第12話 1枚目:スキル発見
見学専用エリアだが、ここでは基本的にどのような行動をしてもスキルに経験値は入らないし、スキルを取得することも出来ない。まぁ見学専用なのだから仕方ないが。
……とはいえ、イベント自体が32時間の長丁場。私達のような、そもそも参加自体がスキル熟練度、スタート位置的に不可能なプレイヤーも居る為、バランスをとる為に「訓練室」という特殊な空間が用意されている。
スキル経験値自体は大して入らない、というか、レベル5までしか育てられないが、スキルの取得は通常通りだ。それに、一番大きいのは
「マイナススキルが解消されている、という前提の身体ですからね。スキルの入れ替えが出来るという事ですよ」
「メニューが使えないから~、発声方式なのは面倒だけどね~。ちょっと感動したかも~」
「気持ちは分かります」
魔法について書かれた本を読み、魔法スキルの取得を目指しつつ「第五候補」と会話する。そう、マイナススキルがごっそりと入っているせいで全く育てられない、言語系をはじめとした通常スキルが育てられるという事。
レベル5というのは最低ラインだが、その最低ラインに辿り着くまでにどれだけかかるか分かった物ではないから非常に、非常~にありがたい措置だ。……まぁ、本選に出場しているプレイヤーは、その大会中はスキル経験値にブーストがかかるようだけど。
「しかし……この本棚も、どこかの空間を模したものなのでしょうか」
「『スターティア』の大図書館の~、一部らしいわ~」
「なるほど」
意外と真面目に中身が書かれている『火の魔術・入門』というタイトルの本を読み進める。入門、初級、中級、上級と4段階に分かれているこれらのシリーズ本は「教本」と呼ばれ、入門を読むことでまずスキルが入り、熟練度に応じて上位の教本を読むことでアビリティ……実際に戦闘で使う魔法を習得できるアイテムなのだ。
なおフリアドの魔法は良く知られる火、風、水、土がメジャーであり、光と闇が扱い辛い玄人・趣味向け属性、無属性が日常生活向け、雷や氷は複数の属性を扱っている内に素質があれば使えるようになる、他のこまごまとした属性は魔術師に弟子入りか、「教本」を探すところからやらなければならない、という風に分かれている。
今この場には入門しか存在せず、メジャーどころの無属性を含んだ7属性分しかない。まぁそれはいい。
「…………どこでどうスキルが生えるのかというのも不思議ですねぇ」
「そうね~」
確か、タイトルを見た限りではただの恋愛小説を読んでいた筈の「第五候補」。へぇ普通の小説もあるのか、と思いながら確実な魔法スキルの入手を優先し、中身は見ていない。
それが今は……なんか、エモーションじみたハートマークを浮かべ、指を振って動かしたりしている。多分スキルだと思う。思うけど、何それ。
「たぶんね~、前提条件を満たした~、特殊スキルよ~」
「まぁ、でしょうね」
むしろそれ以外に何があると。
……真面目に考えるなら、魅了系のスキルがトリガー、あるいは前提条件なのだろう。化粧と同じ方向性のスキルにエモーションを出すスキルがある、という感じだろうか。
便利そうだが、私が習得するのは難しそうだ。あの妖艶さはスキル込みだとしても真似できないし、そもそもどうやったら魅了系のスキルが習得できるのかが分からない。
「…………」
「あら~。「第三候補」はそっちに目を付けたの~?」
「えぇ。ちょっと心当たりがありまして」
が……少し考えて、教本の次に別の本を探して持ってきた。それを見て「第五候補」が興味深そうに声をかけてきたが、すまない、集中させておくれ。
持ってきた分厚い本は『鉱物図鑑 Ⅰ』。私には、食事が出来ない為にロックがかかっているマイナススキル【偏食・宝石】がある。それを克服した状態ではあるが、スキル自体が消えてなくなる訳じゃ無い。
偏食スキルが何のマイナスなのか、強化されるとどうなるのかは未だ不明だが……他の何を食べなくても宝石だけで生きていける身体が、他の物を食べられるようになった時。それでもなお宝石を食べたら、どうなるのか。
「!」
それなりに時間をかけて鉱物図鑑のシリーズを読み進め、最後の一冊を読み終わったタイミングでスキル取得の通知が届いた。「第五候補」はスキルを、試すのがメインとは言え見せていた。だからこちらも、通知があったこと自体は隠さない。
メニューを開いてスキルを確認する……事はスキルのネタバレ防止措置の為に出来ないので、ヘルプからログを参照する。そこには確かに、【偏食・宝石】を解決した後で発生、あるいは途中で派生したとすれば納得のいくスキル名があった。
「…………「第五候補」」
「なぁに~?」
「魔物掲示板への書き込みをお願いしてもいいですか」
「あら~。結構大事なものが見つかった感じね~? いいわよ~」
「思ったより重大な情報が出てきて、正直自分に引きました」
そこまで言う? みたいな顔をしていた「第五候補」だが、私が情報を伝えると目を丸くして、普段の口調とは裏腹に華麗な指捌きで長文を一気に掲示板へ書き込んだ。どうやら納得してくれたようで何よりだ。
その後もちょいちょい返事を書いているような様子を見るに、掲示板も特大の爆弾が投下され、てんやわんやになっているのだろう。イベントに見学で参加する魔物プレイヤーは結構多かった筈だ。このエリアに来ているかどうかは別とするが。
そしてそれはそれとして、少なくとも魔物プレイヤーにとっては非常に重要な情報を得た私は、次に地質に関係する資料を纏めた本のようなものを読むことにした。
「……あぁ~。さっきのからすれば~、無関係ではないわね~」
「えぇ全く。本当に」
細かい字で書かれた報告書を纏めたような、データらしい数字がひたすら並んでいる、枕にしても高すぎるような厚みと幅の紙束に集中しながら、「第五候補」に返答する。
「どこでどうスキルが生えるのかというのも、不思議です」
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