第9話 1枚目:イベント開始

 ところで、今更の話だが。フリアドではゲーム内撮影機能というものが標準装備されている。つまりそれは動画投稿サイト等へ動画を上げる事も、動画を上げつつ実況を入れる事も可能という事だ。

 で。それが可能という事は、それに対応する個人情報保護の設定もある、という事だ。これは事前に、見た目バケツのヘルメットの基礎設定として設定できた。私も説明書を読みながらちゃんと設定した。

 ここで話は変わるが、見学専用エリアに魔物プレイヤーが現れる、というのはそれなりに有名な話だったらしい。それに加え、イベントに参加してもそこはトーナメント制。早々に退場が決まった場合、見学専用エリアに移動する事が可能だったみたいだ。

 そしてそれらの要素がかみ合った結果、何が起こったか、というと。


「く……っ! ゆ、ゆっ……ゆうれい、扱い……っ!」

「ふっ……ふ、ふふくくく、い、いきなり腹が、痛い……っ!」

「やかましいです。いつまでウケてるんですか」

「そ~ね~」


 珍しい魔物プレイヤーに取材をしよう、もとい話を聞き出そうと待ち構えていたプレイヤー達と、彼らの視界には映っているのに映像には一切残らない私、という状況の発生だ。お陰でバグの妖精とかリアル幽霊とか、散々な呼ばれようをされた。

 用意された効果なし料理を不機嫌に食べ続ける私と、同じテーブルに座ってうつむいたまま肩を盛大に震わせている男性が2人。のんびりと効果なし飲み物を飲んでいる女性が1人。彼ら彼女らは、魔物プレイヤー専用スレッドで話をしたプレイヤーだ。


「いやー……くっくく、笑った笑った。思ってた通り「第三候補」はマイペース面白いな」


 ワンテンポ早く笑い死にそうな状態から復帰したのは、掲示板上の呼び名で「第四候補」。黒い燕尾服に裏地が赤いマントという見た目装備に、おしろいでも塗っているような白い肌。蝋人形のようなちょっとぞっとする、肩までのストレートな黒髪に血のような赤目の人間味が無い美形。推定、吸血鬼系の種族。


「はー。あの、検証班の慌てっぷりもなかなか見れるものではない。いや、楽しませてもらったわい」


 まもなく満足するまで笑ったのか、こちらも顔を上げて料理に手を伸ばした方は「第二候補」。くたびれたローブと傍に立てかけられた黒い杖、もしゃっとした白い髪とひげを蓄え、常時閉じているような糸目な細身のお爺様と言った風貌だが、微妙に輪郭がはっきりしない。人間姿をかぶせてるのかな、と予想して、推定、スケルトンメイジ系の種族。


「まぁ、ある意味貴重な光景だったわね~」


 のほほん、と終始変わらない調子で言葉を続けるのは「第五候補」。性別女性、何をやっても様になる腰までのゴージャスな金巻き毛に丸い紫目の美貌もさる事ながら、見事なダイナマイトボディを、肌は出さず体の線をくっきり出す白いドレスに包んでいる。推定、サキュバス系の種族。


「まぁ、見せてやるつもりも記録に残るつもりも、これで一切失せましたけど」


 で。うんざりな目に遭った私は背中の中ほどまでの真っすぐな銀髪に、鏡を見た範囲では銀の目。造作的にはこの4人の中で最も大人しく、色とりどりの小さな宝石を全体に散らした銀色のイブニング風ドレスに同じく銀の長手袋、といった格好だ。


「で、実際のお披露目がいつになるかは……こうご期待?」

「はっはっは。儂より遅いという事は無かろう」

「現在地の認識って難題がまだ残ってますからねぇこっちは」

「ほんとに大変よね~」


 私だけはげんなりしながら、イベントの方で行われている開幕式の様子を眺める。この4人にもう1人加えた5人が、色々あって魔物プレイヤー専用掲示板で固有名詞を手に入れたプレイヤーだった。

 そんな会話をしている間に、広いパーティ会場に映画のスクリーンを持ち込んだような見学専用エリアの入り口が、また一際騒がしくなった。4人で何とはなしに目を見合わせ、もう1つ席を用意して、立ち上がって待つ。


「いやー、人気者は辛いであるな!!」


 そこへやってきたのは、豪快に笑う大男だった。2mオーバーの身長に分厚い筋肉を纏う、本来は仕立ての良いスーツが上げる悲鳴が聞こえそうなマッチョだ。逆立った髪は鮮やかに赤く炎のようで、私含め立って待っている4人を楽しそうに見る目は濃い黄金。肌は良く日に焼けたように黒い。


「わざと反応狙いで遅れて来たんじゃん? 「第一候補」」

「まぁ否定はせん! 野暮用があったのも確かであるがな!」

「サービスの良い事であるのー。どこぞの他称幽霊とはやはり違う」

「他称幽霊!? なんだ、その面白そうな言葉は!」

「後で覚えて置きなさい、「第二候補」……」

「なるほど! 「第三候補」か!」

「ま~ま~。とりあえず、座りましょう~」

「であるな!」


 くっははは! と。呵々大笑、という表現がぴったりな笑いをしながら、大男が席に着く。これで5人。「第二候補」にいじられるネタとして提供されたことにちょっと恨みを込めた視線を向けつつ、立っていた4人も座る。


「しかし感慨深いものであるな。こんなにも早く「魔王候補」が勢ぞろいするとは!」


 ……そう。この「~候補」という掲示板上の固有名詞は、マイナススキルの総合数によるランク付け、別名「魔王候補順位」の事だ。うん。私は上から3番目にマイナススキルが多かった、という事だ。

 見た目普通に魔人な「第一候補」は、普通過ぎてその種族が読めない。話の中でマイナススキルの数がいくらか出たが、脆弱スキルだけで7つって一体何なんだ。

 マイナススキルが多いほど、最終的な能力の高さがお化けになっていく。なのでその大器晩成の未来を背比べすることと、その難易度の高さに心折れそうな魔物プレイヤーの退路をたt……ゲフン、励ます為に、「最もマイナススキルが多いのは誰か」という話になったのだ。


「出来るだけ早く合流ったって、もうリアル数ヶ月はかかりそうな勢いだからその点は神々に感謝かな」

「じゃのう。儂もなかなか住処を出れん」

「以下同文」

「も~、拗ねちゃって~」


 で。マイナススキルが多い=最終的に強い。そしてその場が魔物プレイヤー専用スレッドという事で強さランキングとなり、それがそのまま「魔王候補」という呼び方になったのだった。

 ……個人的には魔王とかやる気皆無なので、このまま「第一候補」には頑張って欲しい所だったりする。

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