第189話 吸血鬼殲滅戦・離『三つの下僕・集結』
無数の生み出された毒蛇『ツモク』の大群が『チチェン・イッツァ』の街へ飛来し、街の中の住民にまで襲いかかってきていた。
外から向かってくる『ツモク』の数が、異常に多すぎて、街の防衛を固めていた『ククルカンの蜥蜴軍』や、ヤム・カァシュの魔術弓隊だけでは、地上からくる蛇どもに対応するので税いっぱいだったのだ。
ただ、『チチェン・イッツァ』の街の中の防衛に務めていたククルカンさんとその配下ジャガーのバラム将軍率いる護衛軍がなんとか対処しようとしていた。
だが、いかんせん数の有利というものは敵側、『ツモク』にあり、『チチェン・イッツァ』は非常に厳しい状態に追い込まれていたのだった。
地上から這い寄る毒蛇『ツモク』どもに関しても、あまりにも数が多く、イシカやホノリ、ジョナサンさんやミナさんたちだけではとても捌ききれず、かといって、『ククルカンの蜥蜴軍』や、ヤム・カァシュの魔術弓隊では、なんとか食い止めるだけでも精一杯で、今にも城壁を突破されようとしていた。
『ツモク』に対抗できているのは、両腕がまだ不完全なイシカと、片足が吹っ飛んでしまったホノリ、ずっと剣をふるい続けているジョナサンさんとミナさんぐらいであった。
ここもジリ貧と言えばジリ貧状況にあるのだった。
「ホノリ! なんとかジン様の負担を減らすのであるゾ!」
「ああ! イシカ! ジン様に心配かけちゃダメなのだ!」
「「アイ様! こちらは任せるである! のだ!」」
「ジョナサン! 妻のあたしに体力、負けてんじゃあないわよっ!?」
「あっはっはっ! ミナ! さすがは僕の愛しい妻だ! 僕はまだまだイケるよっ!?」
「「ふふふ……!」」
相変わらず仲のよろしいことで……。
すると、はるか遠い上空から、なにか巨大な鳥の影が見えた。
その鳥は真っ白なフクロウで、その背中から二人の人影が『チチェン・イッツァ』の街に飛び降りてきたのだ。
そして、そのフクロウはというと、その翼を大きく羽ばたかせ、空から飛来し襲いかかってきていた『ツモク』どもを吹き飛ばしたのだった。
そのフクロウはさらに降下してきて、こう叫んだ。
「我がご主人さま! コタンコロ! ただいま参上致しましたぁーっ!」
そう、オレの可愛い下僕、コタンコロだったのだ。
さらに飛び降りた二人の人影のうち一人はメイド姿の水色の髪の可愛い少女で、もう一人は美しいドレスをまとった大蛇の口の中に美人の女性の顔がのぞかせている女性……、いや、そのスカートがまくれあがり、男のシンボルが見えてしまっている女王(?)、ウシュマル・クィーンだった。
「ジン様ぁあああーーーっ! 僕も『ウシュマル』を調査して、女王を連れてきましたよー! やりましたよー!」
そう、それは『ウシュマル』に潜入調査に出ていたヒルコだったのだ。
そのまま、地上に落下したらウシュマル・クィーンが大怪我、あるいは死んでしまうのでは? ……っと一瞬、心配したが、ヒルコが落下の途中で粘体の身体に戻り、ウシュマル/クィーンを優しく包み込み、地上にポヨンポヨンっと降りる下りることができたのだ。
まあ、ヒルコは粘菌の超進化系だから、あれくらいのことは何でもないのだろう。
「コタンコロ! ヒルコ! よく来てくれたっ!! 『チチェン・イッツァ』の街を守ってくれぇ!!」
オレはコタンコロとヒルコにそう指示を出した。
「はぁーい! ジン様ぁ! わかったよー!」
「承知致しました! ご主人さま! 我がこやつらを吹き飛ばしてみせましょう!!」
ヒルコとコタンコロは快く引受てけてくれた。
彼らはオレのことを御主人様と思ってくれているのだろうが、オレにとっては可愛いペットたちであり、家族同然なのだ。
十分に気をつけてな! 任せたぞ!
ヒルコはウシュマル・クィーンとともに、『チチェン・イッツァ』の街の中に降り立った。
ククルカンさんの配下のジャガー戦士、バラムさんがすぐに駆け寄ってきた。
「これはこれは! ウシュマルの女王様! ご無沙汰しております! ククルカン様が配下、バラムでございます! 今、この街中に恐ろしき毒蛇『ツモク』が多数、侵入してしまっております! ご注意くださいませ!」
「ああ! バラムか。久しいのぉ! だが、今の妾(わらわ)に心配は無用じゃ!」
「ええ!? しかし! 我がジャガー戦士団を護衛に何十名かおつけさせてください!」
「ええい! いらぬと言っておる! このヒルコ殿がいる限り、妾(わらわ)は安全じゃ!」
「うんっ! まっかせてね! バラムさんだっけ? 僕がウシュマル・クィーン様をお守りするよう、ジン様に指示を受けてるんだ! この女王様に指一本、いや、蛇だから牙一本、しっぽ一本触れさせないんだからねぇー!」
「は……、はぁ……。このようなメイドが? ま、まあ、ジン殿のお味方ということであれば、おまかせ致します! ですが数名だけでもお傍に控えさせてくださいませ、でなければ私としてもククルカン様になんと言われるか……!?」
「ああ、ああ! わかった、わかった! じゃあ、好きにするが良い。ヒルコ殿! よろしいか?」
「うーん。いいよー。女王様。じゃあ、そのククルカンさんところに急ごうね?」
「おお! 急ごうぞ! ヒルコ殿は可愛いのぉ!」
「女王様も可愛いですよ?」
「「うっふっふっふっ!!」」
なぜか意気投合したウシュマル・クィーン女王と、ヒルコはククルカンさんのいる『カスティージョ』を目指した。
バラムさんはその場にいた数名をお供につけさせ、自身はまた街中に侵入した『ツモク』狩りに向かうのであったー。
一方、コタンコロは、空中から大量に『チチェン・イッツァ』の街へ飛来しようとしていた『ツモク』どもをその翼の羽ばたきで大風を起こし、阻止していた。
「ウイング・ソニック・ブーム!!」
翼を羽ばたかせ、超スピードで飛空し、その衝撃波で、『ツモク』どもを吹き飛ばしたのだ。
しかもその衝撃波の影響が、街には及ばないように、正確無比にその衝撃波の起こる方向を調整しているのだ。
さすがはコタンコロ。賢人、いや、賢鳥だな。
前に『エメラルドの都』に住むオズマの法使いさんの噂を聞いたことがあったけど、慎重な賢い『脳』がほしいと言っていたが、十分賢い脳をもっているよ、コタンコロは。
****
オレたちははるか上空で悠然と浮遊している『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』から目を離さずにいた。
もちろん、またあの青い眼のレーザービームのような魔法『青い眼の人形』がいつ来るかわからないという理由もある。
だが、それだけではなく、アイツを何としてでも消滅させなければ、どんどん勢力と魔力、呪詛、その支配領域を拡大し続けるだろう。
まるでブラックホールが周囲の惑星や、恒星をどんどん飲み込んで成長するかのように……。
「ジン殿! あの空中まで行けるか?」
「ヘルシングさん。まぁ、行けると言えば行けますけど……。(超ナノテクマシンで『空中散歩』すればいいからな……。)」
「ええ。ヘルシング様? マスターに不可能はございませんわ!」
なぜか自信たっぷりのアイ。
いや、オレはアイと超ナノテクマシンに頼りっぱなしなんですけどね。
「オレは、最大の聖奥義『サン・トメ・プリンシペ』をぶつけてみる! それと合わせてジン殿、アイ殿も強力な攻撃を三位一体でぶつけてみるのが最終手段だろう!」
「そ……、そうですね! やるしかありませんね! (まあ、オレ自身にそんな超必殺技みたいなのあるわけないんだがな! えっへん(偉そう)!」
「それはいいお考えですわ! ヘルシング様。ワタクシ、アイにもひとつ秘策がございます! 必ずやヤツ……ああ、マスターをこんなに脅かしてくる※◯☆※など! 魂魄のかけらも残さず消滅させてあげましょうね!?(ニコリ)」
アイはオレたちを見て優しく微笑んだ。
しかし、オレはこの時のアイの微笑みほど、恐ろしくもあり哀しげな笑みを見たことがなかったのだったー。
~続く~
©「青い眼の人形」(曲/本居長世 詞/野口雨情)
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