第10話 1枚目:インタビュー

 イベントエリアに来た目的が半分達成されたところで、映画館にあるスクリーンのような大画面へと目を向ける。開会式も終わり、今は巨大な闘技場を8つに分割し、予選を同時並行で行っている様子が、上空からの視点で映し出されている。

 フリアドの初期ロットは5万本、今回のイベントへ参加したプレイヤーはその半分強ほどだ。ちなみに魔物プレイヤーは341人で1%を切る。

 流石に一戦一戦やっていたらいくら時間があっても足りないので、500人を1ブロックとして分割、制限時間10分で予選通過は1人、という乱戦型の予選を行う事にしたらしい。


「流石に大規模な戦いは違うわね~」

「まぁ、この予選だけで8時間ぐらいかかりますからね」

「予選だけでほぼ一日かかるのか。大規模なイベントは違うね」


 ぶっちゃけこんなバランスで大丈夫かと思う。これなら下手に時間加速せずに、普通に何日かに分けてやればよかったのでは? それとも、最初のイベントだから色々調節中なのか。

 とはいえ。500人が入り乱れる大混戦は見ていて楽しい。流石にサービス開始2週間で戦闘イベントに参戦しようという人たちだ。あと人種。本当に色々な種族が入り乱れて見た目だけでも豪華。……流石に魔物は居ない。いや、見えないだけかもしれないけど。


「あ、のー……」


 やれあの剣士がどうだ、それあの槍使いが強そうだ、そんな事を主に男性陣がやっているのを聞き流しつつ、無限に食べられるが何も起こらない食事を進めていると、そんな声が掛けられていた。誰だ?

 スキルの経験値は入らないが、別に行使が出来ない訳ではない。暇つぶしで取得しまくった感知系スキル群がうなりを上げる!

 ……必要もなく、その姿は見えてるんだけどな。「第一候補」の斜め後ろから、くたびれたスーツを着た黒ぶち眼鏡の、顔色が悪い男性が、蚊の鳴くような声を出したようだ。スーツとかよく再現したな?


「……。「第一候補」、お仕事なのでは?」

「ほう? む、なるほど。何なりと聞くが良い!」

「ひわっ!」


 その手にメモとペン、そしてその目の横辺りに録画用アイテムを使った証の緑の光の玉が浮いているのを確認して、一度口の中の物を飲み込んで声をかける。視線は向けない。

 それでも「第一候補」は反応し、大画面からその男性へと視線を向けた。何故か悲鳴じみた声が上がったが、仕事はしたので再び食事に戻る。


「あ、あの。こ、ここの皆様は、一体、どういう理由で集まっているのでしょうか?」


 ……と、思ったら、何故かこちらにも話が飛んでくる内容だった。仕方ないので視線をスーツ男に向ける。顔の横にある光の玉が緑から赤に変わっているから、撮影状態ではあるようだ。


「うむ。我らは皆魔物として生を受けた。成長というものが過酷である我らだが、それだけに成長した暁に大きな力を手にすることが出来る。そしてこの5人は、その将来手にする力の大きさを上から数えて集まった者らだ」

「な、なるほど……」

「故に、このうちの誰かが魔物を統べる者……すなわち、魔王となるだろう、という事で、それぞれ順位付きの候補を名乗っている」


 まぁ私は興味ないんだけどな。自分の領分さえ管理できれば。あとうちの子に会って一緒に暮らせれば。


「そ、それでは……皆様が魔王となったとして、魔物を統べる為に、必要だと考えるものは、何でしょうか?」


 話を聞いて調子が戻ってきたのか、スーツ男の口の滑りが滑らかになってきた。あ、これこっちにも話が振られるやつだ、と流石に察する。

 ……数秒、眉間にしわを寄せて考えたのは仕方ない。だって撮影は基本NOな姿勢だから。


「そうね~。私はやっぱり~、娯楽かしら~」


 私がそんな事を考えている横で、のんびり、と口火を切ったのは「第五候補」。のほほんとした空気と裏腹に、その内容はガチだった。


「楽しんで~、楽しませて~。敵も味方も、心を絡めとって快楽漬けにしてしまえば~……争いは、なくなるわよね~。殺し殺されるより効率的に~、ただ敵意をぶつけるだけより致命的に~、国の興亡も、種族の興廃も、自由自在だもの~」


 えっぐいな。思った以上に魔王に向いた思考回路してた。


「まぁその場合、討伐隊が派遣される可能性も、高そうですが……」

「やだ~。腕は磨き続けるし~、護衛は育てるわよ~。それに~、倒しちゃったら「困る」ところまで、手を伸ばしてしまえば……ねぇ~?」


 ねぇ~? ではないが? と、設定を操作しながら思っていた。の、だが。


「んー困った。方向性が被ったな。といっても、こっちは主に食の方面で、なんだけど。だってほら、よく「胃袋を掴め」って言うじゃん?」


 肩をすくめつつ言う「第四候補」。お前もか。


「魔物も人も、皆腹いっぱいになればいいんだよ。剣より包丁、槍より串、ハンマーより肉塊で、痛みじゃなくて旨味で勝負すれば平和だよな。飢えってのは良くない、全く良くない」

「それでは、魔物の凶暴化の一因は、食糧問題にある、と?」

「飢えたら狂暴になったり倫理が欠けるのは当然っしょ。それに、食は人種も国境も越えるんだぜ? なら、争う気が失せるほど食わせてやんよ」


 ……一見平和だが、食料関係を握るという意味では「第五候補」より数段えぐいんだよなぁ。いや、本当に腹いっぱいにさせるだけならいいが……しこうのなかには、どうぞくぐいというものが、あってだな?


「温いのう」


 設定の最終確認をしているところで、「第二候補」の声。んー、これは


「魔物と言えば力じゃろう。それも通常のヒト種族を超える圧倒的な力よ。それを発散する場が無いからこんな散発的な状態になっておるんじゃ。強い者に従い、そして強い者を食い破る。シンプルイズベストじゃ」


 まごう事なきバトルジャンキー。おい爺さん。


「力による、統治……ですか」

「そうとも。力を求めるのであればそれは武となり、武には整った精神と礼儀が必要不可欠。力で引き寄せ、武というものを示し、礼儀を叩き込む。それが出来ん獣は今までと同じく狩れば良い」


 勇者でも嬉々として受け入れるタイプの魔王だ、これ。下手すれば、好敵手にする為に勇者を育てるまであるやつだ。…………ある意味、一番平和か? 魔物という種族の厄介さは一気に上がるけど。

 そして「第二候補」が話し終わったところで、ようやく設定変更……私が認識し、了承した撮影者には姿が映る設定……が完了した。シャン、と鈴のような音が鳴る。

 その音に気付いたのだろう。スーツ男はもちろん、黙って話を聞いていた「第一候補」も含めて、全員がこちらを振り向いた。

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