第231話 迷路館の戦い『双子のカストール』
「おまえがジン……だな? 新しくSランクの冒険者に認定された『ルネサンス』のリーダーか……。噂は聞いている。」
カストールが口を開いた。
ふわりとその金髪をなびかせ、爽やかに笑顔を携えて、話しかけてきた。
「へえ? オレを知っているのか?」
「ふん……。すべての冒険者や軍人の噂を俺の母は把握していいる。」
「お母さん……!?」
「知らぬのか? 俺の母はかの有名な魔女レダだ。」
「レダ……。そうか……。この『トゥオネラ』の白鳥は、レダの魔法だったのか!?」
そう……。
たしかレダはギリシャ神話で白鳥座の元になった女性だ。
夏の終わりから秋にかけての宵にほとんど頭上に見える星座で、七夕(たなばた)の織女星ベガと牽牛(けんぎゅう)星アルタイルの間を流れる天の川の北の部分に位置し、明るい5個の星が大きな十字形をつくる。
南天の南十字に対し、北十字とよばれることもあるこの白鳥はギリシア神話では、大神ゼウスがスパルタ王ティンダレオスの妃レダを見そめ、彼女に会いに行ったときに化身した姿などとされている。
「ジンとやら! おまえは短期間にいろいろな功績をあげて、すごいんだな?」
「なんだ……? それがどうしたんだ?」
「ふーん……。サファラ砂漠から来たと言うが、いったい出身はどこなんだ? 『エルフ国』や『海王国』でもましてや、『法国』や『帝国』でもない。小国の『コルヌアイユ』でもなさそうだ……。うーむ。俺はおまえの出身が気になるぞ?」
「戦うんじゃあないのか? オレの出身なんかどこだっていいだろ?」
「ふむふむ……。ますます怪しいな? 職業クラスが『魔法使い』なんだってな? それにしては今のおまえからは魔力をまったく感じないぞ?」
「そ……、それは……。」
ここで見かねたアイが答えてくれた。
「マスターは隠蔽のスキルを持っておられるのですよ? あなた程度の実力でマスターの真の実力は測ることなど到底できません。」
「ほお? おまえは……、『ルネサンス』のパーティーメンバーの賢者のアイ……だな? おまえからも魔力を感じないぞ? 賢者とはレアな職業だが、果たしておまえたちに本当に実力があるのか……? はなはだ疑問だなぁ? 実に興味深い……。」
「それに……、今はそんなことは関係ないでしょう!?」
「おお……! こわいねぇ……。きれいな顔が台無しになるぜ?」
カストールは好奇心旺盛なタイプらしい。
そういえば、双子座の基本的な性格としてよくあがるのが、とにかく好奇心旺盛なところだったな。
色々な事に興味を持ち、気になったらすぐに情報を集めてみる行動力もある。
さらに、 ノリがよく明るいので、友人に誘われた事や勧められた事にもすぐに乗っかる傾向がある。
流行にも敏感で、とりあえずトライしてみる性格というが……。
「まあ、俺はポルックスと違い、母の言うことに乗っかったクチだからな。こうして強敵と相対することができて、ワクワクしているぞ?」
「カストール……。本当に双子座の性格そのまんまで笑っちゃうくらいだわ……。」
「へえ? 俺が双子だということを知っているのか……。面白い! 実に面白い! パパパパパパパーパー♪」
「ガリレオかよ!?」
なんだかノリの良い性格してるなぁ……。
カストールがその腰に下げた剣を抜いた。
「俺の剣は『ジェミニの連星剣』だ。この刀身は実体が2つあり、亜空間とつながり、この2本の刀身が互いに絡み合う……、ゆえにその剣筋の予測は不可能……。」
「な……、なるほどな……。」
さっぱり意味がわからない……。
(マスター! おそらくは、実体の刀身が2本あり、それが亜空間と実世界を振動して連星となって実在しているのかと推測されます!)
(つ……、つまり?)
(刀身が2本ありますが、実世界では1本で交互に亜空間と位相しているのかと……。)
(……と、いうと?)
(超高速で振動して1本に見えているようなものです。)
(なるほどな。わ……、わかっていたけどな? 確認な。念の為にな?)
(イエス! マスター! 当然ですわ。)
オレもアダマンタイトソードを構える。
「ほお? 魔法使いのおまえが、剣を構える……か……。こいつは面白い……。実に興味深い……。パパパパパパパパー♪」
「いや、それ、もういいから!!」
それにしても、このカストールのノリ……、敵にしてはやりにくい……。
明るい敵……って、本当にやりにくい。
本当に戦う理由があるのか?
このカストールって……。
今は相対する立場だけど、話せばわかるのではないか
「マスターはお下がりください。ワタクシめにおまかせを……。」
アイがそんなオレの気持ちを察してか、前に進み出た。
「アイ! それは……。」
「マスターはお優しすぎるのです。ワタクシがこの者からマスターをお守りします。」
「ほお? けなげだな。アイとやら。自らの主人のために身体を張る……か。だが!」
カストールが『ジェミニの連星剣』を構え、瞬時に距離を詰めてきた!
「ジェミニ・ツイン・ソードォォオオオオーーッ!!」
カストールの斬りつけた剣撃が二重に揺らいで見えた!
二つの剣撃の分離角は約2秒角から約7秒角まで離れたところにあった。
アイは双子座のアルファ星のカストールからそれを予測していたようだ。
「その動きは予測済みですわ。」
アイが微動だにせず、超ナノテクマシンのシールドを張り、それを受け流した。
「そうかぁあああーーーっ!! これも予測できるかぁああっ!!」
カストールがそこからさらに加えて、連撃が亜空間の実験の刀身と相まって、4連撃へと変化させる!
さらに、その初撃の4連撃から72秒角離れた位置から、この4重連撃と同じ視差と固有運動を持つ亜空間の不可視の一撃を繰り出したのだ!
すなわちカストールは亜空間を含めた重力的に縛られた6重連撃を、時間の狂いなく繰り出してきたのだ!
「こ……、これは!?」
オレのいる位置にも同時に襲いかかってきた剣撃を、間一髪、オレは光速思念によって、見極めて回避する。
「くっ……! 計算では計測不可能なその動き……。どういうことかしら……?」
アイの着ている『猫ミミク様』のセーラー服とブレザーをミックスしたようなデザインの服が、切り裂かれたのだ……!
そんな……!?
初めてじゃあないだろうか……?
アイが予測を誤り、攻撃を受けただなんて……。
「どうだ!? 驚いたか? 俺の「2つの腕(またはキュビット)のうち前にあるもの」の剣を見切ったものはいまだ誰一人としておらん!!」
カストールがさっきまでの様子とはまったく違い、得意げに叫んだ。
「アイ!? 大丈夫か!?」
「ええ。マスター。ワタクシは……、問題ございません。ですが……。」
「ですが?」
アイがわなわなと身体を小刻みに震わせている。
「こぉの……、ドグ●レがぁあああああああああーーーっ!! よくも……! よくも……! マスターのデザインされた至高の服に傷をつけてくれたなぁあああーーーっ!?」
アイがブチ切れた……。
そこ? キレるポイントって……。
「カストール! あなたは決して許されざることをしてしまいました……。」
「ふっふふ……。そんな服くらいで何を言ってるんだ? 戦いの最中だぞ!?」
カストールが呆れ顔で、また『ジェミニの連星剣』を構えた。
アイが目をくるくるさせて、周りを見回すと、カストールに向かって、超ナノテクマシンの巨大な手を振りかぶった。
あ、手加減なしってやつだわ……、これ。
~続く~
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あっちゅまん
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