第11話 1枚目:インタビュー2

 スーツ男はしばらくきょとんとこちらに視線を向け、何かに気付いたように何かメニューらしき半透明の板を中空に出して、そしてはっきり理解したようだ。私の姿が「撮影出来ている」ことに。

 そしてその様子で後の4人も気づいたのだろう。主に面白がる方向へと表情が動いた。


「こ、これは、撮影許可を出して頂き、ありがとうございます」

「流石に、この流れで私だけ映らない、という訳にもいかないでしょう」


 実際、それ以上でも以下でもない。必要だったから。それだけだ。……面倒ではあるけど。


「そ、それでは……えぇと……」

「「第三候補」です。とはいえ、私は特段これという目玉……もとい、指針はありません」


 キャラクターネームではなく、ここまでの流れで使われた、掲示板での固有名詞を名乗る。それに続けて、自分が魔王になったらどうするか、という仮定を、若干考えつつ言葉にしていった。


「ようは、「国」が出来れば良いのです。どんな形にせよ、どんな指針にせよ。現状の戦争難民のような状態が最も好ましくないのであれば、知らしめ、受け入れ、一塊にしてしまえばそれで一先ずの解決となるでしょう」

「消極的、とも、とれますが……」

「肝心要の部分だけがあれば良いのです。快楽も、食も、力も、それはそれぞれで結構。本当に魔物という魔物を収容出来るのであれば──「国」として、破綻さえしなければ」


 そこさえ違わなければ、好きにすれば宜しい。投げやり、とも取れる意見に、どうやら周囲はむしろ感心しているようだ。当たり前のことを言っただけなのにな。


「確かに。「王」であるからには「国」がある。そしてどのような「国」かという以前に「国」を維持する事こそが肝要である。その思想、ある意味最も「王」向けやもしれぬな」

「御冗談を、「第一候補」。この程度、あなたはもう想定済みだったのでは? 納得はあっても驚きがありませんが」

「くっはは、見破られてしまったか」


 話をこちらに振って以降沈黙していた「第一候補」に言葉を返し、手番を渡す。さて。ある意味大本命な推定魔人は何を語るのか。


「──「神」だ」


 ふむ?


「魔物が荒れ、狂い、牙をむくのは、魔物の神がいない故だ。縋り、祈り、願う先がない故だ。ない故に、それがある者へと危害を加えるのだ。なれば、我は魔物の神を復活させる。元より王とは神に民を託されし神官が起源。故に、我は神官となり、信仰によって魔王の座につき、魔物を統べる」

「魔物の、神……ですか?」

「そうとも。ただし、未だ我も未熟。詳しく語るは、時が満ちてからであるがな」


 ……“神秘にして福音”の神ことボックス様を信仰している身としては反応しづらいな。実際いるだろうなーっていうのと信仰するにしてはボックス様の次になるっていうので。

 しっかし、神官と来たか。……確か、あったよな? 有名な剣と魔法のゲームのシリーズで、大神官が魔王位置に居るやつ。やはり大本命、魔王らしさが一回り違う。


「のう。この心構えと方向性、儂は「第二候補」を譲った方が良いじゃろうか?」

「あー。「第一候補」が象徴で、実務が「第三候補」、俺たちは好きにやる大臣的な?」

「あら、それもいいわね~。それならいっそ、「第三候補」はもう~、見た目も込みで姫扱いしちゃう~?」

「おっ、いいねそれ」

「微塵も良くない訳ですが?」


 そして面倒ごとを押し付ける算段を付けてるんじゃないよ、そこの「魔王候補」達は。


「言っておきますが。「第一候補」が召喚する神が世界を滅ぼすしか出来ない邪神だった場合は、矢面に立って止めなければならないんですからね?」

「…………あら~。そう言われれば、それもそうかしらね~」

「…………そー言えばそういう可能性もあるっちゃあるのか」

「気が抜けんのう!」

「くはは! 危機管理能力は「第三候補」が一番だな!」


 面倒ごとから逃げられると思うな? と釘を刺していると、続けて色々と語っていた、もといインタビューに答えていた「第一候補」が話に混ざってきた。スーツ男は、と探すと、どうやら仲間らしい集団の方へと戻っていく。録画状態を示す光も消えているので、存外あっさり終わったらしい。


「当たり前です。私は、私が強いとは微塵も思っていませんし、強くなると決めている訳でもありません。ただただリスクを潰しているだけです」

「俺知ってる。そういうタイプが黒幕の中で一番厄介なんだ」

「そうね~。弱点らしい弱点を徹底的に無くして~、対策するから~、敵に回ると、取っ掛かりから困る相手よね~」

「同意じゃよ。状況を整え誘導する事で、実力の何倍もの手強さとなる奴じゃ。下手に前線に出ぬ方が強いまであるかものう」

「くっははは! 「第三候補」が敵に回らぬよう、その振る舞いには常々気を付けるとしよう!」


 ……何だか散々な言われようだが、反論すると更にあれこれ言われそうだったので、黙って口に料理を押し込むことにした。

 というか「第二候補」、邪神と戦う可能性に対して楽しそうにしてるんじゃないよ。大歓迎って顔に書くな。

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