第184話 吸血鬼殲滅戦・離『青ひげ男爵の本気』


 青ひげ男爵は、高らかに笑った。


 「はーっはっはぁ! どうだ!? 今から貴様らはかわすことも出来ずに一瞬で死ぬのだっ!」



 城がゆっくりと地面に下り立った。


 アイもコントロールの精度はさすがとしか言えないな。


 ヘルシングさんも魔女シルヴィアを斬って捨てた後、すぐにオレたちのところまで後退してきていた。


 さすが、機を見るに敏という行動を取っている。




 「ジン殿。オレの必殺剣でなんとか切り抜けよう! 防御に徹してくれ!」


 ヘルシングさんも魔力を高める。


 「闇を払う呪文『聖者の行進』、波動拡大!」


 『Oh when the saints,Go marchin' in,Oh when the saints go marchin' in.I want to be in that number, when the saints go marchin' in.』




 闇魔法の効果を打ち消し、自身の魔力も高める。


 魔力増幅呪文『アメージング・グレイス』だ。


 これは以前にもヘルシングさんが使っていたので、オレにもわかった。


 『驚くべき恵み(なんと甘美な響きよ)私のように悲惨な者を救って下さった。かつては迷ったが、今は見つけられ、かつては盲目であったが、今は見える。』




 ヘルシングさんの魔力がほとばしるほど輝いて見えた。


 魔力が見えないオレに見えるということは、何か他のエネルギーに変換されたものが感知されるってことだな。


 ヘルシングさん……、本気だな。




 青ひげ男爵が、その眼だけでなく全身からその魔力の青い輝きを見せた。


 「余の『青い眼の人形』の無限乱射だっ! かわす場所などないぞ! 滅せよ!」


 『青い眼をしたお人形は、アメリカ生まれのセルロイド。日本の港に着いたとき、一杯涙を浮かべてた。私は言葉が分からない、迷子になったら何としょう! 優しい日本の嬢ちゃんよ! 仲良く遊んでやっとくれ! 仲良く遊んでやっとくれ!』


 『仲良く遊んでやっとくれ!』


 『仲良く遊んでやっとくれ!』




 オレにはただただ、青い爆弾が爆発したかのようにしか見えなかった。


 全方位の青い魔力光線が瞬間的に発せられたということか……。


 ああ、今、こうやって考えられているのは、アイの例の光速思念通信か……?


 (イエス! マスター! ですが、ここはヘルシングさんを信じましょう。)


 (ああ。見ていたら、わかる。ヘルシングさんの動きが、今のオレにも完全に見えない……。光速に近い動きじゃあないか!?)




 「聖(セント)・クリストファー・ネイビス!!」


 ヘルシングさんの魔力を込めた大剣が、球状に無数に数十回、いや数百回、剣閃が飛ぶ。


 青ひげ男爵の無数の光線をすべて弾き返したのだ!


 周囲の壁に反射された光線が飛んでいき、無数の穴が空いた。


 だが、オレたちのほうへは全然、光線は飛んでこなかったのだ。




 いや……、ヘルシングさん、光速にも匹敵する動きかよ!


 やべぇな。さすがSランク冒険者だ!


 オレみたいなエセSランクとは違う本物ということだな。




 「ぬぅ……。さすがは、我が吸血鬼の天敵とまで呼ばれるヴァン・ヘルシングか……。だが、防御に徹していては勝てるはずもないぞ? 余の魔力は無限である!」


 「ほお? 無限の魔力の化け物など………、聞いたことがないがな? ハッタリはよせ。魔力が減少しているのは一目瞭然だ!」



 青ひげ男爵とヘルシングさんの熾烈な戦いは続く。


 ああ、オレってまた見てるだけなのか……。


 さっき、思いついたアレを試してみたい気もするんだけどな。




 「ヘルシングさん! ちょっと試したいことがあるんです! いったん下がってもらえませんか!?」


 「なるほど! あいわかった! ジン殿!」


 いったん下がってくれたヘルシングさん。


 実はその間にも、オレは準備をしていた。


 周囲の超ナノテクマシンで、青ひげ男爵の周囲を球体のように覆い尽くしている。




 青ひげ男爵は超ナノテクマシンに気がついていないようだ。


 まあ、魔力のこもった物なら感づいていたかもしれない。


 だが、超ナノテクマシンに魔力は一切働いていない。


 当たり前だけど、科学力の結晶なのだからな。




 「うぬら……。よくぞ、ここまで余の相手をできたものだ。ほめてつかわそう! だが、いつまでも『青い眼の人形』の無限乱射を止められるかな? 今度はさきほどの倍、いやどこも死角がないように、全方位でおまえらが死ぬまで撃ち続けてやる。余の魔力をなめるなよ?」


 青ひげ男爵がこのまま絶えず撃ち続けられたら、たしかにヤツを倒すことは出来ず、いずれこちらの防御を打ち抜き、オレたちはやられてしまうだろう。


 なんと言っても、青ひげ男爵は不死身の化け物、吸血鬼なのだ。


 無限の体力、無限の生命力、無限の魔力を持っている。


 たとえ、一時的に魔力が減ったとて、すぐに回復してくる魔物なのだ。




 「じゃあ、うぬらの顔も見飽きた! 死ぬがよい! 永劫に生きる余の記憶に留めておいてやっても良いぞ!」


 青ひげ男爵が、ふたたびその全身を魔力で青く輝かせる!


 まるで、チェレンコフ放射光のように死を意味する青い光がこの王座の間の全方位に発射された。


 『青い眼をしたお人形は、アメリカ生まれのセルロイド。日本の港に着いたとき、一杯涙を浮かべてた。私は言葉が分からない、迷子になったら何としょう! 優しい日本の嬢ちゃんよ! 仲良く遊んでやっとくれ! 仲良く遊んでやっとくれ!』




 だが、オレたちの目に、その青い光は届かなかった。


 まったく光り輝くことはなかったのだ。


 「いったい……? どういうことだ? ジン殿!」


 ヘルシングさんも一瞬、構えたのだが、青い光線がまったく来なかったので、拍子抜けしたようだ。




 実験は成功したようだな。


 青ひげ男爵が、その肉体をボロボロに崩れさせながら、倒れ込むのが見えた。



 「い……ったい、どういうことだ……?」


 血反吐を吐く青ひげ男爵。




 「さすがマスターですわ! こんなことを思いつくだなんて! 素晴らしい! ワタクシの愛しのマスター! やばぁ! かっこいい!」


 アイがちょっとおかしくなってしまったかのようにはしゃいでいる。




 そう、オレはミラーボールのように、超ナノテクマシンで青ひげ男爵を球体状にその周囲を包み込んだのだ。


 そして、その内部を鏡のように光線を跳ね返すようにすべてを鏡面化したというわけだ。


 アイがあの青い光線は魔力そのものを飛ばしているのではなく、魔力によって超電磁エネルギーに転換し、レーザー光線のように射っていると解析していたからだ。


 魔力そのものはまだ、わかっていない部分も多く反射させることは、難しいが、変換された光線エネルギーなら科学で対処できる。


 青ひげ男爵は自身の『青い眼の人形』の全方位放射により、全方位から反射されたその光線エネルギーを自身で受けたというわけだ。




 もちろん、死角はないと、ヤツ自身が言っていたように、跳ね返った光線にも死角はない。


 青ひげ男爵の魔核は撃ち抜かれたであろう。


 つまり、ヤツはもう死んでいる……。




 「やったな! ジン殿! 今のは魔力反射か!?」


 「あ、え……、ええ、まあ。」


 「マスターの最高の叡智があの青ひげを打ち砕いたのです! うーん! ワタクシのマスター! やはり最高の方ですわ!」




 とりあえず、青ひげ男爵はその肉体を保てなくなり、ボロボロ崩れ落ちていくのであったー。




~続く~


©「青い眼の人形」(曲/本居長世 詞/野口雨情)

©「アメイジンググレイス」(曲/アメリカ民謡 詞/ジョン・ニュートン)




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る