの俺「第四候補」と!」
「同じく飛び入り解説の儂、「第二候補」で語らせてもらおうかの」
存外息の合った様子で実況と解説を始めた2人の声を聞きながら、私も映画館のような、特大のスクリーンへと視線を向けた。
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