第185話 吸血鬼殲滅戦・離『最後のあがき』


 『人ごろし城』は静かだった。


 オレたちは、一刻も早く、『チチェン・イッツァ』の防衛に駆けつけようとしていた。


 だが、それを許さない者がいたのだ。




 「ふ……ふふ……。余はここまでのようだな……。だが、我ら吸血鬼はただでは死なん……。貴様らも道連れだ……。はっはっはっはぁ!」


 青ひげ男爵がその肉体を崩れさせながら、不敵に笑ったのだ。




 青ひげ男爵の身体から魔力がだんだん消えていく……。


 「貴様らも……、ともに道連れよ……! 魔神王よ! 余の最後の生命! 捧げようぞぉおおっ!!」


 『夜の風をきり馬で駆け行くのは誰だ? 可愛い坊や、私と一緒においで!楽しく遊ぼう!キレイな花も咲いて、黄金の衣装もたくさんある。素敵な少年よ、私と一緒においで!私の娘が君の面倒を見よう!歌や踊りも披露させよう! お前が大好きだ。可愛いその姿が。いやがるのなら、力ずくで連れて行くぞ!


 お父さん、お父さん! 魔王が僕をつかんでくるよ! 魔王が僕を苦しめる!』


 サタン・クロースが最後に使ったあの自己犠牲呪文『魔王』かっ!?





 「ジン殿! やばい! 『魔王』だ! やつめ! 自爆する気だ!」


 「はい! サタン・クロースと同じヤツですね!?」


 しかし、いったいどうすれば……。


 しかも、『チチェン・イッツァ』の街のほうには、『餓鬼魂』が今にも再生し、危機の二重奏かよ!?


 まずい! 考えろ!




 「ぐぶ……っ……、もはや、遅い! 『魔王』の呪文詠唱は完了……した……のだ。後は、余の生命力を……、すべて魔力へと変換し、この周囲すべてを……、吹き飛ばす……。」


 青ひげ男爵は、いっそういやらしく不気味に微笑んだ。


 肉体はボロボロに崩れ落ちていっているというのに、何かのものすごいエネルギーが集中し、発生していっているのが魔力を持たないオレにもわかる。


 サタン・クロースの時と同じなら、この周囲の森林も何もかも、おそらく百キロ以上四方にわたって何もなくなり、半球状にえぐり取られてしまうだろう。


 そう、跡形もなく……。




 それに、『チチェン・イッツァ』の街のほうでは『餓鬼魂』が急成長を遂げているのが、アイの視覚同調によって、オレにもわかっている。


 何でも吸い込み無限に成長していく呪いの『餓鬼魂』と、今にも超新星爆発のように大爆発しようとしている青ひげ男爵……。


 いったい、どうしたらいいんだ……!?




 「ジン殿。いちかばちか、オレの結界呪文と防御結界の剣技の合わせ技で、なんとか耐え抜くことに賭けてみよう!」


 ヘルシングさんも緊迫した表情でこう言ってくれた。


 だが、やはりその表情は極めて厳しい顔をしている。


 オレたちもそれに合わせて防御を集中させるしかないだろう!


 ええーい! 超ナノテクマシンよ!


 今こそ、オレたちを守るために結集してくれ……!




 と、オレがそう念じようとした瞬間、アイがスタスタと前に向かって歩いていく。


 「え……? アイ!? 危ないっ! 下がれ! 例のあの超爆発が起きるぞ!」


 オレは思わず叫んだ!




 アイはそれでも止まらず、青ひげ男爵のすぐ近くまで寄っていった。


 「ぐぶ……、なんだ? 余の花嫁にやはりなりたいと申すか? 一緒に参ろうではないか……。」


 青ひげ男爵が、血を吐きながら、魔力を膨大に集中させていく。


 アイ! いったいどうしたんだ?


 何をしているんだ!?




 すると、アイが身の回りの超ナノテクマシンを超巨大な手に変換させた。


 あ、アイの使っていた『シャドウアーム』か!


 しかし、それでもどうしようもないぞ……。




 「こ……の……! いやらしいク●ボゲがぁ! ワタクシのマスターを危険に及ぼそうだなんて……! その魂魄ごと消滅しやがれぇ!!」


 と、いつもの丁寧なアイとは違う、ちょっとお下品な口調で、その見えざる巨大な手で青ひげ男爵を掴んだかと思うと……。


 「二度とワタクシたちの前に姿を見せるな! 下等生物がっ!!」


 そう言って、アイは青ひげ男爵を思い切り投げ飛ばしたのだ!





 ピュゥウウーーーーゥウウーーーン……



 飛ばされていく青ひげ男爵だが、不敵に笑う。




 「がっはっは……。多少、遠くへ飛ばしたところで、余の魔力爆発の威力の範囲から逃げられるとでも、思ったのか!? バカめ!」


 と、そう言って青ひげ男爵は、自分自身が飛ばされていくほうをちらりと見て、衝撃を受けた。




 「なっ……!? アレは……! 『餓鬼魂』!! いや、まずいまずい! アレにだけは近寄ったら……!」


 と、言いかけた瞬間、青ひげ男爵の身体は瞬間でバラバラになり、『餓鬼魂』に吸い込まれてしまった。


 最後の瞬間、花火が光ったかのように、魔力爆発が一瞬、起こりかけたが、その魔力さえ、『餓鬼魂』は飲み込んでしまったのだ。


 まさに、ブラックホールに吸い込まれた超爆弾……ってところだな。




 「アイ! なんということを考えつくんだ!? すごいな!」


 「いえ。マスター。厄介事はひとつで十分でございましょう? あの『餓鬼魂』をなんとか致しませんと、まだ危機は去ったと言えませんよ?」


 「そうだな。アイ。でも、プラスとマイナスをこう打ち消し合わせるっていうの? そういう発想、よく思いついたな。」


 「あ、いえ……。(本当はただ、あのひげ野郎がムカついただけ……とは口が裂けてもマスターには言えませんね)ボソリ……。」


 「え? 何か言った?」


 「ああ、いえいえ。すぐに、あの『餓鬼魂』のもとへ参りましょう。」


 「アイ殿。オレも感服したぞ! あの極限状態での機転、さすがはアイ殿である!」


 「ヘルシングさんも、まだご油断召されませぬように!」


 「ああ、もちろん心得ている!」




 ****





 さて、防衛戦線を後退させ、『餓鬼魂』をなんとか抑え込もうと、複数の魔術師たちが、一生懸命、結界呪文を張っていたのだが……。


 「なんだ!? 急に『餓鬼魂』の魔力が膨大に膨れ上がったぞ!」


 「どういうことだ!?」


 「いや、それが、あの城から何かが飛んできて……!」


 「それを吸収した途端、魔力が一気に増大したのであります!」


 「なんだとぉ! なんとか持ちこたえろ!」




 急になにかが飛んできて、それを吸収したので魔力が途方もなく増大した『餓鬼魂』は、どんどん骨の身体を成長させていく。


 『龍』……、いや、『飛龍型』だ!


 空も飛べる最強の龍種、『飛龍型』の『餓者髑髏』だなんて、世界に出現した記録もない。


 おそらくは魔王クラス……。勇者でも滅することができるのかわからないほどであろう。




 ククルカンは思った。


 「これは世界の破滅かもしれん……。もはや我々程度のチカラでいつまでも抑えていることはできぬであろう……。」


 クラウン・バジリスクもククルカンの言葉に頷くばかりだった。


 「ククルカン様……。最後までお供いたしますぞ!」


 「おお! クラウンよ。おまえのような部下を持てて幸せであるぞ!」




 ヤム・カァシュも思った。


 「あんな化け物が生まれてしまうだなんて……。よりによって我が街のこんな近くに……。なんという運の悪さよ。」


 せっかく、『エルフ国』が一丸となって、敵の猛攻をしのいだかと思いきや、なんともできない圧倒的な災害がやってきて、全てをぶち壊していく……。


 そんな気持ちだったのだ。




 そんな中、イシカとホノリは、なんとか立ち上がれるほどまで回復したが、イシカの両腕は消滅したままであり、ホノリの片足も同じく消滅していた。


 「ホノリ! 最後まで時間をかせぐのであるゾ!」


 「イシカ! もちろんなのだ!」


 「我らはジン様のために……存在しているのだからっ!」





 彼女たちは再び立ち上がり、『餓者髑髏・飛龍型』に向かっていこうとするのであったー。




~続く~


©「魔王」(曲/シューベルト、詞/ゲーテ)




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