第191話 吸血鬼殲滅戦・離『最大聖奥義』


 突然、目の前の空間から飛び出してきた、頭部にある大きな花が開いたかのようなデカい口の中で、異常に長い舌がうごめいているのの化け物が現れたことに、ヘルシングさんの反応は速かった!


 「聖(セント)・ルシアァーーッ!!」


 ヘルシングさんの目にも止まらぬ剣がクロス十字に一瞬で、デモ子を斬りつけたのだ。






 「あ! ヘルシングさんっ! アイツは見た目こそ化け物ですが、味方なんです!!」


 「何だって!? あー、すまん……。こいつは殺っちまったか……?」




 デモ子の身体は左肩口から縦に心臓部を貫き、またそれと同時に、胸部を真横に十文字に切断されていた。


 おいおい……。


 戦闘態勢バリバリのオレたちの目の前に、急に現れるヤツがいるかっての!


 ああ、死んだな……。デモ子。


 まあ、いいけど。






 「ちょっと待って下さいよぉっ!!」



 デモ子は身体が4つに分断され、かつ心臓部を見事に十字に斬られた……はずなのに、声を発した。


 しかも、第一声が文句?


 でも、オレは一瞬、そのセリフを懐かしいあの声優さんのモノマネかと思って、笑いがこみ上げて来てしまったんだ。




 「ぷっ……! あっはっは! デモ子! なんでヘルシングさんに斬られて生きてるんだよ!?」


 「大ボス・ジン様! いえ、あたしはこの世界に存在すると同時に、異界にも存在するアストラルボディなんですよ。だから斬られたくらいじゃあ死にませんよ?」


 「ふん! デモ子! マスターにその口の利き方に気をつけなさい! 滅しますよ?」


 「きっ……ちゃあぁぁああああーーーってますって!? やめてくださいってばっ!!」



 デモ子がなぜか悶え出した。


 やはり、少し嬉しそうだな……。




 「ジン殿……。君は面白い化け物を飼っているんだな……。」


 「あはは……。ヘルシングさん。そうなんです。こいつはアイのペットなんですよ。だから味方ですので、ご心配なく……。」


 「うむ。それならいいが、オレの剣技が通用しないとは、恐るべき化け物だな……。それをペットにしているアイ殿……。やはり只者ではないな。」


 「ヤダ……。ヘルシングさん。誤解しないでくださいますか? 契約で縛っているだけですわ? こんな化け物、ワタクシの趣味だと思われては困りますわ!」


 「そうか……。それはすまない。」




 デモ子は身体を元通りにくっつけ、少し上下左右にずれた身体を、トントンと自身の両手で修正し、完全に元の姿に戻った。


 「でも、ちょっとは心配してくれてもよくなーい?」



 デモ子はブツブツと文句を言っていた。


 まあ、そうだな。ちょっとかわいそうだったかな……。


 でもあの日本の懐かしいあの声優さんのモノマネを思い出させてくれたことに、オレはデモ子を少しだけ愛おしく感じたのだった。




 そして、オレたちはデモ子を含め、今一度、『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』を見た。


 6つ首の『餓者髑髏・山御子龍(ズメイ・ゴルイニチ)型』の最大進化形態は、こちらにようやく反応を見せた。


 恐らくはヘルシングさん、そして、今現れたデモ子に反応しているのだろう。




 (マスター! やはり『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』は『魔力』に反応を示すと推測致します!)


 (そうか! 魔力ならヘルシングさんに反応するのも当然か……。あれ? でもでもさ、デモ子にも反応しているようだよ? あ! 今のシャレじゃあないからね!?)


 (ふーむ。それは妙ですよね……。デモ子! あなた、今日、何か食べたんじゃあないかしら?)


 (いえ! アイ様にいただいたマツサカウシを食しただけですって!)



 一瞬の沈黙が訪れた。




 いや、もともとが思念通信の会話だったので、ずっと沈黙ではあるのだけど……。



 「ア・ナ・タ……。少しでもワタクシに嘘がまかり通るとでも、お思いなの? そぉんなに知能指数の低いおバカさんなのかしら……? そんな役に立たない物はいらないわねぇ……!?」


 アイが声にはっきりと出して、デモ子に語りかけた。




 デモ子は、汗びっしょりになり、その顔の表情はまさに死人のごとく、蒼白になっていた。


 まあ、オレはそんなデモ子に対して、汗腺(汗の出る毛穴)があるんだなぁ……とか、顔色も普通に変わるんだなぁ……とか思ったりしていた。


 さっきのモノマネ、似てたなぁとかね。


 ああ、アニメはいいなぁ。早くこの世界に復活させなければな!


 デモ子にはちょっとだけ、親しみが湧いたわ。




 「はい! も……! 申し訳ございませんです!! ここに来る途中で、ちょっと腹が減ったので、空を飛んでいる魚がいたものですから、あ! それも偶然ですよ? たまたま口に飛び込んできたのを数百匹くらい、食べちゃったのでした! いえ! 事故です! これは単なる接触事故です! 食事と思われては困りますよー! もぉ! アイ様ったら! 意地悪だなぁ……。あはははははは……。」


 うん。嘘を付く人の典型のように、デモ子はあることないこと、まあ、ペラペラ喋りだした。


 あ、アイがまた嘘だと見抜いてるみたいだ。


 うわぁ、単純明快、単純なる冥界送りにしそうな勢いだぁ……。




 アイは表情をまったく変えずに一瞬動き出そうとした。


 「デモ子……。今回は見逃して差し上げますわ。マスターがこんなに楽しそうにされたのが、お久しぶりなものですから! それに免じて、許しましょう!」


 「ええ!? 本当ですか? た、助かったわーっ! 神さま、仏さま、ジン様! そのお優しさに感謝しますぅ!! ジン様! ばんざぁーい! ばんざぁーっいっ!」


 「お……、おぅ……。」



 何がなんだか知らないが、アイはデモ子を許したようだ。




 「じゃあ! ジン殿! 手はず通り、オレの奥義をヤツにぶつける! アイ殿! その後の策はお任せする!」


 そう言って、ヘルシングさんが魔力を高めだした。


 「いかなる魔をも祓うという……、聖なる魔力増幅の最上級呪文『アベマリア』!!」


 『 Ave Maria! Jungfrau mild, Erhöre einer Jungfrau Flehen, Aus diesem Felsen starr und wild Soll mein Gebet zu dir hinwehen. Wir schlafen sicher bis zum Morgen, Ob Menschen noch so grausam sind. O Jungfrau, sieh der Jungfrau Sorgen, O Mutter, hör ein bittend Kind! 』


 『Ave Maria!!』




 うおおお!!


 ヘルシングさんに聖なる魔力が全集中……、あ、ついオレの好きなアニメの言葉で例えてしまったが、魔力が見えないはずのオレにも分かる圧倒的ななんだか神々しいエネルギーの集中と高まりがヘルシングさんに見て取れた。


 「ヘルシングさん! ヤツの動きを一瞬でもいいです! 止めてください!」


 アイがヘルシングさんに声をかけた。




 アイ……。大丈夫だろうね?


 さっき、ヘルシングさんは最大奥義を出すと言っていたけれど、オレとアイにも最大の攻撃をぶつけて三位一体での攻撃をしようと言っていたのでは……?


 オレにアイツに効果がありそうなことなんてできやしないんですけどぉおおおおおっ!!




 (マスター! ご安心召されてください。アイの戦略に誤差は0.00000000023%しかございません! タイタニック号でも乗った気分でいてください!)


 (いや……。アイ……。タイタニック号って沈んだんですけど……!?)


 (ああ。もお! じゃあ、クイーン・エリザベス777号にでも乗った気分でいてください!)


 (その、777は何!?)


 (あら? ご存知ではないですか? ラッキーナンバーですよ!?)


 (いや! スロットかぁーーーっい!!)




 ヘルシングさんがその大剣を軽々と構えた。


 『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』が、その呪詛を撒き散らしながら、また周りの大気ごと、いや、空間ごと吸い込もうとしているかのように吸引力を最大限に拡張してきたのだ!


 「重力魔法……『オーチィ・チョールヌィエ(黒い瞳)』!!」


 『オーチィ チョールヌィエ、オーチィ ストラースヌィエ! Очи чёрные, очи страстные! オーチィ ジグゥーチィエ イ プリィクラースヌィエ! Очи жгучие и прекрасные!

カーク リュブリュー ィヤ ヴァース!カーク バィユース ィヤ ヴァース! Как люблю я вас! Как боюсь я вас! ズナーチ、ウヴィーヂェル ヴァース ィヤ ヴ・ニェドーブルィ チャース! Знать, увидел вас я в недобрый час! 』





 重力魔法だって……!?


 まだ重力波についてはオレの元世界では完全に解明はできなかったはず……!



 (マスター! 重力波を利用する技術は確立しております! ですが、こんな一瞬で何の機器も使わずに利用できるのは……。)


 (やはり『魔力』のなせる技……か?)


 (イエス! マスター!)




 やべぇな……。


 そう思ったとき-。


 ヘルシングさんがその構えを解き放った……!




~続く~


©「アベマリア」(曲:シューベルト/詞:アダム・シュトルク(Adam Storck, 1780年~1822年))

©「黒い瞳」(作詞:Е.П.グリビョーンカ/作曲:Ф.ヘルマン/1884年成立)


※「ちょっと待って下さいよぉ!」とは、声優の森久保祥太郎さんのモノマネでよく使われるセリフですw






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