第8話 1枚目:イベント準備

 8月14日の昼12時。ログインすると、いつもの手順の手前で落下する感覚が止まった。周りを見ると、どうやら最初の設定をした時と同じ、クッションかマシュマロが地平線までみっしり転がっている場所のようだ。ぼふんっ、と身体が沈み込みそうになる。

 ここだと種族を設定する前のデフォルトアバター姿(現実準拠)なので、普通に手も足も存在するし呼吸も出来る。……普段の現実からの乖離っぷりが酷いな、こうやって事実を並べると……。

 まぁでもここに来たって事は、としばらく待っていると、半透明な画面のような板が正面に現れた。


『お久しぶりです、ルミル様。再び“ナヴィ”こと、ナヴィティリアが補佐をさせて頂きます』

「お久しぶりです、ナヴィティリアさん。例の女神に思い切りクレームをつけてやりたくなりましたが、一応元気でやってます」

『元気でしたら何よりです』


 左右に妖精のような羽のついた画面のような姿は、もちろんボックス様の眷属の「ナビ」さん達、その1人であるナヴィティリアさんだ。どうやら初回と同じ人(?)が担当してくれるらしい。


『それでは確認ですが、ルミル様は闘技大会に参加されますか?』

「参加はしません。現地に移動できないので」

『分かりました。それでは、見学専用エリアでのみの観戦となりますが宜しいですか?』

「はい。そちらでお願いします」


 もちろん迷う事なんてない。下手すれば通常空間に出ただけで死ぬ脆弱さだぞ? どうしろというんだ。それに見学専用エリアに行くことが半分目的なんだから、問題ない。


『それでは、見学専用エリアでの仮の姿の設定を行います。外部からアバターデータを読み込む方法と、現在所持しているマイナススキル及び取得が予想されるマイナススキルの全てを克服した場合の姿を算出する方法がありますが、どちらを実行しますか?』

「マイナススキル克服後の予想姿で」

『分かりました。現在のスキル構成や現在位置、ここまでの行動などから予想される種族の算出を開始します』


 という文字列を表示させた後、ころんころんと白い箱が転がっていくローディング表示になるナヴィティリアさん。そうなんだよ。あれ、ボックス様。可愛いんだよねぇ。

 そんなに待つことは無く、ころんころんと転がっていた箱が止まった。だけでなく、ぱかっと上面が開いて、パーン! とクラッカーのような花吹雪が出てくる。終わったかな。


『同程度の確率で予想される種族が複数あります。最終決定を行う為にいくつか質問させて頂いても宜しいですか?』

「はい、大丈夫です」


 と思ったら、まだ終わらないようだ。同程度の確率で予想される種族が複数。……あー。多分、今現在の種族の頭が「ノーエレメント」だから、属性を選ぶのかな?

 という予想は正しかったようで、好きな色や自然環境を聞かれた。戦闘傾向も聞かれたのはどういう事だろう。戦闘寄りや魔法寄りで分岐するんだろうか。よく分からないけど。

 とりあえずそこそこの数があった質問に、特に何も考えず思いつくままに応えると、再びのころんころん、もといローディング。


『予想される種族の算出が完了しました。それを受け、我が主からこのエリア限定の贈り物がございます』

「はい!? ボックス様から!?」

『はい。予想される姿の場合、その装備はデフォルトだと初期装備です。ですが、ルミル様を始め信仰すると明言されている神が居る方には、それぞれの神から効果なし装備が贈られます。受け取られますか?』

「それはもちろん! ボックス様、ありがとうございます!」


 装備はどうなるんだろうなーと思ってたら、流石ボックス様、優しい! ……まぁ、信仰を明言するのが条件だから、魔物プレイヤーへの救済策だろうけど。

 マイナススキルを克服した後は大体強キャラになってる筈で、姿も当然格好良かったり美人だったりの筈だ。それが、初期装備はその、うん。ちょっと。ねぇ? 初期装備って、実に初期装備だから。

 まぁそれでも見たいから観戦専用エリアには行くんだけど。それがこんな形で解消されるとは。ボックス様最高か? 最高だったそうだった。

 もちろん即答で受け取ると答えると、ぽん! という感じで毎度おなじみの白い立方体、ボックス様の分体が目の前に現れた。……目の書いてないサイコロにも見えるなぁ。とか思いながら両手を伸ばして受け取ると、ぱちん、と光を散らして消えてしまった。


『受け取りを確認しました。それでは、ルミル様。イベントをお楽しみください』


 エリア限定だから自動的に装備された状態になるのかな。とか思っていると、いつもの強い眠気に似た眩暈。イベント見学専用エリアへ転送されるようだ。

 さーて、私がこうだったって事は、他の人にも同じような対応がされてる可能性が高いって事だ。掲示板の人(魔物プレイヤー)達はどんな姿で来るのかなー。

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