第190話 吸血鬼殲滅戦・離『ヤツが来た!』
アテナさんたちのパーティー、正式名は聖女騎士と使徒たち『ミネルヴァ・騎士団(ナイツ)』というのを後で知ったのだが、そのアテナさんたちが邪悪な三頭龍『チュドー・ユドー』と対峙している。
『ミネルヴァ騎士団』の騎士たちは数十万の騎士が所属しているが、その中でパーティーとして常にアテナさんと行動をともにしているのは、グラウコーピスさん、ニーケさん、エリクトニオスさんの三名だ。
だが、実は陰ながら常にアテナさんをつかず離れずを保ち、さながら昔の日本の忍者のように、オレのいた時代のシークレットサービスのように守護している影の『聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)』の一人、笛・フルートを持ち、髪に黄金のリボンをつけた美しい女性、エウテルペーが、抒情詩を詠んでいた。
それは、かの『ジュラシック・シティ』のディノサウロイド凶暴種『十の災い』の1竜であるシアッツが使った呪文、レベル6の空間魔法、敵に不利な天候に変更する天候呪文『ドニェープルの嵐』であった。
『怒濤さかまくドニェープル大河、風すさびあれくるい、巨(おお)き柳地にねじふせ、黒い河波うねる! 巨(おお)き柳地にねじふせ、黒い河波うねる!』
エウテルペーさんが呪文を陰ながら唱えると、周囲一帯の黒雲は去り、太陽が姿を現し、まさにすこぶる快晴の天候と変わっていくのだった。
以前、シアッツが使用した際は、ヤツラ闇の眷属に有利で、オレたちにとって不利な天候へと変更させられて苦しめられたが、今回はその反対なのだ。
ヤツラの最も嫌う陽光がさんさんと輝く、日の光があまねく照らされる聖なる朝を迎えたかのようであった。
だが、ヤツラはオレのいた旧世界の伝説の吸血鬼とは違い、陽の光は夜行性が故に嫌っていて苦手とはするものの、弱点とまでは言えない。
オレの大好きだった『奇妙な聖典』に出てきた『柱の超人』の首領(ドン)と同じく、太陽を克服しているのだ。
しかしながら、その陽光の中で最大のチカラを使えはしない。
苦手ということに変わりはないのだから……。
「あれ? どうして急に晴れ渡ったんだ?」
と、オレが疑問に思ったところ、アイが上記の状況を説明してくれたってわけだ。
すでに、アイの索敵範囲はこの『チチェン・イッツァ』を中心に、半径1ドラゴンボイス(約1600km)にまで達し、その範囲の中であれば『プラネタリウム・サテライトシステム』で、立体映像化することも可能になっていたのだ。
「イエス! マスター! ここはワタクシたちは、あの本体『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』をなんとか致しましょう!」
……って、アイよ……。
アテナさんやクー・フーリンさん、ヘルシングさんたちと協力して攻撃しても、勝てるかどうかわからないのに、アレにオレたちだけで挑もうっていうのは無理ゲーじゃあないか?
(マスター! ご安心くださいませ。アイの演算に狂いは0.000000000001%もございません。)
(そ……、それほどの自信があるなら、任せて安心、セ◯ムだな!?)
(ヤダ……! マスターったら、シモネタを……。)
(いや、シモネタじゃあないぞ!? セ……セ……、ま、まぁいいだろう。それより、やるぞ!)
(お任せあれ!)
地上に降り立った『餓者髑髏』の分体のひとつ三つ首の『チュドー=ユドー』にはアテナさんのパーティーがその正面に立ちふさがってくれている。
同じく、地上に降りてきた竜人の龍骨騎士『トゥガーリン・ズメエヴィチ』、その前にはクー・フーリン率いるSランク冒険者パーティー『クランの猛犬』が立ちふさがった。
そして、無数の生み出された毒蛇『ツモク』の大群にはコタンコロ、ヒルコ、イシカとホノリ、さらにはジョナサンさんとミナさん、ククルカンさんとその配下の軍、バラムさんやヤム・カァシュさんたち……、みんな総出で守りに当たってくれている。
そして、ここから離れた北の地では、サルガタナスさんたちが『ジュラシック・シティ』からの恐竜騎兵隊『ディノ・ドラグーン』を抑えてくれているということだ。
最凶のディノサウロイド凶暴種『十の災い』も複数名、確認されいるが、なんなくせき止めてくれているどころか、追い払っちゃってくれているらしい……。
万全の防衛体制が整っている状況といえるし、あの本体『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』を倒す絶好のタイミングではあることに間違いないだろう!
そして、オレたちは今、そのヤツを討つべく、空の上にいるヤツに向かって行っているわけなのだが……。
オレとアイとヘルシングさんの三名で、あの上空で極悪にも悠然と佇む『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』をやっつける、いや、止める、いや……、時間稼ぎをするのか?
……うーむ……、そもそもアレ……、倒せるの?
いや、本当にどうやるんだ?
アイに作戦があるらしいが……。
はるか上空で悠然と浮遊している『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』へと、近づきつつあった……。
またあの青い眼のレーザービームのような魔法『青い眼の人形』がいつ来るかわからないので、最大限に警戒しながら……で。
だが、それだけではなく、アイツを何としてでも消滅させなければ、どんどん勢力と魔力、呪詛、その支配領域を拡大し続け、世界は滅んでしまうだろう。
旧世界から数えると、何度目かの滅亡……なのかもしれないがな。
ヤツは常に成長し続けている。
そうこのたった今もだ……。
まるでブラックホールが周囲の惑星や、恒星をどんどん飲み込んで成長するかのように……。
「ジン殿! いよいよヤツの魔力吸引の支配領域に達するぞ!?」
「ヘルシングさん! ははは……。オレの出番がなく、ヘルシングさんが倒しちゃってもいいですよ?」
超ナノテクマシンで『空中散歩』して、ヤツの制空圏、いや支配領域のすぐ間近まで接近しているらしい……。
そうなんです、はい。オレには魔力はまったく感知できないのだ。
オレのいた旧世界になかった物質? エネルギー? もしくは未知のチカラ?
いずれにせよ、アイの超科学力でさえ、いまだ解明不可、未知のエネルギーなんだから……。
「はっはっは! ジン殿は相変わらず謙虚だな? オレはジン殿を頼りにしてるぜ!」
「まぁ!? ヘルシング様! その通りでございますよ! マスターがあんなヤツはさっさと封じてしまいますわっ!」
なぜかドヤ顔するアイ……。
美人がドヤ顔って、なんだかセレブのお嬢様が久々に下々の民の街へ買い物に出かけてきたかのように見えるな……。
いや、まあ、オレはそんなアイと超ナノテクマシンがいなけりゃ、ふっつぅーーーーーーっの人間でしかないんだよなぁ。
「ジン殿! オレはここからオレの最大の聖奥義『サン・トメ・プリンシペ』をぶつける! ジン殿! アイ殿も強力な攻撃を三位一体でぶつけてみてくれ!」
「そ……、そうですね! やるしかないですよねぇ……。」
「ヘルシング様! マスター! ちょうどアイツが間に合ったようですわ(ニコリ)!?」
アイはオレたちを見て、またしても優しく恐ろしくもあり哀しげに微笑んだのであったー。
すると突然、目の前の何もない空間に、次元の裂け目のような空間の切れ目が出現し、中から見覚えのあるヤツが出てきたのだ!
「シャァアアアアーーー!!」」
(こんな緊急で呼び出されてしかもラスボス級に強そうなアレと殺り合おうってんだから……。プ、プレッ……シャァアアアアーーー!!)
そう、デモゴルゴンとかいう異界の種族の生き残りらしい、デモ子だったー。
アイのペットらしいけど、正直可愛くないし、趣味が悪いと思う。
まあ、ヒトサマの好みに文句は言えないけどね?
~続く~
©「ドニェープルの嵐」(作詞:タラス・シェフチェンコ/作曲:ウクライナ民謡/訳詞:関 鑑子)
©「青い眼の人形」(曲/本居長世 詞/野口雨情)
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